雪の結晶を観察した人たち(その5)---番外編、みなさんと私
雪の結晶を観察した人たちを
年代順に追っています。
続いてはフリードリッヒ・マルテンスになるのですが、番外編です。
というのも
昨日2月23日、
古河歴史博物館で開催中(今日まで)の雪の殿様展にうかがって、
ペットボトルで雪の結晶を作る
体験教室に参加させていただいた
からなのです。
教えてくださるのは平松和彦氏。
北海道旭川西高等学校で教鞭を
とられながら、
様々な場でペットボトルによる
雪の結晶作り他の実験指導をされ、
日本雪氷学会の賞他も
受賞されている先生です。
(追記:現在は福山市立大学で教鞭をとられています)
体験教室には小学生の子供たちが多く参加しています。
最初に古河歴史博物館の鷲尾政市館長が土井利位について語られました。
お話をうかがって、古河の子供達がうらやましくなりました。
自分の住んでいる町にこんな素晴らしい殿様がいる、って思えることが。
私が生まれ育った地域は「城下町」という風情はありません。
小中学校での郷土の歴史で取り上げられる偉人は県内の遠いところの人物で、地元意識は持てませんでした。
だからこそ、「ここは昔は~藩で」と語れるところに暮らしている。
そして、郷土の偉人が歴史の時間に覚える業績だけではなく、
「雪の結晶のスケッチ」という「感性」で分かち合える宝物を遺したことが素晴らしいと思うのです。
昔の殿様と、現代の小学生が「雪の結晶って美しい」ということでつながれる。
200年ほどの時間のへだたりを超えて。しあわせなことです。
平松和彦先生によるペットボトルで作る雪の結晶の装置はこちら。
今回はスタッフのみなさんが作ってくださって、
私たちはペットボトルを持参するのみ。ありがたや。
ペットボトルの中に、釣り糸(直径0.1mm以下)と消しゴムによるブランコのようなものをボトルの底に接する形で垂らします。
ハーハーと息を吹き込み、ボトル内に水蒸気を増やして、栓をします。
それをドライアイスのはいった青い発泡スチロールの箱に入れて冷やします。
すると・・・
釣り糸の一部が手芸で使うモールのようにモショモショしてきて、結晶が育っていくのです。
羊歯(しだ)の葉のような繊細な美しさ。照明にキラキラ光ります。
これはマイ結晶。デジカメ故障中で携帯電話で撮ったので鮮明な画像でありませんが。
同じテーブルの女性のボトルには見事な大きさの結晶が見られました。
一番上の画像は、古河歴史博物館の方がその美しさを捉えた写真です。
ご好意でこのブログで画像掲載をさせていただきました。
体験教室では、水蒸気⇔水 水⇔氷 水蒸気⇔氷 の変化のお話や水が氷になる瞬間の実験他、とても密度濃く面白かったです。
ペットボトルで雪の結晶を作る装置一式はそのままお土産としていただきました。
そこで、家でもう一度再実験。
ドライアイスをつかむために引き出しから赤い手袋を取り出しながら、
体験教室のはじめに、平松和彦先生から、ドライアイスの取り扱いの注意、
安易に器具を扱う怖さ、知らないという怖さについてうかがっておいてよかったとあらためて感じました。
ドライアイスの温度は約マイナス80度ということを知らないからこそ、素手で安易に掴んで遊んでしまう危険性。
ドライアイスが気体になった時に、体積が約750倍になることを知らないからこそ、
水の入ったペットボトルにドライアイスを入れ、ぶくぶくさせたまま密閉して、
容器爆発、大怪我という事故が少なくないという話。
知らなかったでは済まされないということを気迫を持って語られたのです。
何事もそうですが、先生のもとでやる時&はじめての時は注意を払いますが、
2度目以降、自分でやる時は自己流で油断が生まれがちですよね。
体験教室ではドライアイスはスタッフの方々が扱い、参加者は触りません。
だから、必要なしとドライアイスを扱う危険性を語らないこともできるのです。
でも、平松先生は、参加者が家できっと再実験する。
その時に、普段の軽い気持ちでドライアイスを素手で触るかもしれない。
また、空のペットボトルがあればそこに水とドライアイスを入れてふたをしかねない。
そういう予測をされての注意喚起だったのでしょう。
後に絶対必要になる注意事項、実験の心得を子供たちにも伝えた平松先生。
旭川の高校生になって先生の授業に出席したくなりました。
さて、家では、ペットボトルに息を吹きかける時、
フーフーではなく、ペットボトルに口をつけるようにしてハーハーを念入りに。
それが効いたのか、他の条件によるものがわかりませんが、ながーい針が伸びた結晶ができました。
枝の長さは2cmぐらい。
(後ろに定規を置きましたが、距離がありますので遠近法のように目盛の方が小さくみえます。
あくまで目安としてご覧ください)
何かに似ている・・・
サーカスで天井から床に垂らしたロープでおこなう曲芸を思い出しました。
ロープにつかまりながら、足を垂直に上げるというような。
まさにそんな感じです。結晶の長い足が横にすくっと伸びています。
もちろん、どすんと強い振動を与えてしまうと、ぱらっと下に落ちてしまう儚さ。
以前、私が空から舞い降りてコートにとまった雪の結晶を眺めた時、
その大きさは直径1ミリぐらいだったでしょうか。それでも繊細な針をいっぱい茂らせていました。
空から降ってくるって、イコール「スカイダイビング」。
木枯らしにだって吹かれるでしょう。
それにも負けず、繊細な葉がもげることなく地上まで幾億もの雪の結晶は舞い降りているということですよね。
あらためて、いとおしさとすごさを感じました。
【雪の結晶を観察した人たちシリーズ】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら
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コメント
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古河歴史博物館、行こう行こうと思ってるうち、雪の殿様は終わっちゃったんですね。新宿からも湘南ライナーで古河は行けるし、って調べておきながら。二月ってなんか、あっという間で。確定申告やら、今年は免許の更新もあったり、娘の学校のイベントで早起きしなきゃいけなかったり、いろいろ忙しくて。結晶、ペットボトルで作れるとは。
ところで睡眠五時間以内で、昼間、眠くなったりしないのでしょうか。私は七時間半以上でも眠いです(昨日は11時に寝て、今朝は六時四十分に起きた)。
投稿: ポポ手 | 2008年2月25日 (月) 14:28
ポポ手さん。興味を持ってくださっていたのですね。美術展とかって長い会期と思っているうちにあっという間におしまいなっちゃいますよね。
展示品の一つに雪の結晶柄の印籠があるのですが、いつみても惚れ惚れ。ものすごくかっこいいです。ヴィトンみたいな配色で。
今日も零時30分に寝て4時40分起き。昼寝なしできています。今日は23時30ぐらいには寝たいですが。8時間眠るって年に1回風邪をひいた時ぐらいかも。姉も私もショートスリーパー体質です(^o^)丿
投稿: emi | 2008年2月25日 (月) 21:22
emiさ~ん(:0:/"大変ご無沙汰さまですぅ~。昨年の7月から家族一同(主人を除く^^:)体調のトラブル続きで、締めくくりはクリスマス目前の二男の小児慢性腎炎の中の国の特定疾患にあたるIgA腎炎の発覚で2ヶ月間の入院治療でした。ドド~ン!!と、まさに「旬を外したハルマゲドンかいなー!!」状態でしたが、昨日無事退院を迎えることができましたよ^-^♪なんだろう。「過去生全て遡っておお祓いの行だね」って友人が笑っておりましたが、真実なれば今後は光あるのみですから!ポジティブに行こうと思います。本当に、ほんとうに、今回人情というものの有難さに感激し通しでした。有形無形の愛情や優しさにお返しの仕様もない私たち・・。
命の大切さや、生命力の強さ、愛の強さ、文字に表せばありきたりになってしまいますが貴重な体験をさせていただきました。江原さんが「体験から得る感動だけが財産です」とハワイの紀行誌に収められていた言葉が心に静かに広がっています。久しぶりのご挨拶のタイミングがemiさんの雪の結晶の体験のお話。江本勝さんの「水からの伝言」を丁度子供たちと読んでいました。きっと、吐く息でできる雪も個性が表れるのでしょうね~。私も実験装置製作してみたいですっ!!長くなってしまってすみません。もう春ですね~。東京では福寿草なんてもう咲いちゃったかしら?仙台は一昨日うぐいすの声がして、午前の春らしい光の中で雨どいの雪解けのせせらぎと合わさってほんとうに癒されました^-^
投稿: 若林 | 2008年2月26日 (火) 02:33
若林さん。こんにちは。息子さんが特定疾患で2ケ月入院でいらしたなんて、さぞかし心配&看病大変だったことでしょう。
やっと退院されたとのこと、おめでとうございます。これからもどうぞ快癒されますように。
若林さんのお言葉、自分の吐く息で結晶ができる。本当にそうですよね。大気中で雪の結晶ができるよりロマンがあるかもしれませんね。
平松和彦先生考案のペットボトルで雪の結晶を作る装置はhttp://www.tsm.toyama.toyama.jp/public/wadai/butsuri/no238.htm
に図解されています。
直接教えていただくのが一番わかりやすいですし、ドライアイスの取り扱い要注意ですが、若林さんとご家族の皆さんがトライできる機会があるとうれしいなと思います。
投稿: emi | 2008年2月27日 (水) 19:07
初めてメールします。Emiさんは随分と雪の結晶のことを詳しく調べられているので感心しました。ところで私はあることで土井利位と雪華図説に興味をもって調べているのですが、土井は結晶を顕微鏡で観察したという説が一般的ですよね。しかし雪華図説の本文の印象からはそういう光学機器を使ったとは思えませんし、マルチネットの原書(といっても結晶図の近くだけですが)でも拡大鏡(Vergrootglas)で観察する際の注意事項が書かれていますから、同書を参考にして観察していたはずの土井が顕微鏡を使っていたというのもちょっと納得しかねるところがあります。おそらく顕微鏡説は北越雪譜の説明文に顕微鏡とあるところからの誤解が誤解を生んだ結果ではなかろうかと思います。またEmiさんも調べられたように顕微鏡という漢語に「むしめがね」のルビを振っている例が多く、しかもmicroscoopの訳語であるとはっきりしている場合とそうでない場合があるようです。「雪の説」において猪俣昌之がどう翻訳しているか気になりますが、まだ読むに至っていません。土井の観察方法についてEmiさんのお考えを是非聞かせていただきたいと思います。また雪の説の内容についてもご教示いただければ大変ありがたいです。お時間のある時で結構ですのでお返事願えれば幸甚です。吉野勇一
投稿: 吉野勇一 | 2021年7月19日 (月) 17:25
吉野勇一さま。はじめまして。吉野さんも土井利位と雪華図説にご興味を持って調べていらっしゃるのですね。土井利位侯がどんな器具で結晶を観察していたか、ですが、現存していないのが本当に残念です。吉野さまもお持ちかもしれませんが、古河歴史博物館のカタログによりますと、カルペパー型だろう(日本に1770年以降に輸入)とされています。
江戸時代の顕微鏡について調べていた時、思った以上に普及(一般人が持てるというわけではないですが、大名や科学者が持てる)しているのを感じました。それを考えますと、カルペパー型ぐらいのものは手元にあったのではと推測しております。
雪の説に関してですが、もう少しお時間をいただいてよろしいでしょうか。お恥ずかしいですが、大片付け中ですぐに資料が出てこなくて。8月上旬には落ち着きますので、あらためて資料を読みこもうと思います。(複写したものが手元にあるはずですので)。その後、このコメント欄にてあらためて投稿させていただこうと思います。
吉野さんの「あることで」雪華図説にご興味を持たれたという「あること」にも興味がございます。
投稿: emi | 2021年7月20日 (火) 09:51
emiさま
早速のご回答、ありがとうございます。私も「雪の説」の訳文に大変興味があります。つぎの投稿を心待ちにしております。ところでマルチネットの原書を蘭-英で翻訳しましたが、やはり顕微鏡(microscopium)という言葉は使われておらず、拡大鏡(vergrootglas)という言葉しか使われていません。それからマルチネットを引用または孫引きしたと思われる和書では「顕微鏡」なる言葉が用いられていますが、「むしねがね」とルビが振られている例もあるなど、顕微鏡の意味するものは現代的な意味の顕微鏡ではなく、虫眼鏡だと思います。マルチネットには結晶が手の熱で溶けるのを防ぐために拡大鏡に柄を付けるようにという記述があります。いずれにせよ当時の翻訳ものには誤訳も多いですし、用語の問題もあって、字面通りにはいかないようですね。
ところで利位が自ら観察に興味を抱いたのか、泉石の勧めがあったのか、どういう背景から雪の結晶などという変わったものに興味を抱いたのか、推測の域を出ないのですが、何か手がかかりになるものはないか、探しています。
吉野
投稿: 吉野勇一 | 2021年7月27日 (火) 21:27
吉野勇一さま。8月上旬頃までもう少しお待ちくださいませ~。8月上旬になっても、明解なお返事ができないかもしれませんが <(_ _)>
投稿: emi | 2021年7月27日 (火) 23:07
吉野勇一さま。ご連絡が遅くなりました。手元の「雪の説」をみてみました。
マルチネットの『Katechismus der Natuur』を訳した『雪の形状試験の説』の該当箇所をみてみますと、「黒繻子を寒天に暫く晒し、能冷ならしめ、而后降り来る雪片を其上に受け、顕微鏡もて視るへし。」「又顕微鏡ハ、木鋏もて之を挿み、手より発する温蒸気の雪に当るを避け、且口鼻の気息を遮るへし」となっています。
1)顕微鏡の言葉にルビ(ムシメガネなどの)はありません。
2)「又顕微鏡ハ木鋏もて之を挿み、手より発する温蒸気の雪に当るを避け」というくだりが吉野さまがご指摘されたマルチネット原書の「結晶が手の熱で溶けるのを防ぐために拡大鏡に柄を付ける」という箇所になりますね。
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「雪華図説」を見ますと、観察方法が以下のように書かれています。
西土雪花ヲ驗視スルノ法、雪ナラントスルノ天、預メ先、黒色 ノ八絲緞ヲ、氣中ニ晒シ、冷ナラシメ、雪片ノ降ルニ 當テ之ヲ承ク、肉眼モ視ルベク、鏡ヲ把テ之ヲ照セ バ、更ニ燦タリ。看ルノ際、気息ヲ避ケ、手温ヲ防ギ、纖 鑷(せんじょう)ヲ以テ之ヲ箝提スト、余文化年間ヨリ雪下ノ時、 毎ニ黒色ノ髹器(きゅうき)ニ承テ、之ヲ審視シ以テコノ図ヲ 作ル
「雪の形状試験の説」と共通するところも多いのですが、肝心のところが若干違います。「木鋏もて之を挿み」が、「纖 鑷(せんじょう)ヲ以テ之ヲ箝提ス」に、「顕微鏡もて視るへし」のところが「鏡ヲ把テ之ヲ照セ バ」にあたりますね。顕微鏡と書かれておらず、鏡となっています。
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鷹見泉石日記によりますと、鷹見泉石は1813年(文化10年)に大槻玄沢の元でオランダに関する会合に参加(例年通りとの記述あり)、渡辺崋山との交友も1822年(文政5年)に記載があります。
このほか、蘭学の知識人との交流がみてとれますので、顕微鏡を入手できる環境にあったと思います。
ただ、拡大鏡でも十分、雪の結晶は観察できたと思います。
(私も雪眼鏡というルーペで結晶の姿を観察しております)
このたび、吉野さまから、マルチネットの原文では拡大鏡(Vergrootglas)となっていること、拡大鏡に柄を付ける旨が記述されていることを教えていただき、拡大鏡の可能性が高まったと感じられました。
貴重なご指摘、ありがとうございました。
投稿: emi | 2021年8月 9日 (月) 19:15