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2010年4月 2日 (金)

ラフマニノフの前奏曲嬰ハ短調「鐘」について調べてみました

浅田真央が今シーズンのフリーで使用した、ラフマニノフの「鐘」について調べてみました。

【タイトル】

Прелюдия cis-moll(プレリューディヤ) op. 3 № 2」
(Prelude in C sharp minor/前奏曲 嬰ハ短調)

5つの小曲からなる「Пьесы фантазии(ピエスィ・ファンタージー)」
(Morceaux de fantaisie/幻想的小曲集)におさめられた小曲。

ラフマニノフが19歳の時に作曲。
1982年10月8日モスクワ電気博覧会の祝賀会のアンコールで初演。

【ここで聴けます】

ラフマニノフ自身がこの曲を演奏したものがネットでフル試聴できます(2010.4.1現在)
2パターンあります。

ロシアのラフマニノフに関するサイト「
Сенар」→「Аудиозаписи」(ttp://www.senar.ru/records/)へ。

Акустические Механические と文字が並ぶ画面が開きます。(★)

1921年10月14日、ラフマニノフ演奏(計3分39秒)
★の画面で左側のАкустическиеを選択。一番左上の「Рахманинов (пьесы)」にマウスで矢印を当て、右側一番上に現れるПрелюдия cis-moll をクリック。小窓が出て演奏が始まります。

1919年3月17日、ラフマニノフ演奏(計3分45秒)⇒
★の画面で右側のМеханическиеを選択。一番左上の「Рахманинов (пьесы)」にマウスで矢印を当て、右側一番上に現れるПрелюдия cis-moll をクリック。小窓が出て演奏が始まります。

②の演奏の方が少しもったいぶっているといいますか、抑揚が強いです。

【アマゾンでは】

ラフマニノフ・プレイズ・ラフマニノフ~伝説の再創造

試聴もできます。

ラフマニノフ自身がピアノで弾く「前奏曲 嬰ハ短調」と浅田真央のフリープログラムのオーケストラ版「鐘」を比べると。ピアノの方が右手の和音に明るさを感じます。
陰鬱な中のわずかな「明」がカタルシスとなって、何度でも聴きたくなる曲ですね。

浅田真央のフリープログラムは、この前奏曲の中間部を使わず、冒頭のメロディーを繰り返すアレンジにしているわけですね。 この曲を使うだけでもフィギュアスケート女子としては異色ですし、アレンジが原曲よりさらに冒険的になっていることを実感しました。

【この曲がなぜ「鐘」と呼ばれるのか】

ラフマニノフは1913年に交響詩「鐘」を作曲していますがその曲とは関係ありません。

ラフマニノフが鐘の音に着想を得たからとも、アメリカで楽譜が出版される時に「 The Bells of Moscow(モスクワの鐘)」というタイトルをつけられたからとも言われているようです。

『ラフマニノフ・その作品と生涯』オリガ・ソコロワ著/佐藤靖彦訳(新読書社)ではこんな風に書かれています(引用部分青字)。


この小品の陰うつな、不安に満ちた性質は、「前代未聞の変化、既成のものの空前絶後の打破」を予言しているかのようである。この作曲家の創作活動において、いや一九世紀の全ロシアの音楽で初めて、金言的な主題が鐘の音-厳格で雄々しい音になったり、悲しみと不安を感じさせる音になったりする鐘の音を用いることによって、完全に具体化されたのである。 (略)
小品の根底には低音域による短いモチーフが横たわっている。その警鐘のような鐘の音は音楽の基盤を貫いている。 
(略)
曲の分量はたいしたことはないが、この前奏曲は抑制された熱情に満ち、構想の広さ、ピアニストの占める範囲の点で人を魅了する。

ただ、ラフマニノフ自身が「鐘をモチーフにした」と語っている箇所はみつけられていません。

『ラフマニノフ』パジャーノフ著/小林久枝訳(音楽之友社)でも「前奏曲 嬰ハ短調」が鐘の音から着想したことをラフマニノフ自身が語る言葉はみつけられていません。

【ラフマニノフが鐘の音をモチーフにした曲は】

「ピアノ協奏曲第二番ハ短調」の出だしの重厚な和音も鐘の音を感じますよね。
私はラフマニノフ自身のがそう語っている言葉をみつけられていませんが、「幻想的絵画」の第三楽章「涙」、第四楽章「復活祭」も鐘の音がモチーフとなっているようです。

『ラフマニノフ』パジャーノフ著 小林久枝訳(音楽之友社)でこう書かれています。

恐らく多くの人びとは、第三楽章の主題《涙》が、ノヴゴロドのソフィア寺院の鐘の四つの聖なる音色によったものだということに気づかなかっただろう。 (p116)

1913年「鐘」作曲にのくだりでは
今ふたたび、ノヴゴロドのソフィア寺院の聖なる四つの調べが、彼の作品に登場することとなった。その音色はある時は優しく、ある時は楽しく、また悲しげに、また厳しく響いた。 (p298)

【実際の鐘の音は】

私がロシアに行って、初めて寺院の鐘の音を聴いた時、思ったのは「ガムラン」みたい!ということ。いろんな大きさの鐘を速いテンポでリズミカルに鳴らすのですが、綺麗な和音というよりも不協和音系です。ウワンワンワンとうねる余韻が除夜の鐘のよう。非常に東洋的で、混沌としたエネルギーに満ちていてすごく魅力を感じました。

youtubeで興味深いものをみつけました。
①ノヴゴロドの鐘の音を聴くことができます。⇒(ttp://www.youtube.com/watch?v=JZH6UEo8P48)タイトル「
Sophia Bell-Tower in Velikiy Novgorod 」。
ラフマニノフのことも語られ、「涙」「復活祭」もバックに流れます。

②ロシア正教の鐘の「ガムラン」ぶりはこちらの映像を⇒(ttp://www.youtube.com/watch?v=VARkxF__SWw)タイトル「Алексей Веретельников звонит на пасху в колокола
奏者が鐘をつく様子もよくわかります。

【ラフマニノフ、前奏曲嬰ハ短調について語る】

ラフマニノフがこの曲について語っている興味深いインタビューをみつけました。
前述の「Сенар」のこちらのページです。ttp://www.senar.ru/articles/cis-moll/
「Моя прелюдия cis-moll(私の前奏曲嬰ハ短調)」というタイトルの記事。

この曲をどう弾くべきかということを述べている何箇所かを拙訳でご紹介。
В рассматриваемой прелюдии я старался  приковать внимание к начальной теме. Эти три ноты в виде октавного унисона должны прозвучать торжественно и угрожающе.
前奏曲についていえば、私は冒頭の主題で注意をひきつけるようにつとめた。オクターブのユニゾン形式のこれらの三つの音は荘厳にそして脅かすように響かせなければならない。
угрожающий=威嚇的。脅威、危機が迫っている様子を感じさせるニュアンス)
Ученика нужно предостеречь от ошибки принимать ярость за широту и величавость..この曲を演奏する者は、激烈さを広がりや威厳と取り違えないよう注意すべきです。

上記の記事に関しては、ラフマニノフ資料館(ttp://homepage1.nifty.com/rachmaninoff/)のCBPさんがご自身のサイトで後半部分を訳をご紹介されています。(ttp://homepage1.nifty.com/rachmaninoff/features/interview-prelude.htm)とても素晴らしいのでぜひそちらをご覧ください。

前述の『ラフマニノフ・その作品と生涯』にはこんなくだりが。

この小品はある日突然生まれたのです。ただそれを書きとどめたのです。どんなに努力しても、離れることができないほどの力を持ってあらわれたのです。

浅田真央が、激しいけれどクールさを持って神々しく滑ったことはラフマニノフの意図にかなっているわけですね。19歳のラフマニノフと19歳の浅田真央の時を越えたコラボ。ラフマニノフも空の上でこの曲に魂を捧げた彼女の演技をよろこんでいることでしょう。

ラフマニノフと切っても切れない「鐘」の音。私はざくっとしか追っていませんが、多くの方がネットでも書いていらっしゃるようです。どうぞ詳しくはそちらをご覧になってみてください。

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emi (秋田恵美)

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。
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