『小さなキミ』のかけがえのない時間
最近、電車の中や街角で、ちっちゃなお子さん&60代以上の二人組という風景をみかけます。
きっと夏休みで帰省したお孫さんとおじいちゃん、おばあちゃん。なんだかみんなうれしそうです。
私は子供がおらず、小さな存在というと甥3人(今は大きく成長)だったのですが、
祖父祖母、叔父叔母から見ると、たまにしか会えない子供達って
いとおしくて、エネルギーのかたまりで、
再会するたびにその成長に驚かされる存在なんですよね。
小さい身体だけど、まわりにたくさんのしあわせをふりまく子供たちを主役にした素敵な本があります。
『小さなキミ』(小学館)。グリコ幼児のみものの広告が反響を呼び、出版となったもの。
全国のお父さんお母さんによるわが子フォト&石田文子さんの詩による写真絵本です。
本は「誰かの親だったり、子供だったりする人へ」という言葉からはじまります。
子育て経験者はどの場面も「うちもそう」「あるある」と頭をぶんぶん縦に振りたくなるでしょう。
特に気に入っている一つは、子供が芝生をタッタッタと駆けてゆく写真と添えられた
「駆けてく距離がひろがっていく。ちょっと、さびしい。でもうれしい」という詩。
足の拙さがなくなり速く走れるようになってゆく子供の成長。
親のそばにいないと不安がっていたのに、
何かに興味を奪われてどんどん先にいってしまう子供がたのもしくもあり、
さみしくもありという想いがわずかな言葉で表現されています。
写真家がこの世界を四角く切り取り、印画紙に浮かび上がらせるみたいに、
文章家が言葉で世界を切り取り、形にするというのはこういうことなのか、
と教わった気がしました。
現在子育て中の方はこの写真を撮った親の目でご覧になることでしょう。
けれど、子供に縁のない人にも手をとってほしい本です。
私の場合、子供(飼い猫)---親(私)に立場を重ね、激しく共感しました。
猫ちゃんたちも面倒をかけられて時には疲れさせられるけどたまらなくいとしい存在なんですよね。
そして本をめくっていくうちに、いつしか登場する子供たちに自分を重ねていました。
4歳ぐらいまでは日常のディテールの記憶はないけれど、
私も親にこんな風にあたたかいまなざしで見守られていたんだと、
ふんわりとあたたかいタオルケットでくるまれたような気持になりました。
そしてこの本を読んだあと、街を歩き、行列に横はいりのおっさんに出会ったのですが、
こんなおっさんでも昔はちっちゃな子供で、
『小さなキミ』の中の子供達のように誰かの大切な存在だったんだなあ、
と思うといらつかず、ちょっぴり許せる気持になりました。
『小さなキミ』が粋だなと思うのは巻末に「あなたの大切な写真を貼って下さい」と写真を貼り、
文章を書くスペースがあることです。
私が子育てにてんてこまいしている娘を持つおばあちゃんだったら、
エールを送るつもりでこの本をプレゼントすることでしょう。
ここに娘撮影による孫の写真を貼って、一世一代の詩を脇に添えて。
子育てって、目の前の現実から3秒も目を離せない、
常に5秒先に起きることを予測していなければならない、毎日が勝負ときいています。
「大変って言ってもすぐ親離れするから今のうちが花よ」なんて慰められても、
育児に疲れてしまっている方も少なくないでしょう。
もし疲れきってしまっている方がこの本を読んだら「そうだよね。
ま、がんばってみるか」なんてエネルギーが湧くかもしれません。
一人で背負ってしまって「親」の立場になりつくしている方は、
ご自身をこの本に出てくる「子供達」側に投影してみてほしいものです。
「子」に戻って、どうか自分を甘えさせてあげてください。
親のあたたかい愛にくるまれていたあののひとときに、しばし浸ってみてはいかがしょう、なんて思います。
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