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2006年12月29日 (金)

おかえりなさい太田由希奈

フィギュアスケート全日本の女子シングルのショートプログラム。
太田由希奈がテレビに現われた時、こみあげてくるものがありました。
怪我から復帰した今年。地区予選からの出場で、調子もあまりよくないという話をきいていました。
全日本に出場することもないのかもしれないと思っていました。だからこそ、彼女が全日本のリンクに立っている。それだけで感慨ひとしお。
そして彼女のショートプログラム。順位こそ7位でしたが、ファンの欲目を除いても、他の選手とは違う何かがありました。

 

 

太田由希奈が名前を呼ばれ、リンクの縁から中央に登場します。
その時、観客に向かって、両手を上に挙げ、下ろすを何度かして、挨拶をしました。
すでにそのただの両手の上げ下ろしですら美しさを放っていました。

白鳥の湖で踊る太田由希奈。
ジャンプ、スピードなどの点では上位選手より点が出ないのは妥当かなと思いますが、
やはり、上体と腕、指先が誰よりも美しかったです。
どんな一瞬も、手が「でくのぼう」になっている時がなく、必ず腕と指先に表情があります。
腕を動かす様が「ぶんぶん」に見えるシーンは一つもありません。
(たぶん、太田由希奈だったら、ラジオ体操第一の振付でさえも芸術に変えられそう)

スケーターは表現力のためにクラシックバレエの素養をみんな取り入れていると思うのですが、
それでも2パターンに分けられると思います。
よりクラシック・バレエ的な踊りをする選手。同じ踊るでもチアリーダーのダンス的な動きをする選手と。
たとえば、ソルトレイクシティ五輪で競い合ったペア。
ロシアのベレズナヤ&シハルリトゼはひたすらクラシックバレエでしたね。

一方、カナダのサレー&ペルティエはチアリーダー系でした。
いろんなプログラムに取り組んでいましたが、基本は快活、腕ぶんぶん系。
好みもあるのでしょうが、私はだんぜん、クラシックバレエ系が好き。
だからこそ太田由希奈に惹き込まれます。

ところで、フィギュアスケートは華やかだけどスポーツだから、選手はアスリート。
演技が会心の出来だとかわいらしい女子スケーターであれ、リンクでガッツポーズをしたりします。
試合前、「緊張しますが、楽しく滑りたいです」と意気込みを語る選手も多いです。
試合中の実況者では、ジャンプがかろうじて決まると「こらえました」と表現。
観客である私達もスケーターがスパイラルでリンクサイドの観客のそばを通る時、選手が笑顔を見せることをつい期待したり。
実況も「いい笑顔です」「やっといい笑顔が出ました」と語る。
成功かミスか。難易度はどうか。それらが重要な要素。

それになんの違和感も感じませんが、太田由希奈にはこれらのことすべてがあてはまらないなあと、
だからこそ次元が違うってことなのかしらって思います。

曲調もあるのでしょうが、誰もスパイラルしている太田に笑顔でにっこりなんて要求しないでしょう。
演技に無心になっている太田に、あそこでにっこりは合わないし、
もし太田があそこでにっこりしたら、それは自分の世界に没頭できてないということでかえってがっかりかも。
ジャンプが万が一決まらなかったとしても「こらえました」というのとは違う。
採点は度外視でただただ「芸術」を見ている気持ちになります。

実際、彼女の演技の時の実況は、成功した、ミスした、というのとは違うところで語られていた気がします。
彼女よりも年上でプロとしてスケートを滑っている八木沼さんをもってしても
「こんなスケートを滑りたいと思わせる選手」といわしめる太田由希奈。
顔立ちがものすごく整っているというわけではないと思うのに、
リンクに現れると女神のような神々しさを感じさせられます。

完治のない怪我というようなことをきくと、できることに制限があって、本人はもどかしさを抱えながらのスケートなのかもしれませんが、
一切そんな無念さは感じられず、彼女のスケートへの美への捧げ方が伝わってくる演技。
ジャンプしなくていいから、そのために点がつかなくて上位にならなくていいから、演技をこれからもみせて、って願いたくなります。
いっそのこと、フィギュアスケートのカテゴリーにフィギュアスケート女子シングルとは別に、
ジャンプを重要視しないフィギュアスケートダンス女子シングルというのをつくってもらって、
村主、太田、浅田舞はこちらの枠で発揮してもらいたいですね。

テレビをみていてちょっと気になったのは、太田由希奈が安藤美姫や浅田の前の時代のジュニアチャンピョンというように紹介されていたこと。
正しいことではありますが、ニュアンスが違ってしまうような。
太田と安藤はジュニア時代、ともに同じ大会で競った上で太田がチャンピョンになったりしているわけです。
太田が安藤を破って優勝をしている。だからこそ、怪我するまでは安藤と並んでトリノでの活躍を期待されていたわけですし。
だからこそ、安藤が脚光を浴びていく一方、太田はスケートを引退しようまで思ったという過酷な試練が推測できるわけです。
そして、今年、地区予選出場からはじまって、全日本のリンクに立てたということに大きな意味があって、
多くの人が感動しているのですよね。その挫折と地道な這い上がりに。

今日のフリーも楽しみです。

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コメント

こんばんは、emiさん。紫乃です。
何度もお邪魔してしまって、しかもまたフィギュア絡みで申し訳ないのですが…。

私がフィギュアを観始めたのは去年からなので、太田由希奈さんのことは今大会で初めて知りました。
演技を観てすぐ注目選手の一人になってブログに感想を書こうかと思い、その前に何気なく「今日も星日和」にきてみたら…。私が思ったのと全く同じ感想を、既にemiさんが書いて下さっていました。
多分好みの選手がemiさんと似ているんだと思いますが、初心者の私とは違い、専門的にわかりやすく書かれているので尊敬してしまいます。

太田選手はどちらかというと丸顔なのに、演技中はシャープな美しさ、独特の佇まいがあるな、と思って観ていました。

毎回感想が似てしまって真似しているみたいで申し訳ないのですが、本当にいつも共感できるのでコメントしてしまいました。
それでは失礼いたします。

紫乃さん。何度もお邪魔だなんて。何度でも何度でも訊ねてくださいませ。そして今大会ではじめて太田由希奈を知り、すぐに注目選手の一人になったっていうことにうれしくなりました。浅田安藤でメディアが加熱している中、それ以外の選手でも、演技をご自分の目で見て、そして惹かれた紫乃さんに。
感想が似て真似しているみたいなんてとんでもない。同じように感じられる紫乃さんがいてうれしいです。そして「演技中はシャープな美しさ、独特の佇まいがある」という紫乃さんならではの表現もいいなと思いました。まさに「独特の佇まい」ですね。

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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