装填旅がらす 明日はいずこの星の下
「プラネタリウムの番組は打ち上げ花火のよう」。
これはプラネタリウム会社の方が取材を受けた際に語られた言葉。
さて、9月に入ってプラネタリウムを訪ねたら新番組準備のためクローズだったという方もいらっしゃると思います。
映画館はロードショーの入替えのために休館ということがないと思うのですが、なぜプラネタリウムには休館があるのでしょう。
今、多くのプラネタリウム館が番組の入替えシーズンを迎えています。
年4回、番組の入替えをする館が多いのですが、上映期間は9月上旬~12月はじめ。
12月上旬~3月はじめ。3月上旬~6月はじめ。6月中旬~9月はじめという日程が一般的。
これは、いわゆる秋の星座、冬の星座、春の星座、夏の星座の見頃の時期と合わせているのですね。
ですので、今の休館は9月中旬からの秋番組のための準備期間になるのです。
でも、「なぜ一週間ぐらい休むの?」と思われるかもしれません。
それは、プラネタリウムではいわゆる完パケがないため。
映画の場合、おそらく音も映像もフィルムに収録されていてそれを映写装置にセットすれば、すぐに上映できるのかなと思います。
だから、レイトショーを今日の夜遅くまで上映しながら、明日から新しい映画を上映できるのかな、と。
ところがプラネタリウムの場合、すべてが一つのパッケージに収まっていて、それをセットすればワンタッチで番組が始まる、星空が広がるという完パケはありません。
たとえば、30分番組の場合、構成要素の一つである音素材(使用する音楽とナレーションなど)を30分の尺でまとめた盤をつくることはできます。けれど、この曲のサビのところで流れ星が出る、というような演出すべてが一つに収まった完パケは作れません。
現場で専門の技術者が一つ一つプログラミングしていくものなのです。
これが「装填」「組み込み」と呼ばれる仕事です。
A館で上映した番組をB館でも上映という場合、
完パケをB館に持っていってワンタッチで再現というわけにはいかないわけですが、
A館でのプログラミングのデータをまるまるB館で入力すればOKというものでもありません。
施設によって、ドームの規模、導入されているプラネタリウムの機種、使える演出アイテムも違いがあるからです。
〔この曲の時に星がこの位置からこの位置まで動く〕という演出も、
規模の違うプラネタリウムでそのままおこなうと印象が変わってしまうことも。
ですので、館ごとに備わってるアイテムなどを活かしながら、臨機応変にアレンジをしなおすわけです。
たとえるなら、セミオーダーの制服のようなものと言えるでしょう。
基本のデザインは決まってる。けれど着る人の体型が一人一人違うから、
それぞれの人に合わせて、生地を詰めたり、仕立てなおしの調整をするというような。
さて、オート番組では、
空が暮れて満天の星が現われる。流れ星。雲。日周や緯度などの星の動き。
スライドがドームに投影されるタイミングなど。
すべて一つ一つープログラミングされてはじめてドームに星空がひろがり、演出が繰り広げられます。
私がオート番組を作らせていただいた時、演出シートと音素材と使用するスライドを装填担当者にお渡ししていました。
演出シートには、番組の頭から何分何秒のところで流れ星、とか、スライド1枚1枚のタイミングなどなど書き込みます。
ラストの曲で満天の星から夜明けの青い空にしたい場合は、
何分何秒のところで星が100%、ブルーライトは0%(ドームにめいっぱい青い光を出した場合を100%として)。
何分何秒後には星が50%でブルーライトが50%ぐらい、
というようにおよその時間とその時の星の明るさ、空の色のリクエストを書き込みます。
けれど、これは骨組みでしかないのです。
空を青くしていく演出を2分間使って0%から50%と記しても、
同じスピードでいくのか、出だしはゆっくりにして最後に一気に青くするのか、
指定で書き込めない細かな部分を装填担当の方が、こちらの意向や音楽の曲調を捉えて組み込んでくださいました。
装填担当者こそ、無を具現化する人。素材や演出シートを手に、
番組制作者の描いているイメージを汲み取って、形に変換してくださる人。
限られた時間で、緻密なプログラミングをしなければいけないハードな仕事です。
専門知識や経験ももちろんですが、「番組制作者」のイメージしているものを捉えてそれを形にするにはセンスも必要です。
それぞれのプラネタリウム施設のシステムの特性を把握して、臨機応変にアレンジする力も要求されます。
この装填業務をできる方が日本全国で何人ぐらいいるのでしょうか。
基本的にはプラネタリウムの2大メーカーである五藤光学さんとコニカミノルタプラネタリウムさんに所属。
あるいは、独立された方や、プラネタリウム番組の制作会社の一部の方。
だと思うので、日本全国でたぶん十数名。
人数を見ただけでも大臣になる方が簡単といえるほど少人数のスペシャリストが支えている仕事なのです。
それなのに、プラネタリウムは全国にあり、入替えがほとんど同時期に集中しています。
ですので、装填技術者たちは入替え時期には全国津々浦々をかけめぐります。
この5日間は九州で装填、中一日おいて次は北海道、その次は茨城というようにかけもちで渡り歩かれるようです。
私担当のオート番組を装填してくださった方も、初日上映を確かめた後、家に戻らず、すぐ遠方のプラネタリウムに装填に行かれました。
この番組を支える重要なパートだったわけですが、番組クレジットに「装填者」としてお名前はでませんでした。
緻密でハードな仕事を日夜取り組み、無事仕上がったのを確かめたあと、名乗りもせず、
「うまくいって、オレの役目は終わったな。じゃあ、あばよ」
と一陣の風とともに去る、みたいなかんじ。
その姿に、「旅がらすのようじゃ~」と思ったものです。
私がこうして書いている今も、日本全国の星の下で装填旅がらすさんたちが装填業務を続けています。
もし、プラネタリウムを訪ねて休館だったら、ぜひ、装填旅がらすさんたちが取り組んでいる最中なんだなと想像してみてください。
そしてもし、新番組の初日を見に行かれた方は、
昨日までこの番組の装填をした旅がらすさんは今はいずこのプラネタリウムの星の下に・・・
なんて想像してみてはいかがでしょうか。
またまた長文になってしまいました。
さて、冒頭の言葉は、夏番組取材のライターさんが、終わったばかりの春番組にも興味を持ち、
「今ドームの中で春番組を一部分だけでも拝見させていただけますか」とリクエストされた時のプラネタリウム会社の方の返答でした。
「打ち上げ花火みたいなもので、装填して上映して、番組が終わると、ばらしてしまってもう残っていないんです。
残念ですがすぐには再現できないんです」と。
データの控えは残るのでプログラミングをしなおせば再演できます。
それでも新たな番組がすでにセットされている中で別のものを装填しなおすのは日程的にもむずかしいでしょうし、
スライドの再度手配も必要。
プラネタリウムに映し出される星座絵も季節が終わればはずされてしまうことも多いので、
あらためて用意しないといけないかも。
と大掛かりな準備が不可欠。簡単にはアンコール上映はできないのです。
〔手をかけてつくった番組も再演がなければ、記憶の中に残るだけ〕ということを私自身実感していたので、
「打ち上げ花火」のたとえは本当にその通りだわーとしみじみと思いました。
プラネタリウムに満天の星を灯すために、いろんなところでいろんな人が携わっています。
きっとまだまだ私の知らないセクションもあるのかなあなんて思います。
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