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2008年12月12日 (金)

NHK杯のEX。鈴木明子の命を燃やす渾身のタンゴに感動

フィギュアスケート、グランプリシリーズファイナルがまもなく始まりますが、
NHK杯のEXもみごたえがありました。

浅田真央のEXは先日触れましたので、彼女以外の選手について。

中野友加里は赤いコスチュームが意外でしたが似合っていましたね。
競技でのアグレッシブさを抜いた非常にやわらかでしっとりとしたEX。
全体的に荒川静香っぽい雰囲気がしました。
荒川静香が同じプログラムを滑ってもなんの違和感もないような。
ドーナツスピンは天下一品ですね。

アヴェマリアというとジェフリー・バトルのEXも心に染みわたる素敵なプログラムでしたが、
ジョニー・ウイアーのアヴェマリアも名プロですね。

暗いスケートリンク。スポッットライトに照らされるウイアー。
まるで天から差し込む光の中で踊るよう。
手を広げて、光の筋を仰ぐまなざしは、まるでそこに神や天使をみているかのようでした。

うずくまるようなスピンは、神にかしづいてお祈りをしているようにもみえ、
プログラム全体が「祈り」を捧げているような、
リンクを教会にかえてしまったようにおごそかな、冬のこの季節にぴったりのプログラム。
やわらかな着氷のジャンプなどはウイアー自身が天使を演じているようにもみえました。

ウイアーはやわらかくてしなやかだけど、男性的な重みもあり、豹系の魅力。
このEXのアヴェマリア歌っているのはジョシ・グローバンという方らしいですが、
男性だけどつややかで甘く、でも力強い。
歌声そのものがウイアーのテイストとぴったり合っていてぞくっとしました。

鈴木明子は、蠱惑的な魅力がいっぱい。

粘っこいともいえる妖艶な手の動き、目線。
自分の世界に観客をひきつけたのはテレビ越しでも伝わってきました
ピアソラの曲ということもあるのですが、中国の女子スケーター、ルー・チェンを思い出しました)。

鈴木明子の演技力は、まるでリンクに自分の前に男性がいて、
その人を虜にしようと思って踊っているかのようなリアリティさがあること。
リンクを囲む少し離れた観客ではなく、すぐ前にいる男性を
目線で、手の動きで身体全体から発散する「フェロモン」で誘惑しよう、
としているような、そんな情念や気迫がありました。

浅田真央はまだ、観客のみんなとか視聴者とか、みんなへの踊りであって、
今すぐ目の前に男性がいて、そのに自分のすべてをアピールしよう、みたいな感じはしません。
その辺が、年齢、経験の差なのでしょう。

そして、鈴木明子は逆境さえも力に変えたのでしょう。
ほとばしる情熱を内側から溢れさせて「炎」を感じさせました。
タンゴの赤と黒。炎、生命力と陰、死、陰鬱さ。
鈴木明子だからこそ表現できる気迫ある世界がみんなの心を打ったのだと思います。

鈴木明子、村主章枝は、喜怒哀楽や感情的なものを音楽に乗せて表現したり、
ある女性のキャラクターを演じるタイプの表現力。キム・ユナもこっち系でしょう。

一方、浅田真央は、まだ「素」の自分。
でもある意味「我」がないというか、高い身体能力で、
音そのものと一体化して、楽曲が持つ「感情」などではない、
抽象的な曲調を表現できる可能性の面白さを感じます。

トスカというと、プルシェンコの熱く激しいステップが鮮明に残っているわけですが、
織田信成のトスカも素晴らしかった。あくせくしていない。
たっぷりとした大きな演技。
一足一足が氷の上に描く軌跡の美しさ、大きくゆっくり動かす手によるスケール感。
ジャンプもひらひらっと軽やかに綺麗。
音楽の迫力に負けない演技でした。ダンサーとしての素質を十二分に感じさせられました。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
さて、鈴木明子に関して。
フィギュアスケートファンはもちろん周知のスケーターですね。
2008年6月29日のDOI(ドリームオンアイス)を見にいかれた方々は、
彼女の復活劇をすでに目のあたりにして、
NHK杯によって一般の視聴者にも評価されたことに感慨ひとしおだと思います。

6月29日のDOIは私はテレビ観戦のみ。
鈴木明子の出番もダイジェストだったので、印象が残っていなかったのですが、
趣味人さん(このブログのフィギュアスケートのカテゴリでたびたび、言葉をご紹介させていただいています)が現地で観戦され、
こんな観戦記を当時、メールで伝えてくれていました。
私も趣味人さんのこの言葉で鈴木明子のリベルタンゴをいつかみたいと思った一人なのですが、
了承を得て紹介させていただきます。


「鈴木明子が、とにかくすばらしかった!!!
観客のお目当ては、浅田真央や安藤美姫、高橋大輔や織田信成だったと思います。
私もそうでした。

鈴木明子については、もちろん名前は知っていますが、
綺羅星のように勢ぞろいした日本フィギュアの出演者たちの中では、
特に注目していたわけではありません。

でも、演技が始まってすぐにその世界に引き込まれました。
不安さを感じさせない完璧なジャンプ、タンゴの曲と一体化した演技。
極めつけは、客席に向かって一瞬のポーズを取ったときの、仁王のように見るものを圧倒する表情。
幸いにも、私の客席は前から2列目、ほとんど正面で、はっきりと見ることができました。
女子フィギュアスケートには、笑顔の演技と言うのが求められていると思います。
でも、こんな表情でも人々の心を打つことができるのかと、新しい発見でした。

演技が終わったあとは、もちろん、会場全体がスタンディングオベーション。
間違いなく、その日一番の感動の演技です。
浅田真央や安藤美姫のように期待を持って見ていたわけではなく、
純粋にその演技に対して他の誰よりも大きな拍手と歓声を受けることができました。
ステファン・ランビエルのエンタテイメントあふれる演技もすばらしかったですが、
鈴木明子の演技には、人々の気持ちを心の底から揺るがすような、内面からあふれる熱い想いが感じられました」


<女子スケーターが笑顔ではなくて仁王のように見るものを圧倒する表情で惹きつけた>
NHK杯のEXのリベルタンゴを見て、趣味人さんの言葉の通りとあらためて感じました。

趣味人さんは今回のNHK杯の女子フリーを現地で生観戦。こんな風に伝えてくれました。

「その前に滑った中野友加里が、「絶対に失敗しないわよ」という思いを全身から放っていた、
気迫に満ちた演技だったので、
鈴木明子の演技がちょっとかすんでしまいましたが、
充分世界中のフィギュアファンにアピールできたと思います」


また、NHK杯EXの鈴木明子のタンゴに関しては
「情熱あふれる演技は誰にもまねができません。そこから感じるものは、
ロックコンサートでの精神の高揚・解放感と同質」
と語られています。

私も、鈴木明子の、生命力、心の叫び、すべてを4分の中に注ぎ込む、
その情熱に何よりもタンゴ・スピリットを感じました。
踊ることで救われる、そんな性(サガ)さえ感じさせられました。

(青字は趣味人さんの言葉より引用)

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フィギュアスケート」カテゴリの記事

コメント

はじめまして。NHK杯のリベルタンゴで鈴木明子選手の魅力に取り付かれたまあぱんと申します。

私もテレビ観戦&あまりあっこさんのことを詳しく知らずに見ていましたが、
思わず鳥肌がたちました!(全日本のフリーも素晴らしいかった!)

他の試合についても、emiさんが書かれているように
素晴らしく、多くの方々を魅力するものでしたね。

あっこさんのあの魅力を言葉で表現しようとすると、「キレ」「あふれる滑る喜び」などなどあると思いますが、
みんな(マスコミ各局、解説者、観客)が同じようなことを言っているのを聞くと、その言葉が使い古されたというか
新鮮で斬新で心が強くて艶っぽいetc…どうしたらあっこさんの魅力を的確に表現できるのかしら!?
と思っていました。

emiさんの記事を読むと、「そうそう!そうなんです!!」となんかいもうなづき、
また細やかに批評をされているところに敬服し
思わずコメントしてしまいました☆


黒い瞳、リベルタンゴのシーズンが終わってしまったときはとがっくり・虚脱感…
でも今シーズンのプロ(特にウエストサイド、カリブが大好きです)で
また魅了され、でも終わってしまってまた…

来シーズンもまた会えるのが今から楽しみです!


最後に余談ですが。。

フィギュアスケートの記事、全て拝見しました☆
ついあっこさん贔屓になってしまう私ですが、日本には他にも素晴らしい選手が多くいることを再認識させられました。

つい「〇〇のファン」「誰かvs誰か」となってしまいがちですが、
全ての選手の素敵な所をたくさん紹介してくださって
感謝です★

長文乱文、失礼いたしました。
また遊びにきます!

まあぱんさん。はじめまして。
フィギュアスケートについて書かれているブログがたくさんある中でみつけて訪ねてくださって、そしてスケートカテゴリーのすべての記事を読んでくださったとのこと。光栄です。ありがとうございます。
「新鮮で斬新で心が強くて艶っぽいetc」
まあぱんさんのおっしゃる通りだと思います。
ブログを通じて同じ思いを分かちあえること、とてもうれしいです。
今シーズンのウエストサイド、カリブもよかったですよね。こんな風に毎年毎年、珠玉の名作をきっと彼女なら創りだしてくれるのでしょう。
来年も楽しみですよね。

演技前、リンクサイドでのコーチと向かいあう様子、ミスがあってもひたむきにがんばって、演技が終わったあと、会心の出来の時もうまくいかなかった時も、応援したくなる表情を見せる鈴木明子さん。本当にスケートを大切に思って、取り組めることに感謝しているのが伝わってくる人柄がありますよね。

フィギュアスケートについてはもっともっと書きたいと思いながら、なかなかタイミングを逃してしまうこともありますがこれからもマイペースでゆっくりとアップしていきます。まあぱんさん、これからも訪ねていただければ幸いです。
次シーズンもぜひ選手一人一人が名プログラムと出会えるといいですね。

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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