ガガーリン15 たぐいまれなる美しさ(1961年4月13日のガガーリンのインタビュー。イズベスチヤ&プラウダ版とタス通信版)
以下、私の拙訳で。
〔まずはプラウダから〕
記者にボストークからの眺めを訊かれて---
「すべては、高空飛行士が成層圏に上昇して眺めたものととてもよく似ています。
しかし、もちろん、宇宙からの方が視界は広く、色調は鮮やかで、濃く、少なからず高空飛行とは違う独特のものです。
太陽に照らされている地球の昼の面は大河、大きな貯水池、森、土地の起伏、海岸線が非常に良く見えました。
ソ連上空を飛行中、コルホーズの大きな四角い畑をとてもはっきりと見分けることができました」
海洋面がどう見えるを訊かれて---
「黒っぽく見えました。時折、ところどころまだらに輝いてみえました」
地球は丸いことを感じたかを訊かれて---
「もちろん、感じました。
地平線を目にした時、地球の明るい面から、真っ暗な空へのコントラストが効いたグラデーション(原文переход)が見えました。
私たちの惑星は、青みがかった光の輪にとりまかれているようでした。
この青みがかった帯は、少しずつ暗くスミレ色にそして黒色へとなっていきます。
(Наша планета была как бы окружена ореолом голубоватого цвета.
Потом эта полоса постепенно темнеет, становится фиолетовой, а затем черный. )
このグラデーションは言葉では言い表せないほど美しいものです」
宇宙船が地球の夜の面から昼の面へと向かう時の様子を訊かれて---
「まず、明るいオレンジ色の帯が現われます。
その帯はしだいに、ゆるやかに見覚えのあるあの薄青色に移り変わります。
そしてふたたび、濃いスミレ色へ、それからほぼ黒い色へ。
この色調の連なる光景はまったく筆舌しがたい美しさです。
(Сначала идет яркая оранжевая полоса.
Потом она очень плавно незаметно переходит все в тот же знакомый уже нам голубой цвет,
а затем снова темнофиолетовые и почти черные тона.)」
太陽、月、星に関して---
「太陽は驚くほど明るかったです。
目を細めても肉眼では見ることはいけません。
地球上で見るよりも、おそらく数十倍、あるいは100倍明るかったです。
とてつもない明るさです。星々も明るくはっきりと見えます。
宇宙空間の黒色を背景にひときわ際立っていました。
月は残念ながら見ることができませんでした」
〔イズベスチヤでは〕
地球の昼の面、夜の面、空、太陽、月、星がどうみえるかの答えとして---
「高度から、地球の昼の面はとてもよく見えました。
海岸線、島々、大河、大きな貯水池、土地の起伏を非常によく識別できました。
わが国の上空を飛んでいた時、コルホーズの大きな四角い畑を見分けることができましたし、
また、どこが耕地でどこが牧草地がわかりました。
かつて、私は1万5000メートルの高度に昇ったことがあります。
衛星船からの眺めは、もちろん、飛行機からの眺めよりははっきりとではありませんが、それでも非常によく見えました。
飛行中、私は初めて、自分の眼で地球の丸い形を見ることができました。
(Мне довелось впервые собственными глазами увидеть шарообразую форму Земли.)
地平線を眺める時と同じように見えます。
地平線の光景はとても独特でたぐいまれなる美しさだったことを語らなければなりません。
地球の明るい表面から、星の見える漆黒の空への色彩豊かなグラデーションを見ることができました。
その境い目は非常に繊細で、まるで地球の球体を取り巻く膜の帯でした。それは淡い青い色でした。
(Перехот этот очень тоненький, как бы пленка‐поясок,
окружающая земной шар. Она нежно‐голубого цвета .
(私メモ/пленкаは膜。薄皮。フィルム)
そしてこの青い色から黒への移り変わりはこの上なくなめらかで、美しいものでした。
言葉で伝えることはできません。
私が地球の陰から出た時、地平線は別のものとなって現われました。
地平線の上には、明るいオレンジ色の帯があって、それはしだいに再び青い色に、さらに濃い黒へと移り変わっていきました。
(На нем была ярко‐оранжевая полоска,
которая затем переходила опять в голубой цвет и снова в густо‐черный. )
私は月を見ませんでした。
宇宙での太陽は地球上で見るより数十倍も明るく輝いていました。
星は非常によく見えました。明るくくっきりと輝いていました。
天空のすべての眺めは地球で見るのよりもはるかにコントラストがあり、くっきりと見えました」
(私メモ:горизонт は地平線、水平線両方の意味がありますが、ここでは地平線と訳しました)
両紙、若干言葉が違っていますが、6の交信記録でガガーリンが伝えてきたことと重なることがおわかりいただいけると思います。
新聞を見る限りは、交信記録の詳細が公表されていませんので、
一般の人にとっては、この両記者によるガガーリンのインタビューが、
宇宙からの地球の様子に関する最初の克明な描写といえるかもしれません。
イズベスチヤの記事の訳は『ソ連人間宇宙船の成功』(8)にあります。
朝日4/14、毎日4/14(夕刊)、読売4/14(夕刊)にもこの記事の要約あり。
心地いいと感じる風景を思い浮かべることは、
心の緊張をほぐし、リラックスするためにいいと言われていますが、
美しい色を思い浮かべる時も、心が澄んだり、晴れやかになったりしませんか。
ガガーリンの言葉からそんなひとときを楽しんでいただけたらうれしいです。
〔追記 タス通信版〕
ガガーリンは地球と宇宙空間の境目の地平線の眺め(太字部分)にとりわけ心を動かされています。
同様の描写を4月13日のタス通信のインタビューでも語っています。
この原文は当時のソビエトの新聞「コスモリスカヤ・プラウダ(Комсомольская правда)」
1961年4月14日掲載のものをネットで閲覧できます。
その部分を抜き出してみましょう。
Во время полета, сказал Юрий Гагарин,
мне довелось впервые собственными глазами увидеть шарообразную форму Земли.
Такой она кажется, когда смотришь на горизонт.
Надо сказать, продолжал он, что картина горизонта очень своеобразна и очень красива.
Можно видеть необыкновенный по красочности переход от светлой поверхности Земли к совершенно черному небу,
на котором видны звезды.
Переход этот очень тоненький, как бы пленка-поясок, окружающая земной шар.
Она нежно-голубого цвета. И вот весь этот переход от голубого к черному происходит необыкновенно плавно и красиво. Даже трудно передать это словами.
А когда я выходил из земной тени, то горизонт представлялся иным.
На нем была, ярко-оранжевая полоска, которая затем переходила опять в голубой цвет и снова в густо-черный.
このタス通信のインタビューは、当時のサンケイ新聞、アカハタが紹介しています。
各紙から日本語訳を引用します。
サンケイ新聞1961年4月14日朝刊では
「飛行中、私ははじめて自分の目で地球が丸いことを見ることができた。
地平線の眺望がきわめて独特で美しいものであったことをいいたい。
地球の明るい表面から星の輝く全く暗黒の空へ移るときの不思議な色合いをみることもできた。
この移行部はきわめて薄いもので、ちょうど地球を取り巻くフィルムの帯のようであった。
それはやわらかな薄青色を呈していた。
薄青から黒への移行はきわめてなだらかに美しく行なわれた。
ことばではいい表せない。
地球のカゲから飛び出すと地平線は別のもののようになり、
オレンジ色の輝きを放ち、つづいてそれは再び薄青色になった。」
(私メモ:最後のи снова в густо-черный. の訳が省略されています)
アカハタ1961年4月15日では
「地球が丸いことをこの目ではじめてみた。
地平線のながめは、まったく独特でうつくしかった。
地球のあかるい面から、星の輝く暗黒の空に入るときのめずらしい色合いの変化をみえた。
この変化の部分は、ひじょうに薄く、地球をとりまくフィルムか、幅のせまい帯みたいで、うす青色だった。
うす青から暗黒へのうつり変わりは、とてもなだらかできれいだ。
なんともいえない。
地球の影から出るときは、地平線はまったく別物にみえ、オレンジ色に輝き、そしてまた青から黒へと変わる」
アメリカのニューヨークタイムズが1961年4月14日の紙面で、タス通信版のインタビューの英訳を掲載しています。
ニューヨークタイムズ関連記事は(ガガーリン78に)
During the flight, I was able, for the first time,
to see with my own eyes the spherical shape of the earth.
You can see it when you look at the horizen.
The view of the horizon was different up there and very beautiful.
You can see a beautiful transition from the bright surface of the earth to the completely dark sky,
in which the stars are visible.
This transition is very subtle. It is as though a film ringed the earth,
It is of a delicate blue color.
This change from the blue to the dark is very gradual and lovely.
It is difficult to render it in words.
And when I emerged from the shadow of the earth, the horizon looked different,
There was a bright orange strip along it, which again passed into a blue hue and once again into a dense black color.
-------
私たちは宇宙飛行士にならなくても、宇宙から見た地球の映像を享受できているので、
ガガーリンの言葉をききながら、「ああ、あの眺めのことね」と想像できます。
それができなかった当時の人はどんな風に、地球をとりまく美しい色合いを想像したのでしょうね。
----------------------
上記の「青」の表現は地球をとりまく薄い青い膜のようなものについて語った言葉です。
名言「地球は青かった」の元となったと思われる「地球は青みがかっていた」に関しては
ガガーリン10 ガガーリン62を中心にご覧いただけましたら。
ガガーリンINDEXはこちら
« ガガーリン14 合同インタビュー | トップページ | ガガーリン16 飛ぶことがすべて »
「 ガガーリン」カテゴリの記事
- 今日は4月12日水曜日(2023.04.12)
- ガガーリン103 映画『ガガーリン 世界を変えた108分』を観ました(2015.01.08)
- ガガーリン102 山梨県立科学館(甲府)に行ってきました(2014.04.30)
- ガガーリン101 プラネタリウム番組「はるか地球をのぞむ」。ガガーリンの言葉の翻訳を担当させていただきました。(2014.04.16)
- ガガーリン100 ソチ五輪の開会式でガガーリンが少し登場しましたね(2014.03.02)
コメント