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2008年2月 3日 (日)

雪華図説と続雪華図説---土井利位(その3)

雪の殿様、土井利位(どいとしつら)シリーズその3です。

<雪の結晶観察のきっかけ>

茨城県の古河市。今よりも若干寒かったのかもしれません。
それでも北海道や東北や本州日本海側に比べて温暖で、
毎日雪が降って根雪になるという気候ではなかったはず。

そんな古河で、土井利位はどうして雪の結晶を顕微鏡で覗いて観察したいと思ったのでしょうか。
(2012.2.11 追記)どうやら土井利位は当時、江戸勤めの身であり、
大阪京都で観察した以外の雪華はほとんど江戸で観察したもののようです)

きっかけになった一つがオランダの教育者マルチネットの著書
『格致問答(かくちもんどう)/原題Katechismus der Natuur』
の本の中の雪に関する記述や雪の結晶のスケッチを目にしたことのようです。

そして、鷹見泉石(たかみせんせき)が雪の結晶を描くことに関しても『雪華図説』の刊行に関しても、
大きな役割を果たしたようです。
泉石は古河藩の家老であり、オランダ語に堪能で、ロシア語にも通じていた学者。
二人は、マルチネットの本の中の雪の結晶に魅せられ、
自分たちもこの目で雪の結晶を観察してスケッチしたいと願ったのでしょう。
顕微鏡を手に入れても、雪があまり降らない関東平野部。
どんなに雪が待ち遠しかったことでしょう。

冬、暖房器具も防寒着も発達してない江戸時代。
風邪一つ、肺炎一つが命取りになる時代。
殿様という立場だから、自分の命取りどころか、藩そのものの生命にもかかわるはず。
それなのに、寒い冬、雨が降ると雪になることを待ち望んだであろう利位。

雪になりそうな日は、家臣は殿様が無理をしないかときっとハラハラ。
それとうらはらに、利位は泉石と二人で、「雪だ!」って心躍らせ・・・。
空を見上げて手のひらに雪のひとひらを受けて、
どんなに目を輝かせていたんだろうって想像すると、
殿様にとても人間味、親しみを感じてしまいます。

<雪華圖説と続雪華圖説に関して>

江戸時代に土井利位が顕微鏡で観察し、したためた雪の結晶のスケッチは20年の月日をかけて、
『雪華圖説』(1832年/天保3年)に、そして
『続雪華圖説』(1840年/天保11年)として刊行されました。
(図説の<図>は本当は<圖>。旧漢字です)

雪華図説には土井利位による雪の結晶のスケッチが86片描かれています。
その他、マルチネットの雪の結晶のスケッチが12片紹介されています。
鷹見忠常による跋文(あとがきにあたるもの)の中に、「西洋人瑪兒低涅多」と、マルチネットの名前もみられます。

続雪華図説には雪華が97片描かれています。

この利位による雪華合計183片は、
古河歴史博物館発行の図録【雪の華 -『雪華図説』と雪の文様の世界】の中に一覧表として見ることができます。

『雪華圖説』と『続雪華圖説』。そのものを手に取って、見たくなりますよね。
ありがたいことに
古河歴史博物館のHPの中でどちらも全ページ見ることができるんです!
PCの前にいながらにして、自分が本を手にとってページをめくるような気持ちで。

実際に現物を手に取りたいと永田町にある国立国会図書館に行ってみたのですが、
こちらは閲覧できるのはマイクロフィルム。
なので、「手に取って見た」という実感があまり湧きませんでした。

本の形で見てみたいという方におすすめなのが小林禎作氏の著書、『雪華図説考』『雪華図説新考』(いずれも築地書館)。
というのは、この2冊とも、雪華圖説と続雪華圖説の復刻版が本の巻頭に収録されているからなんです。
興味を持たれた方はぜひお近くの図書館を検索して探してみてください。

利位シリーズ、まだまだ続きます。

【参考文献】
雪の華-『雪華図説』と雪の文様の世界(古河歴史博物館)
雪華図説考(小林禎作著/築地書館)
続雪華図説考(小林禎作著/築地書館)
日本科学古典全書(朝日新聞社)
雪(中谷宇吉郎著/岩波新書)    他

【雪の結晶と土井利位】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら

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コメント

emiさんのご先祖様。。。
ロマンを感じますね。

時を超えて、お殿様の生まれ変わりの
ようなemiさんは、同じ空を見上げながら
星や雪に、心躍らせていらっしゃいます。

今、こうしてブログで紹介されているなんて、
思いもよらないでしょうね。

『雪華図説考』『雪華図説新考』
機会があったら、拝見してみたいです。^^

おんぽたんぽさん。ありがとうございます。そちらは雪はいかがですか。
ほんと、おっしゃる通りですよね。利位さん(お殿様にこんな呼び方いいのかなんですが)。まさか後の世に、インターネットやブログというものが発明され、こんな風に紹介されるなんて思ってもいないでしょう。
私も自分が空を見上げて心躍らせるたびに、こんな風に利位さんも見上げたのかなって、気持ちをだぶらせてしまうのです。

はじめまして。
私は今回雪の結晶の切りぬきを作る機会が
ありまして、土井利位さんの事を知る事になりました。
日本で初めての顕微鏡で見た雪はどんなのだったのでしょう?等と思いをせていまして
こちらのブログに当たりました。

古河是非訪れてみたいと思っています。
土井さんのことをもっと知りたいと思っています。

ジジさん。はじめまして。
雪の結晶の切り抜きを機会に土井利位さんに興味をもたれ、このブログをみつけて訪ねてくださりありがとうございます。
土井利位がはじめて顕微鏡で雪の結晶を見た時どんなによろこんだことでしょうね。
ちなみに日本で初めて雪の結晶を顕微鏡で見たのは土井利位ではありません。司馬江漢が1796年に顕微鏡で覗いた結晶図を発表しています。
(詳細はttp://hoshi-biyori.cocolog-nifty.com/star/2008/03/post_e61b.htmlをどうぞ)。
古河もぜひお訪ねくださいませ。

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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