プラネタリウムと落語(話芸&想像力)
プラネタリウムという空間はたくさんの可能性がある空間ですね。
ドームをスクリーンにみたてて、映像の投影ができる。
映像も映画のスクリーンとはちがって、半球状になって360度広がっていることから、
景色の中に吸い込まれてゆくような感覚が味わえたり、
星や雪や降ってくるような感覚が味わえたり、視覚を利用したいろんな演出が可能です。
コンサートも講演会もできます。
客席が階段状になっているプラネタリウムではファッションショーというのも見に行ったことがあります。
いろんなアイデアを様々なジャンルの人が注ぎ込み、プラネタリウムの可能性を広げている。
ワクワクします。
だからこそ、シンプルに星を投影して生解説というスタイルにも意義深さを感じるのです。
ご飯の文化、多種多様に広がりいろんな食し方があります。
けれど、釜で炊いたおいしいごはん&梅干一つが至福の滋味で、
「ごはん。ここからはじまりここに還る」であるように、
「プラネタリウム。ここからはじまりここに還る」は〔満天の星空&生解説〕なのかなと。
プラネタリウムと落語って似ているなと思います。
落語。詳しいわけではなく、寄席を見に行ったことも数回程度なのですが、
こんなに技術が発達した現代においても、落語って、噺家一人が高座に上がり、
映像や音響なしで一人で何役もこなすんですよね。
小道具も扇子とてぬぐいだけ。この二つが演目の中でさまざまなものに見立てられていくわけです。
たとえば扇子なら、筆、箸、槍、煙管というように。
そばをする音に効果音をあてるわけではない。
はっつぁん、熊さんという登場人物がでてきても、それを二人が演じることもない。
噺家一人が客席を見る角度や声色、身振り手振りなどで演じ分けるのですね。
もう、21世紀。江戸時代と違っていろんなことが可能です。
おざぶとんの脇に箸、槍、煙管を並べて、演目にあわてて扇子ではなく本物を小道具として手にすることもできます。
はっつぁん、熊さんの語りになった時、
バックスクリーンにはっつぁん、熊さんの登場人物の様子がわかるようなアニメを上映することだってできるわけです。
でも、そうなったらどうでしょう。興味が半減しそうですよね。
なぜ? それはきっと、落語が、来場者が自分の想像力を使って楽しむところに真髄があるからでしょう。
噺家の話芸に導かれて、頭の中でいろんな人物が生き生きと動き出すのを想像する楽しさ。
扇子とてぬぐいがいろんなものに見えてくるのを体感するたのしさ。
プラネタリウムの生解説にそれとつながるものを感じます。
来場者の方々はご自身の想像力を使うことを楽しみにしていらっしゃるのではないでしょうか。
プラネタリウムの星空を見上げながら、
ご自身が体験された夜空の記憶を呼び起こしてみたり、
実際に身を置くことがない宇宙空間にトリップしてみたり、
星空に描かれるさまざまな星座絵に古今東西の人が見上げた時に感じた心を想像してみたり。
たとえば白鳥座の星座ラインに、天の川を優雅にはばたく白鳥の姿を想い描いてみたり。
落語も星座解説のある程度の型があるというのも共通点ですね。
星座解説。冬だったら、オリオン座他の星座や冬の大三角、冬のダイヤモンド。
夏の星座だったら白鳥座、琴座、わし座と夏の大三角にさそり座。
落語に枕があるように、プラネタリウムの解説員の方々も、
星空が広がるまでの導入、季節感の盛り込み方、ドームへのまなざしの向けさせ方など
お一人お一人が工夫されていらっしゃると思うのです。
夏の大三角の紹介一つをとっても、バリエーションはさまざま。
白鳥座のデネブ、琴座のベガ、わし座のアルタイル。
それぞれを紹介したあとに、3つの星を結んでできる三角形が夏の大三角、というふうに持っていく方法もあれば、
琴座のベガ、わし座のアルタイルを紹介したあとに、
もう一つ、どこかの星を仲間に入れると、大きな三角形夏の大三角ができるのですが、どの星だと思いますか、
と語りかけて、デネブと白鳥座を紹介するという方法もあります。
語る内容が決まっているようにみえて、ディテールは無限。
使用する言葉、枕にあたるものなどなど。解説員の方々の個性と経験による味わいが楽しめるのが生解説。
型がありながら、個々の語り口が反映される。
落語が経験を積んで話芸を磨いていくように、星空解説も経験を積んで熟達した話芸を磨く甲斐のある奥深さがある。
両者ともシステム的にはさまざまな演出が可能な中で、あえて最小限のアイテムでおこなうエンターテイメント。
お客様が想像力を働かせることを楽しみにくる。
それが落語とプラネタリムの生解説の共通する魅力。
きっとこれからさきどんなに技術が発達しても、この二つの文化はいきつづけていくことでしょう。
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