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2009年2月 1日 (日)

星のささやき---その2.英語編

星のささやき」その1のロシア語編につづき、英語編です。

英語ではwhisper of the starsという言い方がポピュラーのようです。
欧米ではいつぐらいからこの言葉が紹介されたのでしょうか。

気象の専門家ではない私が時系列に記載されている文献をすべて網羅できるわけはないのですが、
ネットや図書館でみつけた文献を紹介します。
(引用した文献の原文は青、私による拙い訳はオリーブ色で)

1958年 『マンスリー・ウエザー・レビュー1958年1月号』(アメリカ気象局)
Nina A.STEPANOVAさんが「
ON THE LOWEST TEMPERATURES ON EARTHというタイトルで、
世界的な極寒地域、南極や北東シベリア、グリーンランド、カナダについて述べていて、
「シベリアでの最低気温」という項で「星のささやき」という言葉がでてきます。
その前後だけを抜粋すると、

Our expedition was not supposed to take metorological observations,
and since it was planned to return to Yakutsk before winter set on ,
we had taken along only the mercury thermometers.
Therefore, we could not measure any temperatures below 39.4.(mercury freezing point)・・・
We had to make use of some objective indications---
namely of the rustling sound produced by the freezing breath,
which is much like a sound of pouring grain.
This phenomenon is called by the Yakuts the "whisper of stars".

私たちの遠征は気象的な観測をするとは思われませんでした。
そして、冬に襲われる前にヤクーツクに戻ることが計画された時から、
私たちは水銀温度計だけを携帯していました。
したがって、私たちは摂氏マイナス39.4度以下の気温は計測できなかったのです。
(マイナス39.4度が水銀の氷点でありこれ以下の温度では凍ってしまうからです)
私たちは客観的な目安になるものを活用しなければなりませんでした。
すなわち、凍った息によって生じるさらさらカサカサいう音です。
それは穀物を注ぐ音にとてもよく似ています。
この現象は、ヤクートの人々によって「星のささやき」と呼ばれています。


この記事の注を読むと、
ソ連で発行されていたметеорологический Вестник(気象通報の意味)の
1928年10月号のセルゲイ・オブルチェフ(Сергей Владимирович Обручев)による
論文「Верхоянск или Оймякон?(ベルホヤンスクあるいはオイミヤコンの意味)」からの引用のようです。
オブルチェフはソ連の地理学者であり地質学者。
1926年にシベリアに調査のための遠征をしているようなのでその時の体験によるかなと私は推測。
現段階ではオブルチェフの原文は閲覧できていません。

1969年『Siberia: The New Frontier』George St. George著
『シベリア ニューフロンティア』というタイトルの本が1969年、ロンドンで出版されたことがわかりました。
日本語訳は出版されていないようです。
原書が所蔵している図書館に閲覧にいきました。
星のささやきについて触れていたらいいなと。
ビンゴでした!!

第13章 The Snow Queen and Her Frozon Realm
雪の女王と彼女の凍った王国という章の中で、
南極のボストーク基地と同様、地球上もっとも低温を記録しているところの一つである
ベルホヤンスクやオイミヤコンについて触れたあとに以下のようなくだりをみつけました。


Can man live under such extreme conditions?
The answer is yes, but not confortably.
True, the temperatures quoted were meteorological freaks,
but in January and February, temperature readings of -70゜F are not uncommon through Yakutia,
causing human breath to freeze instantly with a crackling noise
which is locally known as ''the whispering of the stars'' -- 
a poetic name, but a highly uncomfortable phenomenon.
In fact, on frosty days all Yakutian towns are enveloped in a man-made fog caused by the
exhalations of men and animals, a weird phenomenon not found anywhere else.

このような極限のコンディションのもとで人が生きることは可能でしょうか。
快適とはいえませんが、その答えはイエスです。
確かに、引き合いに出される温度は気象学的には異常ですが、
1月と2月に、気温がマイナス華氏70度(摂氏マイナス56度)を示すことはヤクートでは珍しくありません。
この寒さのために人の息は瞬時にパチパチ音をたてて凍ります。
それは地元では「星のささやき」という詩的な名前で知られています。
けれど快適には程遠い現象なのです。
実際、厳しい寒さの日、すべてのヤクートの町は人間と動物の呼気によって生じる人工霧に包まれます。
この異様な現象は他の場所ではみられません。


1985年『The Climate of the Earth』Paul E. Lydolph著

The atmospheric conditions are so calm that one can discern
the slight rustling sound of descending ice crystals.
In the cold, starry, 24-hour nights of northeastern USSR
the native Yakuts refer to this rustle as the "whisper of the stars."

大気の状態はあまりに静かなので降りてくる氷晶のかすかなサラサラという音をきくことができます。
ソビエト連邦の北東部、星が輝く極夜(24時間夜が続く)の寒さの中で、
現地のヤクートの人たちはこのさらさらという音を「星のささやき」と呼んでいます。


1997年 NASAのサイトの中の1997年3月9日、シベリアでの皆既日食に関するページ
(ttp://umbra.nascom.nasa.gov/eclipse/970309/text/weather-ne-siberia.html)にこんな記述があります。

Russia - Northeastern Siberiaロシアー北東シベリアという項で

One of the beautiful aspects of Arctic air masses is the presence of ice crystals
which can bring spectacular haloes around the Sun and Moon.
Eclipse observing may or may not be enhanced by their presence,
depending mostly on their intensity and the altitude of the Sun at your site.
Warmer air aloft after the passage of a cold front will help their formation.
On quiet nights their barely audible rustling is known as "the whisper of the stars" by the Yakuts.

北極気団の美しい側面の1つは、太陽と月の周りに壮観なハロをもたらす氷晶の存在です。
日食の観測は、氷晶の存在によって高められるかもしれませんし、高められないかもしれません。
ほとんど、あなたが眺める場所での氷晶の濃さと太陽の高度によります。
寒冷前線の通過後、上にある暖かい空気が氷晶の形成を促進します。
静かな夜、かすかにそれらのさらさらカサカサという音をきくことができます。
それはヤクートの人々に「星のささやき」として知られている音です。


これを読むと「星のささやき」の音の源は、人の吐く息ではなくて、
大気中の氷晶と紹介されていることになりますね。

URLで、NASAのSDAC(Solar Data Analysis Center/太陽データ分析センター)
の中のページであることがわかりますが、
現在トップページ(ttp://umbra.nascom.nasa.gov/)からは辿りつけませんでした。

Whisperofthestarsbook_2

この他、英語の文献では
1988年に『The whisper of stars : a Siberian journey 』Stan Grossfeld著が出版されていますが、
この本の国内の所蔵図書館は北海道大学図書館のみのようなので、
「星のささやき」現象に関する記述があるのかはわかりません。
(2013.5.28追記。閲覧できました。詳細はこちらに)

以上の4つの文献をみると、
英語での「星のささやく音」の表現にはrustle, clacking noiseと表現されていることがわかりますね。
穀物を注ぐ時の音(like a sound of pouring grain)というたとえも類似性があり興味深いです。

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  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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