大切なことは点で測れない---太田由希奈の滑り
太田由希奈の全日本でのフリーをみました。
怪我でフィギュアスケートから遠ざかる前の太田由希奈のスケートの題材や魅力を感じさせるものでした。
ショートでは黒鳥に扮し、クラシカルに情感豊かに。
フリーでは一転、情熱の色、赤~オレンジのコスチュームで「炎」に。
そして音楽も少し前衛的。はじめてご覧になって、意外と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、
太田由希奈は以前から結構前衛的、抽象的な音楽を使用したり、アグレッシブな振付で滑っていたんですよね。
モーリス・ラヴェルの「ツィガーヌ」を使ったプログラムや、ピカソダンスしかり。
上体をそらすレイバックイナバウアー他、
フリープログラムはそこかしこに以前からのファンがおお、と思うような
太田の今までのスケートがいろいろ盛り込まれたプログラムだったと思います。
さて、太田由希奈の一番の魅力は、表現力。
ジャンプやスパイラルというエレメント以外のつなぎの部分でも指先まで、目線まで心が配られた動き。
音楽とのシンクロで魅せることができるということ。
ですが、フリープログラムではうっとりとさせるところがショートよりも少なかったような。
それはジャンプをいくつも入れざるを得ないせいでしょう。
ジャンプの助走のために、大田ならではの美しい手の動きが少なくなってしまったり、ジャンプそのものの時間。
それらが「うっとりタイム」を減らしてしまいます。
ショートよりも長い演技時間なのに、「うっとりの濃さ」はだんぜんショート。
フリーでジャンプの転倒は1回だけ。思ったよりも成功していたのですが、ついはらはらみてしまいました。
ジャンプのシーンだけは、他の選手たちのジャンプが飛べた途端に「やったー」って笑顔になったり、
ガッツポーズが出たり、というスピード感、爽快感の方が印象に残りました。
フィギュアはやはりスポーツ競技。表現力の感動と同じくらい、
3回転、3回転半のジャンプがぴたっと決まることも感動をもたらすのですね。
ジレンマを感じました。
太田由希奈のフリーのジャンプのシーン。全部レイバックスピンにしたらどんなに魅せてくれるだろうと。
でもそれは採点競技では許されないわけだし・・・。
ジャンプで魅せるけれどそれ以外の演技でどうアピールするかが課題の選手がもいる中で、
太田由希奈の場合、ジャンプ以外で魅せられる美しさをジャンプでも魅せることが課題。
フリープログラムだけでは13位。
完治しない怪我を抱え、競技に挑む太田にとって、7~10位がせいいっぱいの力なのかもしれません。
最終グループの演技を見ていると、みんなジャンプも決めて、表現力もあります。
5分足らずの演技時間に自分のすべてを出し切れるよう、日夜、命を燃やしているのです。
どの一瞬も美しくあるように誰もがプログラムを練っています。
それでも、やはり、録画したものを再生リピートしてしまうフリープログラムは、
浅田真央、中野友加里、そして太田由希奈。それはファンだから、なのですが、なぜなのかしらと考えます。
日本の女子のレベルは高いです。
太田はジャンプ、ビールマンスピンは他の選手に今のところかなわない。
ポジションの美しさでは、太田が9だとすると他の選手も7ぐらいの力はあります。
それでも、ポジションの美しさのこの<2>の差が太田の演技をリピートして視てしまう理由なのかもしれません。
後ろに脚を伸ばしてバレエのアラベスクのポーズのようにスーと滑るスパイラル。
他の選手ですと、よくバランス保てるなあなんて思いながら観ます。
美しいな~と思ってみられる選手は何人か。
太田は群を抜いて姿勢が美しいです。フリーレッグがスッとスケートのエッジの先まで伸びていて、腰をぴんとそらして。
お手本というべきポジションの美しさ。片足を上に上げるY字も、あげる前、おろし方含めて、魅せ方ができているのは太田かなと。
他の選手の演技を見て、
[これは美しさよりも体が柔らかい。どうしてそんなバランスが取れるのかをアピールするポーズ]
と思っていたものに太田由希奈が、[美しさ7]を吹き込んでいく気がします。
「こんな風に手脚を動かすだけで美しさが生まれるんだ」と発見させてくれます。
その美しさをこれからも発見したいから、太田由希奈のスケートをもっともっと見たいなあと思います。
競技に出てもトップにならなくてかまいません。
テレビ中継される&EXを披露できる順位にだけなってくれれば、というのが願いです。
「大切なことは目に見えない」とサン=テグジュペリは『星の王子さま』の中で語りましたが、
「大切なことは採点では測れない」のですね。
競技の採点では測れない彼女のスケートの何かが、多くの人を惹きつけているように思います。
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