ガガーリン7 交信記録を読んで
交信記録を見ると、ガガーリンは9時10分に、地球が見える様子を語っています。
ただ、これはまだ大気圏内で荷重に耐えながらの言葉。
周回軌道に乗ってからの9時21分「のぞき窓を通して地球、空、地平線を眺めています」が、
人類が宇宙からの地球を眺めを語った最初の言葉と言えるのかもしれません。
さて、肝心の<地球は青かった>に関する言葉ですが、9時27分に語っているのですね。
(最後に補足)
「地球の縁、地平線の際は非常に美しい青い光の輪になっています。
この光の輪は地球から離れるにつれ、暗くなっていきます。
По краю Земли, по краю горизонта такой красивый голубой ореол, который темнее по удалению от Земли.」
ガガーリンが感じた青は、シーニーではなくガルボイでした。
ですが、『地球という惑星が青かった』ではなく、宇宙空間との境い目の大気の層が青く見えたことを語っていたのですね。
今、あたりまえにのように、私たちが宇宙からの地球の写真で目にしている、あの青いオーラのような薄い層の色合いを。
ちなみに、『光の輪』と訳したのは原語ではОРЕОЛ(アリオール)。
露和辞書では光の輪、円光、後光、光背、ハレーションと訳されています。
英語ではhaloやオーラにあたるものです。
10時6分の「虹が~」のくだりはきっと、地球の夜の上空を飛び、夜明けを迎えた時、
太陽光線によって地表の縁が虹色のスペクトルに輝くさまを語っているのでしょう。
画像を2つご覧いただいていますが、
これはガガーリンが撮影したものではありません
(帰還後の会見で、地球の写真は撮影したかを聞かれ、機材を持っていっていないので撮影してません、と答えています)。
いずれもNASAのVisible Earth 、NASA IMAGESのパブリックドメインからの画像。
スペースシャトルから撮影されたものです。
ガガーリンが、青い光の輪と、地表の虹色の報告をした時に目にしていたのはきっと、こんな光景。と推測して入れてみました。
交信記録はかなりのボリュームです。
ガガーリンは宇宙船の操縦こそしないものの、宇宙船が正常に働いているか。
自分のコンディションはどうか。通信状態は良好かなどの連絡、計器の数字の逐一報告など任務はてんこもり。
その肉声を聴けるサイトはまだ確認していません。
ですが、地球の眺めを報告するくだりだけでも、
交信記録の所要時間と内容のボリュームから、いかに彼がスピーディーに語っているかがわかります。
なんと表現したらいいかわからず、言葉を詰まらせて沈黙が続くということはなかったはず。
初めて見た光景なのに、それを言葉でぱきぱき表現できるところに、
ガガーリンの文学的な才能を私は感じてしまいます。
特に、現代の私たちは宇宙からの地球のビジュアルを知っているからこそ、
ガガーリンの描写力、表現力の的確さに感嘆することができます。
彼は著書「ДОРОГА В КОСМОС(ダローガ・フ・コスモス/宇宙への道)」の中で、
感動することによって、美しさにみとれることによって、装置から目が離れてはいけない、
任務がおろそかになってはいけないと自分を戒めたと語っています。
それでも、ガガーリンは、<宇宙から見た地球を自分が世界中の人々に伝えなければ。
写真がないので言葉で伝えなければ>という使命感を抱いて、自分の目と心に地球の姿を焼き付けたのかなと思いました。
さて、9時27分。確かにボストークから、地球のまわりの青い大気の層の美しさを語っていますが、
この言葉が「地球は青かった」に訳されたのでしょうか。
(補足)
この続きはガガーリン10をご覧いただきたいのですが、前もって補足します。
日本で「地球は青かった」と訳されたガガーリンの言葉の原文はこの交信記録の中の描写ではありません。
地球帰還後に記者のインタビューを受けて「空は暗かった 一方、地球は青味がかっていた」と答えた言葉です。
この言葉が日本の各新聞に「地球は薄青」などの表現で大見出しとなり、すぐに「地球は青かった」という言葉づかいになりました。
この交信記録のコメントは日本で紹介されるのは少し経ってからになると思います。
他の資料を見ていくことにしましょう。
引用の文献を記していないものは私による拙訳です。
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