タイトルにしびれました---ベンゼン祭
図書館でくらくらするほどのタイトルの本をみつけました。
その名を「ベンゼン祭」(内田老鶴圃新社)。
アカデミックな化学系のシリーズ本の中にその一冊にありました。
文系人間の私でも
ベンゼンといえば化学用語というのがわかります。
その『ベンゼン』に『祭』です。
祭りといえば、
お神輿かついで「わっしょい」や
肌も露なリオのカーニバルなどの
あの祭りです。
なぜゆえにベンゼン+祭。
弁天祭ならわかるけど。
と借りてきたこの本を読んでいくと・・・。
むずかしいけれど、
なんだかツボにはまる本でした。
序文は歯切れいいです。
本のタイトルにいぶかしがる私を
見透かしたように
いきなりずばっと答えてくれます。
(表紙の裏にはいろんな六角形の図形が。
手をつないだ6匹の猿や雪の結晶も真面目な絵なのにどこかラブリー)
↓
ベンゼン祭。
ベンゼンはベンゾールである。
ベンゾールは六角の亀の甲である。
亀の甲は化学の象徴、誰でもこれを見る人、顔をしかめて、やあ、これはどうも苦手で・・・と云って逃げて行く。
ベンゼン祭はベンゼンそのものを祭るのではない。
ベンゼンに六角形の構造式を与えたKeKuleの学説が生れて25年目の時に、
世界各国から化学者が集まって記念祭を催した。
(以下略)
リズミカルな文章。出だしの短文をたたみかけるところに井上ひさしの「ブンとフン」の出だしを思い出しました。
山岡望氏によって1952年にかかれたこの序文。
25年の記念祭はこの種の科学的祝典として稀にみる感激的な印象的な集会であった。
とも書かれています。
そしていよいよ本文になるのですが、化学的なことをかいているのに不思議な熱をおびている雰囲気なんです。
本全体から高らかにファンファーレや第九の喜びの歌が聴こえてくるような雰囲気。
そして化学の本のはずなのにスピリチュアルっぽいくだりがあったりするのが面白いです。
まず、このベンゼン祭。1890年3月11日、ベルリンの市会議事堂でおこなわれたようです。
豪華な照明がある宮殿のような荘厳な建物のようですね。
この本ではたくさんの賛辞がケクレに送られる様子やそれに対するケクレの答辞が注釈入りで記述されています。
ケクレは答辞の中で、ベンゼンの構造(亀の甲みたいなもののことでしょうか。
私は専門外なので厳密にはよくわからないのですが)を思いつくのに二つのまどろみがあったことを語っています。
一つは快い夏の晩の最終のバスに乗っていた時のこと。
うつらうつらまどろみはじめると目の前で原子の群れが踊りだしたのだとか。
つながる様子動いている有様がはっきりとみえ、その様子が構造論の起こりになったそうです。
もう一つはある冬。ストーブのそばでうたたねしているとまたもや原子群が目の前に現れ、
その長い列がみなみな蛇のように、
うねりくねりしていて、そのうち一匹の蛇が自分のしっぽを咬んで廻りはじめたのだとか。
その様子にインスピレーションを受けて真理に辿りついたと語られています。
(※この本の注釈では、このエピソードは少し作ったもののようなニュアンスで記されています)
私はベンゼンとは縁のない人間なのでエピソードがケクレ自身が脚色したものかどうかは二の次。
一番興味深かったのが、ベンゼンがこのエピソードのあとに答辞で語った言葉。
精神世界には無数の種子が全空間に充満している。
しかしそれはある特殊の極めて稀な頭にのみ、その発育の地を見出す。
先程も申した通り、ある時代には何かある思想が空中に漂っているものです。
リービッヒ先生もよく申されました。
細菌と同じように思想の種子もつねに大気中に充満しているのであると。
音楽でも言葉でも作品の素はエーテルのように大気に流れていて、
それを降ろすことができた人が「作品」という形にする、
それが「インスパイア」と呼ばれるものという感覚を私自身も持っているので、
上記の発言を化学者ケクレがフォーマルなセレモニーの場で語ったということがとても面白いと思いました。
こんな言葉を語れる土壌が100年前の世紀末のドイツにあったのですね。
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ベンゼン祭、いいですね。素敵です。
よく面白いものを発見しましたね。
投稿: ポポ手 | 2008年1月10日 (木) 17:25
ポポ手さん。「ベンゼン祭」に反応してくださってうれしいです(*^。^*)
アカデミックな本の棚って思わぬ発見があったりしますね。
投稿: emi | 2008年1月10日 (木) 19:40