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2007年1月 8日 (月)

あらためて女帝エカテリーナの恋文に興奮

本屋さんで「恋文 女帝エカテリーナ2世 発見された千百六十二通の手紙」(小野理子 山口智子著)をみつけて買って一気に読みました。
あらためて、2006年秋に放送された山口智子出演のドキュメンタリー「女帝エカテリーナ 愛のエルミタージュ」も視て。そして、エカテリーナ2世と山口智子の情熱に煽られました。

以下、長文です。

恋文 女帝エカテリーナ二世 発見された千百六十二通の手紙

今さらながらですが、2006年10月24日に放映された「女帝エカテリーナ 愛のエルミタージュ」は女優が街案内をする紀行番組とは一線を画していますね。

山口智子がロシアの女帝エカテリーナ2世が恋人ポチョムキンと交わした恋文を元に二人の愛を探る。エカテリーナの人間性に触れるためにロシアを旅してエルミタージュ美術館も巡るというスペシャル番組なのですが。

最初に企画があって山口智子がたまたまキャストされたのか、彼女自身がエカテリーナの恋文の翻訳本に感動して自ら動いたものなのかわかりません。ですが、エカテリーナとポチョムキンの愛に感動し、それを全身全霊で伝えようとする気迫が画面から伝わってきました。

エカテリーナの恋文に惹かれ、翻訳者小野理子さんを訪ねてお話をきき、現地に行って、恋文をまとめた研究家に会い、また、エカテリーナとポチョムキンの娘といわれているチョムキナの子孫にも対面。
番組ではぐいぐいと見ているものを惹き込むその天衣無縫さ。本では直感的な言葉で鋭く語る感受性の豊かさ。山口智子。すごいなと思いました。

たとえば、エルミタージュ美術館を訪れて、様々な絵を眺める山口智子。通常の紀行番組でしたら、おごそかな空間を壊さないようにひそやかな声で絵の解説をするでしょう。
ところが、この番組の山口智子は、絵を前にして感じるままほとばしるように語ります。
ダビンチの聖母子像の前では、目を輝かせ、「色が美しいね。なんと美しいブルー。なんと美しい赤」とたたみかけるように。

シナリオが事前にあるのか、その場でのアドリブで、それをカメラが撮っているのかわかりません。
おそらく彼女の生(き)の言葉でしょう。受け取ったままを情熱的に言葉にして、駆り立てられるように歩き回る山口智子。
絵やロシアの風景の中で女優が被写体として美しくおとなしくカメラに納まるのではありません。彼女が動く動く。カメラが追う。
絵を静かに向かい合うというのではなく、絵を前にして情熱的に語る様子はまるで作品のエネルギーと一体化してタンゴを踊っているかのよう。

あらゆる場所で、ロシアの大地のエネルギーそのものに突き動かされているように躍動する山口智子。そのナビゲートによって、今まで、本を何冊読んでも、血の通った生き生きとした人として感じ取ることができなかったエカテリーナ2世を生身の人間として強く存在を感じることができました。

番組や本で紹介されている、10歳年下のポチョムキンに送った恋文のなんと甘美なこと。その数1162通!
紹介されているのはそのごく一部ですが、どれも情熱的で、恋愛をしている誰もが普遍的に想うことが書かれていて、エカテリーナも一人の女性だったんだなってほほえましくなります。

たとえば、
「自分の中の情熱をあまりさらけ出すまいと思うこともしばしばなのですが、やっぱり現してしまいます。だって一杯になったものは、溢れるしかないのですもの」 (レター20から抜粋)
「私もあなたが、大、大、大好きよ」 (レター83から抜粋)
「わたしはぬかるみを歩くのは嫌いだけど、あなたと一緒ならどこだって楽しいし気持ちいいわ (レター164より)
※いずれも「恋文」から小野理子訳

一国を治める女帝が一人の男性に現す恋心。感動します。うーん。原文マニアとしては彼女の恋文の原文を読みたいです!!

45歳の頃、エカテリーナはポチョムキンと秘密の結婚式を教会で行い、そしてひそやかに子供を産んだらしいというのもあっぱれです。(追記 出産したのは46歳だとか)。番組の中では、山口智子がその子孫といわれているアンドレイ氏と対面。
アンドレイ氏の顔に、肖像画でしかみたことはないけれどエカテリーナやポチョムキンの顔立ちの面影があって、なんだか私までジーンときました。

山口智子は、本の中で、ロシアの印象を
「野菜にしても大地に育まれた野菜本来の正しい味。滋味」「人々も本来の人としての味がちゃんとまだ残っている」「想像を絶するほど広大な空の面積には圧倒されました。(中略)サンクトペテルブルクのような都会でも視界の八割九割を空が占めていて、その果てしのない、大きな雲が風を味方に付けてまるで大きな志の如くグングンと突き進んでいる感じ。(中略)雲が流れるロシアの大地を肌で感じました」
と語っています。

ロシアって自然や人だけではなく、車や列車も無骨。エスカレーターの一段一段の|||||||となっているところも、恐ろしく幅が広かったり。野菜は野菜。人は人。機械は機械、鉄は鉄、みたいな印象を私も受けていたのでこの言葉にうれしくなりました。

少し脱線しますが、この本の中で、ロシアの雲は突き進んでいくと語る山口智子に、小野理子さんが、ロシアでは雨も歩くからと語ります。大都市でも空が広いので、遠くに雨雲があり、それが近づいてくるのが見える。歩いてくるようにみえるからと。

ロシア語で、確かに雨が降ることをイジョート ドーシチ。といいます。ドーシチは雨。イジョートが歩いて移動するという意味の「イドゥー」の三人称単数形。なぜ、イジョートを使うのか気にも留めなかったのですが、確かにモスクワでも空が広く、遠くの雨雲がだんだん近づいてくるのがみえるのです。東京ではよほど高いビルの展望台に行かなければみられない光景ですが。
雨が歩くというロシアの感覚がすごく腑に落ちて感動しました。

さて、淫蕩ともいわれていた女帝エカテリーナの豊かな愛情、少女のような乙女心さえも明らかにする恋文の数々。それをこつこつとまとめあげたロパーチン博士がいたからこそ、私達がエカテリーナの従来のイメージとは違う姿をみつけることができたのですね。

山口智子は本のプロローグで、ロシアで感じた二人の想い、わかったことについて
「太古の昔に深海に沈んだ樹液が、遥かなときを経て美しい琥珀となり、この地上に再び姿を現すように、「真実」は、いつか必ず人の心に届くのだということを。真(まこと)の心は、人間を動かし、この世界をも動かす力を秘めているのだということを。恋文に綴られた真実の言葉」
と記しています。

エカテリーナ宮殿に琥珀の間があるように、ロシアの大地とエカテリーナと琥珀は切っても切れない関係。その琥珀をたとえに挙げるあたりにも、彼女の文才を感じました。

番組で特に印象的だった一つが、クリミアの大地での1シーン。
真の国の統治者にとっては、贅沢品ではなく自分の国が繁栄し、民が平和に暮らすことが一番のよろこび。そんなことが語られていました。
だからこそ、ポチョムキンはエカテリーナへの真実の愛を捧げるために、自分が当たられた大地を豊かなものにしたのでしょう。
この場面、美しかったです。光が燦燦。木々の緑が茂り、果実がなり、風がそよいで。
『豊かさ』ってこういうことなんだと感じました。
今の日本。市長、知事誰もが自分の治めている場所が「豊か」になることを望んでいるのでしょうが、その豊かってどんなビジュアルを描いているのでしょうか。大きな商業施設が並び、幹線道路を車が行き交い、っていうビジュアルなら「さもしい」です。彼らが、おだやかで満ち足りた笑顔やそよ風、光、さえずりを街の発展予想図の一つとしてイメージできたら何かがもっと変わるのかも。

画面に出てきたポチョムキンが興した街。ロシアでは温暖とはいえ、冬は東京あたりに比べたら過酷な自然環境なのかもしれません。日本の水準と比べたら、医療や教育、福祉など劣り、繁栄とはいいきれない面もあるのかもしれません。それでも、木が茂り、おいしそうな果実がなっている風景からは、しあわせな「楽土」のような空気が溢れていて、大気の中にエカテリーナやポチョムキンが見守るまなざしやよろこびが満ちているような感じがしました。

山口智子はシャーマン的ですね。心を真っ白にしてエカテリーナとポチョムキンを、ロシアの大地を感じてみたい、と本の中で語っていますが、真っ白にした彼女の中に、エカテリーナの情熱が降りてきているかのよう。
番組の中で、夢見るようなまなざしをしたり、情熱的に語ったり、ロシアの大地の上で横たわったり。
そんな様子や彼女の表情から、視聴者の私たちがロシアの大地のエネルギーを追体験できる。
肉体で表現する女優という職業と言葉で表現する文才の二つを生かして、映像と本で、自分が惹かれた世界を追求し、それをみんなに発信できる。
うらやましいです。でもそれは誰にでもできることではないでしょう。すごいなと思いました。

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コメント

 仕事の休憩中に、ふと山口智子さんのエカテリーナ王妃の番組を思い出しネットで見ていたら、このブログにヒットしました。私もあの番組を見て心を打たれた大勢のうちの一人です。あの番組は衝撃的でした。もともと美術史が好きで、ハプスブルク家の研究もしたことがあるのでこの分野には興味がありましたが、そんなこと関係ないほどこの番組は“生きていた”。夢中になって二度三度見て、本も読んで..。こんな素敵で質のいい本気の番組が増えたらどんなに日本のテレビ業界の質が上がるだろうと感じ、同時にこれを作ってくれた局と番組サイドに感謝してしまいました。
 気が休む間がないほど、彼女の新鮮で素敵な感想は大いに私の心を揺さぶってくれました。曲も、服も、彼女の番組への取り組み方も、本当によかった。
 レポーターがいる紀行番組では、レポーターたちはとても勉強して行っています。だけど彼女たちがああしたくても、番組の型破りはできないから、、そこは女優山口さんの実績の力です。それと情熱と、周りを巻き込む説得力!
 私も書籍の冒頭の琥珀を引用した文に、感激しました。こんな素敵な表現をされるんだ..と。番組でもまさに同じく、人が本来の味がする、という部分と、ロシアの空と雲に触れたシーンで、グワッと心をつかまれました。素晴らしいのは、こんなに同感できる、人が見て心では感じても言葉にするとうまくいかない部分を彼女はさらりとまっすぐに代弁してくれたこと。
 彼女があちこちで歌うポーリュシカ・ポーレは、懐かしさと哀愁をたたえたメロディーなんだけど、彼女が歌うとぜんぜん悲しくなく、だけど強く印象に残りました。その週はずっとあのメロディーに染まっていましたから!美術展を観覧しに行きましたが、ずっとついつい頭の中で鳴っていました。
 長くなって申し訳ありません。初めて書き込みというものをしました。予想外に番組を批判する声があったので悲しいなと思っていたんです。何も言うことがないほど本気の作品だったのに。
そして、忘れられなかったことと、emiさんがつい最近このことに触れられていたようなので、とっても嬉しくなってしまったのです。
 そういえば、二年前の冬くらいにNHKで放送された記念紀行番組で、銅版画家の山本容子さんとドイツ文学者の大学教授、池内紀先生が出演された、プラハ・ウィーン・ラインドナウ川紀行も感動の番組でした。池内教授が気さくな方で、語られる言葉の一つ一つが心を打ちました。山口さん同様。さりげなく話されるんですが、深い研究と探究心に裏打ちされた感想だな、と感じたのです。
 また、emiさんのすてきなブログ書き込みを楽しみにしています。
 では。

sayaさん。はじめまして。sayaさんがあの番組を夢中になってご覧になられたことが伝わってきました。本当にいい番組でしたよね。ネットを通じて分かち合えてすごくうれしいです!
「この番組は“生きていた”」そのお言葉の通りだと思います。
山口智子の情熱と、周りを巻き込む説得力etc.sayaさんの書かれるお言葉一つ一つに同感同感とうなづいています。
そして、やはり本の冒頭の琥珀の引用に感激されていらっしゃるのですね。
ポーリュシカポーレもよかったですよね。あと、エカテリーナ宮殿でしたかしら、広間で「黒い瞳」を歌いだしますよね。山口智子がカメラ&スタッフに向かってちょっと茶目っ気のあるコケティッシュな視線を送りながら。黒い瞳はまさにポチョムキン。それを思って歌っているのかななんて思いました。

私事ですが、あの番組を見て小野理子さんを知り、東洋書店から出ている小野さんの「不思議な恋文」を買って読まなきゃって思いました。ところが部屋の本棚にあったんです。しかも、ラブレターのいろんな言葉にアンダーライン引いたり、秘密の結婚をあげていたらしい、みたいなところにもラインマーカーが。それなのにこの本を読んだ覚えがない自分の記憶力にも自信をなくしましたが、たぶん、私が本を読んだだけでは「生き生き」と思い描けなかったからだと思います。
今回の番組を観たあとに、本を読み返したら、するする頭にはいりました。いかにあの番組が鮮烈に心に訴えるものがあったかをあらためてしりました。
sayaさんは美術史、ハプスブルク家に造詣をお持ちなのですね。山本容子さんと池内教授による紀行番組、見逃してましたが、sayaさんのお言葉でいい番組だったんだろうなって思いました。
ブログでは書きたいことがいっぱいでアートに関してどのくらい書いていくかわかりませんが、ぜひぜひこれからも時折ご覧なりにいらしてくださればうれしいです。

そう、「黒い瞳」を口ずさむシーンも好きな場面のひとつです。嬉しいな♪
紹介してくださった「不思議な恋文」、さっそく探してみたいと思います。興味津々です。
ではこの辺で。

sayaさん。いろんな感覚、一緒で私もうれしいです♪「不思議な恋文」、薄いブックレットですけれどいろんなことが書かれています。
あの番組を拝見したあとだと、するする頭にはいりますよ。

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emi (秋田恵美)

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。
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