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2006年5月 8日 (月)

ガガーリン39 夜間飛行

38の続きです。
ガガーリン。いつからサンテグジュペリを知っていたのでしょう。
サン=テグジュペリは1935年にパリ=ソワール紙の記者として1ケ月モスクワに滞在しています。
その頃からソ連でも知られてきたのかもしれません。
ソ連でサン=テグジュペリ本がいつ出版されたのかはまだ調べはついていません。

ガガーリンが好きだと挙げた言葉二つがどんな場面で使われているのか。
手元にある新潮社文庫
夜間飛行堀口大學訳を開いてみると、
『ファビアン・・・二つの心臓・・・』のくだりはわかったのですが、『きみの道は星で舗装されている』というくだりが見当たりません。


夜間飛行のロシア語版があればすぐわかるのに、とネットで探すとすぐみつかりました。
そうなんです。ロシアの出版物はなぜかインターネットでもその本文全文が公開されている作品が結構あるのです。

早速、
夜間飛行のロシア語版と日本語で出版されているもの(堀口大學訳の新潮社版と、山崎庸一郎訳のみすず書房版)を見比べることにしました。
江川卓訳でも日本共産党版でも朝日新聞社版でも『きみの道は星で舗装されている』となっている箇所は、
堀口大學の訳で『あなたの道の行く手には星がまかれておりますわ』、
山崎庸一郎訳では『道はお星さまで舗装されているわ』となっていました。

『君の道は星で舗装されている』と随分ニュアンスが違いますよね。
ロシア語の紛らわしさのせいかもしれません。
ロシア語の2人称を表すтвойは、お前、君という男言葉のように使われる場合もあれば、
夫婦や家族など親しい間で相手を呼ぶ、お前、あなた、にも使われるのです。
なので、翻訳者が、ガガーリンがどこから引用しているのかわからず、あなたの道はではなくて、男子言葉で訳してしまったのでしょう。

これを機に、
夜間飛行をもう一度読んでみました。

この作品は、サン=テグジュペリ自身が〔飛ぶこと〕で体得した哲学が感じられる一冊ですが
、今回、「ガガーリンは登場人物の操縦士ファビアンとその若妻のどこに自分たち夫婦の姿を投影して共感したのだろう」
と思いながら読み返すと、いろんな発見がありました。

〔黎明期を支える冒険魂〕
ガガーリンは人類として初めて大気圏外に乗り出し、有人宇宙飛行を成功させました。
既に犬を乗船させた宇宙船が無事帰還していることで、生物への安全性はほぼ確認できていましたが、
無重力状態、放射線・・・どんな影響が人体に及ぶかわからない未知の空間です。宇宙船自体のトラブルもないとはいえません。
そんな未知の世界をガガーリンは自らの肉体で体験したのです。
そして後に続く宇宙飛行士に自らの体験を語りました。そのノウハウはソ連の宇宙飛行士の訓練にも活かされました。

一方、飛行機の操縦士たちにも危険な黎明時代があったのですね。
その一つが夜間飛行。

夜間飛行の序文にアンドレ・ジッドが夜間飛行の危険性を次のように書いています。

この小説に取上げられている時代には、なお極めて冒険的な事業であった。(中略)
人跡未踏の蛮地の探検と等しく、航空事業にあっても、英雄的な初期の時代があったわけだが、
あたかも空のパイオニアのひとりの劇的冒険を描いて僕らに見せてくれるこの小説『夜間飛行』は、
その当然の結果として叙事詩風な作品となっている。
(夜間飛行
堀口大學訳/新潮社)。

ガガーリンが〔宇宙飛行〕の黎明期を支えたのと同じように、
登場人物のファビアンやサン=テグジュペリ自身が〔夜間飛行〕が危険な時代に、命を賭けて操縦士の任務の礎を築いていた。
ガガーリンが、ファビアンやサン=テグジュペリに共感する気持ちがわかります。

〔南の果て〕

夜間飛行は郵便貨物飛行機の操縦士であるファビアンと妻、同僚、
そしてファビアン達が勤務する航空会社の支配人リヴィエールが描かれた話です。
その飛行区域は南米大陸の南端から、パタゴニア、ブエノスアイレスなど。
荒れた気象や南米の高地を覆い隠してしまう闇の怖さなどが描かれています。

今回読み直して、印象に残ったフレーズの一つがが「快晴。満月。無風」
飛行中の操縦士と無電局の係が交わすやりとりですが、これが一番ベストの飛行条件。
ならば、雨で視野がきかない、月の無い夜。嵐による突風の中の操縦はどんなに危険だったのだろうと察せられます。
ファビアンは暴風雨と燃料不足という危険にまきこまれますが同じ体験をガガーリンは北方勤務中にしています。
だからこそ、南の果てで勇敢に任務にあたるファビアンの姿に自らを重ねたのでしょう。

・ロシア語版 『夜間飛行/Ночной полет(ナチノーイ・パリョート』 が読めるのは
 こちらです。 ttp://lib.ru/EKZUPERY/nochnoypolet.txt
・本からの引用部分は文字を青にしています。

ガガーリンに40に続く。

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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