涙がとまらなくなった ヴィヴァルディ「3つのギターのためのコンチェルト」
「悲し涙」でも「うれし涙」でもなく、この曲を聴いて、なぜだか涙が溢れてとまらなかった。
そんな経験をしたことはありませんか。
私がそれを初めて経験したのは高校1年の15歳の頃。
ざっと(ざっとじゃなくても)32年前のことです。
その春、私はマンドリン部に入部しました。
50名以上の大所帯。編成楽器はマンドリン、マンドセロ、マンドラ、クラシックギター、ベース、フルートなど。
私はギターパート(通称ギタパー)になりました。
関東大震災にも耐えた、明治の洋風建築の校舎に部室はありました。
《ベルサイユ宮殿》とも、鳩が建物内に侵入しまくっているから、
《鳩小屋》ともいわれるこの建物内の部室での4月の放課後のある日。
夏の定期演奏会の練習が行われていました。
マンドリン等を含めず、クラシックギターだけの演奏コーナーが予定されているので、
ギタパーの先輩たちがそこで発表する曲を練習するところでした。
10~15人ぐらいでしたでしょうか。
椅子を弧を描くように並べてギターを構えるその後ろに私たち新入部員は立っていたのですが、
その曲が始まったとたん、
私は、涙があふれてとまらなくなり、腰を抜かすように座り込んでしまったのです。
前の椅子の背もたれに手をかけてかろうじて身を支えるような形で。
涙ぼろぼろ、鼻水ずるずる。
左隣をみると、同じギタパーの新入部員Iさんが私と同じように座り込んでしまって、
お互いにしゃがみながら顔を見合わせたことを今でも覚えています。
自分でもなんで涙がでるのかわからない、そんな衝撃。
体中に電流が走ったような。
その時はその感覚を分析する余裕もなかったわけですが、
要するに「魂が揺さぶられた」「心の琴線が激しく振るわされた」ってことなのでしょう。
ヘレン・ケラーが水に触れて「WATER」という言葉を思い出す衝撃ってこんな感じかなと。
木造校舎にある大きな部室。
50人分以上の椅子と譜面台と楽器置き場もあるその広い空間に
ギターの甘美な和音が充満して、
「耳で音を聴く」というよりも、「体中に音を感じる」、そんな体感でした。
その曲がなんという曲かといいますと、
ヴィヴァルディの「3つのギターのためのコンチェルト」。
「調和の霊感」の中の楽曲をギター用にアレンジしたものであるということを後になって調べてつきとめることができました。
「3つのギターのためのコンチェルト」がCDになっていたら買いたいと、
以来、折々調べているのですが、いまだにみつけられていません。
ただ、ネットで調べると、マンドリン部やクラシックギター部の演奏会では比較的定番の曲ではあるようなので、
今度、縁もゆかりもなくてもどこかのクラシックギター部の演奏会に足を運んで、
生であの曲をもう一度聴いてみたいなって思っています。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
32年も衝撃を忘れない、運命の1曲。
なぜ今日のタイミングでブログでご紹介させていただいたかというと、
久しぶりに「ネット刑事(デカ)」となって調べていたら、
この「3つのギターのためのコンチェルト」の演奏をみつけることができたからです。
3つ、ご紹介させていただきます
1.youtubeで。「ハウザートリオ 調和の霊感 OP 3-8 第1楽章 Vivaldi」で検索されるとヒットします。(2009.4.26現在) 文字通り、3人による3つのギターで演奏されています。 あくまでも部屋らしき空間での生演奏。 後半、失礼ながら少したどたどしいところもありますが、 この楽曲の魅力が引き出されています。 2.youtubeで。「L'estro armonicos Op.3 Concerto No. 8 RV 522 - A. Vivaldi I. Allegro」でヒットした、crazylee77さんによる投稿(5分12秒)。こちらも3人による3つのギターの演奏。 韓国の方によるライブ演奏を仲間が録ったもののようです。 音量が小さいですが、テンポに慌ててもたつかず、丁寧に弾いています。 3.東京にある芝学園のギター部による演奏会の音源。 ギター部のTOPページ(ttp://shiba-guitar.sakura.ne.jp/)からMP3ライブラリ→2005年度ウインターコンサートOB合奏の1曲目「調和の霊感 op.3-8(1)がそうですね。直接のアドレスは(ttp://shiba-guitar.sakura.ne.jp/sounds/mp3/2005win-ob3-8.mp3)になります。 こちらは合奏なので この曲を複数のギターで演奏した時の重厚感を感じていただけるでしょう。 |
知人でも関係者でもないまま、ご紹介させていただきました。
いずれも、生演奏一発録りだと思うので、ノイズもありますし、
プロがスタジオで何度も録音して編集して仕上げた完璧な音源を聴くのとは違うのですが、
部室での先輩の演奏で魂を揺さぶられた私としては十二分にあの時間を思いださせ、
そしてこの楽曲のすばらしさを十分に感じさせてくれる演奏となっています。
♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪
「調和の霊感」。
元はバイオリンをはじめとする協奏曲です。
こちらは世界各国いろんな演奏者によるCDがあります。
まず、通常編成の楽曲を聴いてから、
ギター用アレンジの「3つのギターのためのコンチェルト」を聴いていただけたら。
楽曲名。
協奏曲集「調和の霊感」作品(OP)-3 第8番
2つのヴァイオリンのための協奏曲イ短調 RV522 第一楽章 - Allegro
(メモ)
アントニオ・ヴィヴァルディ/Antonio Vivaldi
調和の霊感/L'estro Armonico/Harmonic Inspiration
調和の霊感 OP3-8/L'estro Armonico Concerto No. 8 in A Minor 1ST MOV.
ALLEGRO/
No 8 en la menor(RV.522) para dos violines I mov.
「調和の霊感」は「調和の幻想」とも。
手元にあるロンドンの出版社の楽譜では
該当スコアは
『CONCERT GROSSO, A MINOR,OP.3 NO8』のタイトルが。
画像は高校時代の古いアルバムから。
写真をスキャンではなくて、写メールで接写したので、鮮明ではありませんが。
上/洋風建築の旧校舎の廊下。飾りのある窓から差し込む夕日。
中/部室の入り口。「マンドリン部」のポスターが貼られています。
下/部室内部。小学校にあるような小さな木の椅子と譜面台が並んでいます。
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コメント
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「3つのギターのためのコンチェルト」をお勧めサイトで聴きました。ギターの音色というのはどこかもの悲しくて、それだけでもグッときますね。ヴィヴァルディのこの曲は特に。高校生の時のemiさんの琴線に触れたのがよく分かります。音楽というのはハートを揺さぶるものですね。私は昨日上岡敏之さんが指揮の新日本フィルを聴いてきました。R.シュトラウスの「町人貴族」と「家庭交響曲」だったのですが、指揮者も演奏も素晴らしくて久しぶりに感動しました。
投稿: さる子 | 2009年4月28日 (火) 23:19
さる子さん。3つのギターのためのコンチェルト、聴いてくださりありがとうございます。
そうなんですよね。どこかギターの音色は物悲しくて、でも行灯やキャンドルの灯りのような温かみがあって。高1の時のあの体験は心の琴線、そして体中の細胞が揺さぶられたひとときでした。
上岡敏之さんは独特の楽曲の解釈もとても支持されていらっしゃる方でらっしゃいますよね。
「町人貴族」「家庭交響曲」タイトルも素敵ですね。
投稿: emi | 2009年4月29日 (水) 09:38
部室、懐かしい写真ですね。32年前、2つ年上の先輩達がとても大人に見えた15歳の夏でしたね。
『3つのギターのためのコンチェルト』・・・調和の霊感という言葉も素敵に思えたな。音が調和して、霊感が走るような、心が震えるような音色・・・先週では、先輩達が、「出だし、走りすぎないで」「もっとここはゆったり」とか「トリルをはっきりと」とか、繰り返し練習していた記憶が。自分でもフレーズをまねて弾いていたっけ。記憶が一気に鳩小屋に戻りました。
私たちの演目「クシコスポスト」、大内先輩の指揮だったっけ?ギターの弦、よく切っちゃったな。
投稿: ちあき | 2009年6月 2日 (火) 20:32
ちあき!
ブログ見てくださっていたのですね。ありがとうございます。
そう。2つ年上の先輩たち、ため口もきけないほど大人にみえましたよね。
そうですよね。あの曲、和音の響きがびびって電流が走るような美しさがありましたよね。
私は、あの涙が出た日の印象が強くて、その後の練習の詳細とかあまり覚えていないのです。
>「「出だし、走りすぎないで」「もっとここはゆったり」「トリルをはっきりと」。
ちあき、よく覚えていましたね。
私たちが演奏したクシコスポストより、3つのギターのためのコンチェルトの方が記憶に残っているかも(^_^.)
あの曲、マンドリン部の当時15歳の私たちみんなの記憶に残っているのかもしれませんね。
投稿: emi | 2009年6月 4日 (木) 20:12