全日本の浅田真央のフリー『鐘』の余韻がずしり。
全日本フィギュア、素晴らしい大会でしたね。なんといっても浅田真央のフリー。凄かった。
今シーズン、ずいぶん賭けに出ましたよね。
特にフリーのラフマニノフの『鐘』。
誰もが知っている曲。明るい曲調で観客がノレル曲。
スローパートとアップテンポのめりはりがはっきりしている曲。
が安全な曲だと思うのです。
ノッてくれる観客が大舞台の緊張をときほぐしてくれたり。
重厚な曲は、はまれば圧倒的な迫力と独特の空気感をリンクに充満することができるけれど、
失敗すれば、観客の「息を呑む静けさ」はさらに選手にプレッシャーを増長(
先シーズンの『仮面舞踏会』では、ジャンプの直前の観客の奇声?が
静まりかえったリンクに響き、ジャンプの失敗につながったのでは)。
それでも、五輪の大舞台の今シーズン、
昨年に輪をかけたリスキーなプログラムを持ってきたタラソワコーチ&浅田陣営。
だからこそ、トリプルアクセルを1回にする他多少の安全策はあったものの
「そつなく、うまくまとめました、加点狙いです」というような『計算』よりも、
「私たちが今見せたいものを見せる。
取り組んでモノにしたい技術を披露する」。
そんな損得なしの『突き動かされる欲求』を感じます。
私はロシアが好きなのですが、私の中でのロシアのイメージって、
<合理性、効率くそくらえ、抑えきれない欲求に突き動かされる狂気にも似た情熱>。
まさにタラソワ&浅田真央組はロシア魂そのもの。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
浅田真央本来の魅力は、白いコスチュームで滑るCMの雰囲気。
妖精。ふわふわ。春の日差しのような「陽」かなと思います。
それをすべて封印したかのようなラフマニノフの『鐘』。
ここまで自分の世界を作り出すとは!!
曲のめりはりがあるわけでもなく、ある意味一本調子で進みます。
スローパートで休みどころをつくるわけでもなく、
息もつかせぬまま曲頭から最後まで怒涛の展開。
その分、コミカルやコケティッシュなどの要素はなくずっとシリアス。
表現の幅という意味では表現力をアピールしづらいですよね。
でも、4分間あの激しい振り付けを滑りこなせた。
それが彼女の表現力。
スタミナ、技術、すべての面で多くの選手だったら
「表現する」うんぬん以前にクリーンに滑りきれないプログラムでしょう。
ステップに入る前やステップの最中の、
すばやくくるくるっと位置を移動させながら回るツイズルが特に好きです。
まだ19歳の彼女にこんな正反対のプログラムを当てるなんてタラソワさんは鬼だけど凄い。
美内すずえの『ガラスの仮面』で月影先生が陽のマヤに春の光のような王女、
華やかな亜弓に氷のように暗い王女を演じさせた場面を思い出したのは私だけじゃないはず。
長野五輪アイスダンス金メダルのグリシュク&プラトフのフリー『メモリアル』も思い出しました。
解説の五十嵐さんに「すさまじい」といわしめたプログラム。
同じ調子で緊迫感がずっと続いて、
それを圧倒的な技術とスタミナで滑りきり、
リンクにずしりと深い余韻と残した伝説的なプログラム。
『鐘』はまさにこの系統。
バンクーバーでこの浅田真央の4分間が空気をどんな風にかえるのか楽しみですね。
4年分の成長をこの1年間で果たしたぐらい密度が濃く、
過酷な一年を浅田真央は乗り越えたのだと思います。
全身全霊で挑戦するのに値するプログラムを滑ることができる、
それは人一倍の努力が必要だけど選手として幸せなことでしょう。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
全日本では観客のみなさんも素晴らしかったです。
テレビでみている限りでは、浅田真央の気をそぐような奇声があがることもなく、
最後まで静かに息を呑んで彼女を応援しつづけた空気が伝わってきました。
« デュエムその2 これもデュエム、こちらもデュエム | トップページ | 鈴木明子の魅了ステップ、充実のEX »
「 フィギュアスケート」カテゴリの記事
- りくりゅうペアでみてみたいプログラム、村元哉中&クリス・リードの桜をテーマにした名プロゴウラム(2022.03.13)
- 北京五輪。りくりゅうペアにじ~ん。涙涙。一緒に滑られるしあわせがあふれていました(2022.02.20)
- フィギュアスケートアイスダンスのクリス・リード&村元哉中の桜の名プログラムは永遠。(2020.03.17)
本当にその通りだと思います。あの様な重厚な曲で、あんな迫力、力強さを表現していたのは、真央さんだけです。心の底から鐘がひびきわたった!すばらしかったですよね。オリンピック銀なんて、どうでもいいことです。この鐘は、何十年先にも、何度も見たくなる歴史にのこるプログラムだったと思います。
投稿: maki | 2010年2月27日 (土) 14:18
makiさん。はじめまして。本当にそうですよね。誰よりも重厚で力強く、「たおやか」ではない女性の、人間の美しさがありましたよね。makiさんの「オリンピック銀なんてどうてもいいことです」のお言葉うれしいです。見るたびに引き込まれてゆく語り継がれるプログラムになるでしょうね!
投稿: emi | 2010年2月27日 (土) 19:11