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2007年2月 7日 (水)

ガガーリン62 再度当時の新聞(日本編)

ガガーリンの来日シリーズからそれますが、1961年4月の新聞をまた調べなおしています。
ガガーリンが人類初の有人宇宙飛行をおこなった1961年4月12日から報道が一段落する17日ぐらいまでの新聞を。
今までは朝日、毎日、読売の3紙を主にチェックしていたのですが産経も加えました。

 

 

はじめて知りました。産業経済新聞の東京版と大阪版。
紙面構成がかなり違っているんですね。
今まで、一面などメインのところは全国共通で、ローカルニュースのところだけが、
東京版とか埼玉版とか大阪版にさしかえられていると思っていたのです。

4月12日からのガガーリンの記事だけを追ってみても、産経の東京、大阪両紙違います。
たとえば、同じ記事を載せながら、写真が違う。見出しがちがう。
同じ座談会の記事であっても、談話全部がおさまりきらないせいか、ピックアップしている箇所が違う。
こうなると、調べ済みの朝日他の新聞も大阪版ではどういう風に報道されたのか、など調べ直す必要が
あるかもしれません。

さて、ガガーリンのカテゴリを拝読してくださっている方々には、ディジャヴュのような繰り返しになりますが、
もう一度「地球は青かった」という言葉について簡単にまとめてみます。

私の推測では「地球は青かった」というガガーリンの言葉の原文は「ゼムリャー・ガルバヴァータヤ」
4月12日にガガーリンが宇宙から帰還後、着陸地点でソビエトの新聞イズペスチヤのオストロウーモフ記者と
プラウダのデニソフ記者の問いに答えたときの言葉です。
イズベスチヤでは「空はとてもとても暗かった。一方、地球は青みがかっていた」となっています。
プラウダでは空についての問いに対する言葉としてガガーリンとのやりとりを
「暗かったです。同士諸君。とても暗かったです」
「一方、地球は?」
「青みがかっていました。まるで大きな球のようでした。すばらしい光景でした」

と記しています(ガガーリン10参照)

それを日本の各紙はどう伝えているのか。どのくらいインパクト持って伝えていたかを察していただくため、
新聞の一面を代表する見出しを特大。その次が大見出し。
記事全体の見出しを中見出し。記事の中の章的な見出しを小見出し(あくまでも私の目分量)
という分類付きであげてみます。

【朝日新聞では】
4月13日夕刊1面。
大見出し 空は暗く、地球は青色
以下少し小さい文字で 
米・アフリカ沿岸など識別 イズベスチヤ紙 衛星船着陸ルポ 
ガガーリン少佐語る

これに続くリード文は
十二日の「夕刊モスクワ」は初の宇宙飛行者ユーリ・ガガーリンの着陸状況を現地から報じているが、
無事着陸したガガーリン少佐が「空はとっても暗かったが、地球は青みがかってみえた」としゃべったことなど
前後の模様を詳しく伝えている。

本文の該当箇所は、
ガガーリンは質問に答えて「空はとても暗かったが、地球は青みがかっていた。みんなとてもよく見えた~
(以下、私による略)。

【毎日新聞では】
4月13日朝刊1面。
特大見出し ソ連人間宇宙船、地球に還る 
大見出し 米国、アフリカよくみえた 
中見出し ガ少佐語る 空暗く地球は薄青 
そして 本文に
記者の質問に答えてガガーリン少佐は次のように述べた。空は非常に暗かったが、地球は薄青色だった。
みんなよく見えた


4月13日夕刊1面 
大見出し 地球は青く灰色に 町や山河もわかる 
本文は
「薄青い地球」「空はまっ暗だった。しかし地球は青味がかっていた。地上はよく見えた」

【読売新聞では】
4月13日朝刊1面。
特大見出し ソ連、人間宇宙旅行に成功
大見出し 地球を一周し着陸 ガガーリン少佐
中見出し 宇宙船を降りて抱擁 ヘリコプターで近くの町へ 
そのあと小見出しもなく本文中に以下の記述
着陸後少佐は「宇宙旅行中、空はとてもとても暗く、地球は青みを帯びていた。
すべてのものは非常によく見えた」と語った。


4月13日夕刊1面。
大見出しは ソ連は“ガガーリン・デー” 空前の歓迎を準備
そのあと小見出しもなく、本文の中の一つのくだりとして、以下の文章。
ガガーリン少佐は「飛行中、上の方は本当に真っ暗だったが、
地球は明るい空色にみえた。海も山も大きな町や森までよく見えたが、
海は小さい湖水のようだった」と視界がきわめてよかったことを語っている。


ここまではガガーリン10で書いていたのをまとめただけです。

ここからが産経新聞。
【産経新聞(東京)では】
4月13日朝刊1面。
特大見出し 宇宙人第一声“気分よろし” 
大見出し ソ連の人間宇宙船飛ぶ 
中見出し 着陸後すぐに歩く
のあと小見出しもなく以下の文。
記者の問いに答えてガガーリン少佐は次のように述べた。空は非常に暗かった。
地球は薄青色だった。みんなよくみえた。
米国の沿岸、アフリカの沿岸、大きな湖さえ私が飛んでいる高さから見分けることができた。


【産経(大阪)では】
4月13日朝刊1面。
特大見出し ソ連、初の宇宙人 無事に生還 
大見出し 地球一週後に下降 乗員はガガーリン少佐
    ”薄青色の地球” ガ少佐語る
 
本文は
記者の問いに答えてガガーリン少佐はつぎのようにのべた。
空は非常に暗かった。地球は薄青色だった。みんなよく見えた。
米国の沿岸、アフリカの沿岸、大きな湖さえ私が飛んでいる高さから見分けることができた。


4月13日夕刊1面。 
大見出し “快適だった宇宙飛行” 
    ガ少佐 フ首相と電話で対談

       わが家にいる気分 各国はソ連に続け 
小見出し 青かった地球  イズベスチャ記者に語る
本文は
記者の問いに答えてガガーリン少佐はつぎのようにのべた。空は非常に暗かった。地球は薄青色だった。
(以下私による略)
***********************************************************************

産経夕刊には「笛」という天声人語のようなコラムがあります。
4月13日夕刊の笛でガガーリンのことが書かれています。
コラムの冒頭の言葉は
“宇宙は真っ暗だ。地球は薄い青色に見える。
大きな海水もみえた”と、宇宙から地球をみたガガーリン少佐は、そういっている。

となっています。

以上の4紙をみて、いえることは4つ。

1)やはり「地球は青かった」というガガーリンの直接話法のように書かれているものはありません。
ガルバヴァータヤという言語のニュアンスどおり「青みがかった」「薄青」という言葉で訳されています。

2)「地球は青みがかっていた」と語るのは帰還後、最初に受けた記者インタビューといえるでしょう。
ですので、帰還後第一声と言っても間違いないですが、新聞にも書かれているように、かなり長く
いろいろ答えた中の途中ごろに、ガガーリンは、空は非常に暗かった、地球は青みがかっていたと
語っているので、厳密には帰国後第一声が「地球は青かった」とは言いがたいでしょう。

3)朝日、毎日、読売、サンケイ四紙ともに、
出典元はイズベスチヤの同じ記事なので、
本文の訳し方はほぼ同じですが、見出しがまったく違うことにおどろかれます。
「地球は青みがかっていた」というくだりに一番反応して、大きく扱っているのが産経の大阪といえます。

4)地球は青かったのあとに、神はどこにもいなかったという言葉が本当は続いていた、
という説もあるようですが、このイズベスチヤの記者によるルポでみるなら「
地球は青みがかっていた」の前後にも「神発言」はありません。

さて、気になるコラムが一つあります。
それは4月15日産経(東京)(大阪)の朝刊共通のコラム「声なき声」です。
この中で、
「空は黒く、地球は青かった」という彼の第一声も新しい宇宙人としての実感にあふれていたが、
と書かれているのです。
「地球は青みがかっていた」が、「青かった」となり、第一声と表現されています。
コラムはこのあと、ガガーリンが語った無重力状態のことを紹介しています。

もう一つ気になるのは、産経(東京)の4月13日朝刊の1面。
宇宙船からのガガーリンのメッセージをタイム表示つきで書いてあるのですが、
9時33分に送られてきたメッセージの中に
地球が見える。青いもやに包まれている。
というのがあります。これがイズベスチヤにも日本の他の新聞にもみあたらないのです。
もやに包まれているという表現はあるのですが。なぜ「青い」がついてしまっているのか。

長文になってしまいましたが、「地球は青かった」というキャッチーな言葉でクローズアップされていく過程や、
当時の人がこれらの記事で何を頭にインプットしたんだろう、ということを察するヒントにしていただければ
幸いです。

ガガーリンINDEXはこちら

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ガガーリン」カテゴリの記事

コメント

はじめまして
産経新聞社の記者で佐々木正明と申します。
ガガーリンについて、インターネットで情報収集していたら、このサイトを見つけました。
すばらしい内容ですね。現役記者も脱帽です。
ガガーリンについて、秋田さんの新しい情報かもしれません。
拙ブログをのぞいてくださいな。

http://sasakima.iza.ne.jp/blog/entry/150804/

佐々木正明さん。はじめまして。ガガーリンの記事をお読みくださりありがとうございます。
早速佐々木さんが書かれていらっしゃる新聞記者ブログ拝見しました。

ガガーリンの懐中時計を持っていらっしゃるのですか。ロシア語の達人でいらっしゃるのですね。ロシアにも2年住んでいらしたなんてとてもうらやましいです。

佐々木さんのブログ。白チェブも愛らしいですし、ロシアのいろんなことを書かれていらっしゃるのがとても興味深く。これからも訪ねさせていただきます。

秋田さんのページがあまりにもすばらしいので、私の拙ブログのなかに、転載アドレスを入れました。
また、ちょくちょく、訪れますね。
ありがとうございました。

佐々木正明さん。
おほめいただき光栄です。そしてご紹介ありがとうございます。
早速、佐々木さんのCool Cool Japan! もう一度拝見させていただきました。4月13日の記事で紹介されている当時のアガニョーク。佐々木さんご自身が持っていらっしゃるということですか?
貴重なロシアのお宝資料、ガガーリン関係もいっぱいお持ちでいらっしゃるのでしょうね!

ご紹介されている「地球は優しく光る淡い水色だった」というお言葉。これはニエジヌイが使われているフレーズでしたでしょうか。
さしつかえなかったら、ぜひぜひこちらの原文を教えてくださいませ。

私は大人になってからロシア語を始め、まだまだ諸先輩に比べロシア語歴が浅いのです。不完了体、完了体、接続詞の微妙さとかむずかしいです。
まだまだ勉強中の身だからと断りを入れて、拙いロシア語訳をブログで書いておりますが、もし佐々木さんがご覧くださった範囲で、「これは明らかに直した方がいいでしょう」とお気づきになられているところがありましたら、遠慮なくおっしゃってくださいませ。

最近はガガーリンシリーズお休みしておりますが、当時の海外の新聞での紹介のされ方も私が調べられた範囲内でとりあげたいなって思っております。

秋田恵美さん

フィギュアスケートにも興味をもってらっしゃるのですね。僕も美と技、力を兼ね備えたスポーツはとても好きなので、フィギュアには格段の思い入れがあります。
拙ブログでも書きましたが、ロシアはなぜ、フィギュアスケートとシンクロナイズドスイミングが強いのかということを書きましたが、これは、クラシックバレーを小学校の体育でやるほどに、なじみがあるからだと思っています。
クラシックバレーで基本ラインができあがるのですよね。

ロシア語については、私も達人の域まで達しているわけではないですが、秋田さんの訳も気に入っています。

ガガーリンはあれほど巧みな表現をしていて、詩人だったのですね。当時は、共産党のPR部みたいなところがあって、おそらく、修正したでしょうけど、原文を見ていると、あれは本人の表現だったのですね。

それから原文ですが、http://sasakima.iza.ne.jp/blog/entry/151395/
の一番下にあります。こちらで、「ガガーリンはなんといったか」という見出しのところにあります。なぜか、すでに原文は削除されていて、キャッシュで見るだけになっています。

僕は、ニージュヌイ・ガルボイという言葉を「優しく光る淡い水色」と訳しました。
ニージュヌイを色につけるのは、ロシアの独特な表現だと思います。「優しい水色」というのを、「優しく光る」というふうに訳したのですが、もっとうまい表現があるかもしれませんね

佐々木正明さん。こんにちは。
佐々木さんもフィギュアスケートがお好きでいらっしゃるのですね。
ロシアでは小学校でクラシックバレエをしているのですか。そうしましたら、「振り付け」ではなくて「所作」としてクラシックバレエの動きを身につけることができるのでしょうね。

私の訳も気に入っているとおっしゃっていただきありがとうございます。

佐々木さんが訳された”ニージュヌイ・ガルボイという言葉を「優しく光る淡い水色」”
とても素晴らしいと思いました。
ガルボイにしても淡青色という言葉だったりすると、ひびきも詩的でないですし、色も浮かびづらいです。
「ニージュヌイ・ガルボイ。優しく光る淡い水色」と口にすると、すーと宇宙から眺めた地球の光を帯びた青い色が心の中に広がっていきます。

翻訳って辞書に載ってる1つの言葉の訳だけを字面で訳すのではなくて、もっと自分の感覚で発した人が言葉に託したイメージをつかんでそれを丁寧に変換していくことが大切なのかしら、なんて
勉強になります。

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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