グランプリファイナル、浅田真央とキム・ヨナの直接対決にドキドキ
浅田真央とキム・ヨナの今シーズン初めての直接対決。
6分間練習の時、同じリンクで映る様子をみるだけでどきどきしました。
韓国での開催。
ホームアドバンテージも考えられ、完全アウエイ。浅田不利。
なのに、結果は浅田真央の優勝。
数々の不利な状況の中で、
攻めたプログラムで誰でもわかる力の差をつけての優勝はあっぱれ以外のなにものでもないでしょう。
<浅田真央のショート「月の光」ドビュッシー>
うっとり。
去年は鳥っぽくみえるという場面が時々ありましたが、
今年は「鳥」にみえるどころか、
全編わたって、水鳥か天女のよう。
アクセルジャンプのあとの流れ、
その他でもジャンプのあとに片足を後ろに少しあげ、手を広げ鳥っぽくみえるところが素敵。
片足をすっと天に伸ばして片手を添えるスパイラルetc.
すべてのエレメント、ポジション綺麗。
演技が終わったあとの、少し上を見上げた夢見心地のようなまなざしも印象的でした。
NHK杯のショートのあとは、「ほっとしました」って観客みんなに伝えるかのような表情も印象的でしたが、
演技ではない、終わったあとの「素」の表情が実に魅力的ですね。
伊藤みどりが女子フリーの解説の時にも言っていましたが、ショート。
私も浅田の方が上だったように思えます。
<キム・ヨナのショート「死の舞踏」サン・サーンス>
キム・ヨナと浅田真央は同じシーズンで、
ショートとフリーのプログラムがとても似ている世界を演じる場合がありますよね。
今期でいうとキムのショートの「死の舞踏」と浅田のフリー「仮面舞踏会」がそうですね。
怒涛のように激しく滑りきるプログラムという点で。そしてコスチュームも黒。
キムのショート。
でだしの飛距離のあるコンビネーションジャンプも、スピード感も圧巻です。
ただ、やはり勢いがある分、それぞれの技が丁寧さに欠けているのかなと。
キム・ヨナの看板の仰向けスピンを浅田真央が今期見せていますが、
浅田真央の方が手足が長いせいか仰向けスピンも映えます。
腰に負担があるからでしょうか。
ビールマンスピンも角度のシャープさなど浅田真央の方が上。
キム・ヨナは少し軸もぶれて苦しそう。
それでも、キム・ヨナだから表現できる動き、
昔のソ連や東欧の体操選手を彷彿とさせるしなやかでこまやかな踊りの要素は
浅田真央と違った魅力がありますね。
手足だけではない、肩とか背中とか首、頭の傾け方など体のすべてで「表情」が表わせる。
出だしから、顔の表情などで観客をひきこむ求心力の強さはダントツ。
グランプリファイナルを現地の観客席から撮影した人のyoutubeをみてなおさら感じました。
観客全員とキム・ヨナが、歌舞伎で使う蜘蛛の糸のようなもので繋がっていて、
キム・ヨナがぐいぐいその糸を手繰り寄せていくというような、
観客をひきずりこんでいく力を感じました。
<浅田真央のフリー「仮面舞踏会」ハチャトリアン>
快挙達成!
グランプリファイナルのフリーの演技前。
リンクのへりで、浅田真央とタラソワコーチが向かいあいながら、一緒に深呼吸をしているのがほほえましかったです。
浅田真央のトリプルアクセル、くるくるっと早く回る、空中の軸の細さ。
何度みても美しいですね。
2度目のトリプルアクセルがスローで流れる時、
すぐ目の前にタラソワコーチがいること、タラソワさんがやったとばかりに手をどんどんとおろし、
フェンスを叩くところがしっかり映っていますね。
キスアンドクライで点数を待つ時、浅田真央とタラソワコーチ、二人が投げキッスをしたのもほほえましかったです。
<キム・ヨナのフリー>
キム・ヨナは母国開催であることが有利にも思えたのですが、
かえって観客のプレッシャーもあって、大変だったのでしょう。
フリーはもう少し、目新しさがほしかった。
ショートとEXの「ゴールド」の方がキム・ヨナのよさが生きている気がします。
浅田真央のフリーをみたあと、キム・ヨナの演技をみると、密度が薄く感じます。
キム・ヨナも五輪プレシーズンの今期、もっと冒険をして去年と違うことをみせてほしかったし、
勝ちにいくプログラムではなくて、浅田真央のように攻める姿勢をみせてほしかった。
<浅田真央の強運、キム・ヨナの不運>
浅田真央の魅力の一つは、不利な状況も、本当は彼女にとっていい状況だったのかもって思わせてしまうところ。
・ショートで2位になったから、フリーでキム・ヨナの前に滑ることができた。
キムの演技後のプレゼント散乱のリンクの上に立たなくてすんだ。
・アウエイで優勝は難しいかも。
トリプルアクセル2つを認定させられたらいい、守りや欲を捨て、のびのび滑ることができた。
・五輪前に、アウエイという厳しい状況を経験することができた。
その中でも勝つことができたという自信まで手にいれられた。
彼女自身が小ざかしい言い訳をしないからか、すべての出来事が(不条理と思えることも)、
彼女の今後の成長と未来の大勝利のために必要なことだったんだと、
私達まで納得して前向きな気持ちにさせる力を感じます。
<二人の表現力>
キム・ヨナの方が浅田真央よりも表現力があるという言い方には抵抗があります。
キム・ヨナの表現力は演技力。
浅田真央は、キムみたいに顔や手などで「感情」を表現していないけど、
だから表現力がないわけではなくて、
高い技術だからこそ作り出せるもの「月の光のやわらかさ」「かろやかさ」などがある。
それも立派な表現力。
ショートプログラムも、
月の光の中で遊んでいるのかな、月の光になりきっているのかなと
勝手に想像して、おごそかな月の光を感じました。
キム・ヨナがショートでみせる「凄み」とは違う、おだやかさの「凄み」。
それを観客に見せるのは難しいことだけど、
浅田真央はおだやかさの「凄み」をこれからも追究してほしいです。
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浅田真央はぽわっとしているようにみえて、
言い訳はしないし、演技後のコメントも自己分析もしっかりしているし、
自分が優勝とわかった時も空気を読んでなのか、けっして浮かれない。
いろんな場面で「大人だな」と品格、真のエレガントを感じます。
点差などの結果より、なにより、キム・ヨナ自身が、浅田真央の脅威を自覚した大会だったのでは。
アウエイの中で挑戦し、勝つ精神力。
「仮面舞踏会」にトリプルアクセルを2ついれながら、
密度濃い激しいストレートラインステップを最後に演じきれるスタミナと技術を。
怪我などで思った演技ができない選手もいるでしょうが、
今年もっとも力を伸ばしたのは、浅田真央、ロシェット、ワグナー。
そして中野友加里かなと思いました。
世界選手権の3月まで各スケーターがどう、ブラッシュアップされるのか楽しみ。
そして今期ハードなプログラムを滑ったために浅田真央が故障ということだけはないようにと願います。
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コメント
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同感
プログラムの基礎点だけ見ると、キム・ヨナ選手はミスなく滑れば真央ちゃんとほぼ同点数。そつなくやろうとしている。
確かに全体的な流れはキム選手良かったけど、最初の3F-3F以外は真央ちゃん以上の加点になるものだったのか。最初のコンビネーションにしてもスピードがのっているのは解るが・・・。
真偽のほどはわからんけど、真央ちゃんの曲のボリュームが下げられてたとかって噂もあるし、
ほんとはもっと大差で真央ちゃんが勝ってた気がします。でも、タラソワさんも真央ちゃんもフェアプレー精神でクレーム付けたりしない。さすが、立派な対応。どっかとは違う。
投稿: killer | 2008年12月24日 (水) 14:46
killerさん。
コメントありがとうございます。
キム・ヨナ。最初のスピード感と見事なジャンプで強く印象つけるところを含め、やはり「点」にむすびつくまとめかたをまわりが計算しているのでしょうね。
今日の全日本のフリーでは浅田真央の「仮面舞踏会」の音楽。浅田真央の圧倒的な演技の印象をさげないよう、ボリュームも保ってほしいです。
タラソワさんと真央ちゃんの対応がフェアープレー精神。同感です。
浅田真央の試合後のインタビューや、リンクを離れたいろんな表情でも、アスリートとして応援したくなる魅力が溢れていますよね。
投稿: emi | 2008年12月27日 (土) 08:53
いまさらコメントさせていただきます。
浅田真央さんの表現力について、私もemiさんに同感です。特に昨シーズンのSP「月の光」は本当にすばらしかった!
東京の狭い空の下、その小さい空さえもゆっくり見上げることもしないで日々暮らしているのに、真央さんの「月の光」を見ると、経験したはずもない美しく静謐な月夜を、なぜか懐かく思い起こさせてくれるんです。
良いお芝居や音楽に触れると共通して、懐かしいような気持ちになります。私の勝手な考えですが、芸術とは、自分では思い出せないこと、本能的には知っているけど説明できないこと、そういった事々を具現化した表現によって呼び覚ましてくれるものなのでは、なんて思ってみたりします。
余談ですが、いつかモーツァルトで踊る真央さんが見てみたいです。この世の美しさを謳歌するような軽やかなモーツァルトのメロディに乗って、浅田真央さんがふわりとジャンプを飛び、柔らかく流れるようなスケートを滑り、繊細で軽快なステップを踏み、美しいポジションのスピンを披露したら、どんなに素敵でしょう!モーツァルトのメロディーの心地よさは、風の音や水の流れる音など自然界のものと似ていて、人だけではなく小鳥にも通じると聞いたことがあります。うーん、そんな世界、真央さんにしか表現できないような気がします!
投稿: bamboo | 2009年5月31日 (日) 23:56
bambooさん。はじめまして。コメントありがとうございます。
今年になってからの試合についてブログで触れたいと思いながら、のがしてしまっているのですが、浅田真央の月光、本当にいいですよね。
「経験したはずもない美しく静謐な月夜を思い起こさせる」「芸術とは~」とbambooさんが書いてくださっていますがまさにそのとおりだと私も思います。抽象的な何か、別世界の空気感etc.。「喜怒哀楽」だけではなく、目にみえない何かを受けてに実感させることができる、それが「表現r力」と考えると、浅田真央は稀有な表現力と、それを具現化できる身体能力を持っているといえますよね。
浅田真央にモーツァルト、なるほどです。想像しただけで鳥肌が立ちました。天才対天才のコラボ。天才だけど才気走らず、軽やかに美しさをふりまく。みてみたいです。
そして、リストの「愛の夢」を情感たっぷりにたおやかにすべるのもみてみたいです。
bambooさん、興味深いコメントありがとうございました。
投稿: emi | 2009年6月 1日 (月) 13:08