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2010年6月10日 (木)

大住良之---サッカーを通して普遍的な大切なものに触れる

いよいよワールドカップ開幕ですね。
私は熱烈なサッカーファンというわけではないのですが、サッカージャーナリトの大住良之さんの文章が好きです。
引越しなどを機に購読をやめてしまったのですが、ずっと愛読していた新聞の一つが東京新聞でした。

東京新聞に3つの目当てがありました。その一つが水曜日夕刊の大住さんのコラム「サッカーの話をしよう」(現在も連載中)だったのです。
書かれているのはタイトルどおりもちろんサッカーのこと。試合の論評や、選手にまつわる記事をメインとしながら、その目線は、サポーター、試合を追うカメラマン、田舎でサッカーを楽しむ少年にまでおよびます。
大住さんが「サッカー」を愛し、「サッカーを愛する人」を愛していることが伝わってくるコラム。特に心を打たれたものを切り抜いて保管していますが、このクラップ帳は私の宝物の一つです。

連載『サッカーの話をしよう』の1996年~2001年までのコラムは、『サッカーの話をしよう』というタイトルで6巻出版されています。
けれど絶版。すばらしいコラムなのにもったいないです。
ご興味があり、この単行本もしくは東京新聞のバックナンバーを所蔵する大きな図書館に行かれる機会がある方は、ぜひご覧いただけたらと思い、おすすめのコラムを引用(青字部分)を交えてご紹介させていただきます。

※日付は新聞掲載日。丸数字は便宜上私がつけました。

報道の渦に埋もれた優れた写真にも光を  1997年9月29日。
1970年ワールドカップのメキシコ大会でペレ(ブラジル)とボビー・ムーア(イングランド)が試合後にユニフォームを交換しようと歩みより、笑顔を交わす写真を紹介し、大住さんはこう語ります。

勝負は争っていても、選手同士は結局のところ一緒にサッカーで「遊んで」いる。だれもが忘れがちだが、レフェリーたちもその役割を通じてサッカーを楽しんでいる。観客もサポーターも、みんなサッカーを楽しむ仲間なのだ。
そんなメッセージを伝わる写真を撮ることが得点シーンを撮ることと同じように大切だと語っています。

真実の瞬間逃さぬ伝説のカメラマン  1998年5月11日
1978年のワールドカップアルゼンチン大会での体験が書かれています。カメラマンへのビブス(ゴール裏への入場許可を示す)の割り当てが厳しかった中で、決勝戦の報道陣の控え室で大住さんは、ビブスを着て、報道機材とはいえないような小さなカメラを首から提げた老人をみかけます。コネでビブスを手に入れた引退カメラマンだろうと怒りを覚えたそうです。けれど、後にこの老カメラマンが撮った写真を見ることとなります。その写真というのは「魂の抱擁」というタイトルで大会の最優秀写真賞を受賞した1枚。地元アルゼンチンの初優勝が決まった瞬間を撮影したもの。ゴール前で抱き合う二人の選手のそばに走り寄る一人のファン。

だがよく見ると、彼には両腕がなく、セーターの袖の部分がだらりと垂れ下がっている。彼は選手たちに抱きつくことはできない。しかし気持ちの中では、しっかりと抱きしめていたに違いない。
大住さんはこのアルゼンチン人の名カメラマン、ドン・リカルド・アルフィエリを、コネでビブスを手に入れたカメラマンと思ったことを恥じます。

私は物事の表面しか見ない自分を恥じた。小さなカメラ一台でも、天才は「真実の瞬間」を切り取り、多くの人に感動を与えることができるのだ。

コラムとともに掲載されている「魂の抱擁」。すごくいい写真です。

フェアプレーへの信念  1999年2月17日
イングランドFAカップ、アーセナル対シェフィールド・ユナイテッド戦(1999年2月)でのこと。試合中、負傷者の手当てのためにボールを外に出す。そしてスローインで相手にボールを返す行為。ルールではなく善意でおこなわれきたこの慣習を把握していなかった選手が、スローインのボールを奪って得点に結びつけてしまったことが書かれています。決勝点になってしまったこの行為に負けたチームが怒ったのは当然のこと、勝ったチームのベンゲル監督も試合終了後
「あの2点目はスポーツ的な観点で正しいものではなかった」と再試合を申し出たのだとか。
プロにとって、勝利は何よりも優先させなければならないものだ。しかしひとりのスポーツマンとして、ベンゲル監督はこのゴールで勝利を得ることを望まなかった。そして自らの信条に従って試合を「振り出し」に戻す勇気が、彼にはあった。
とベンゲル監督のフェアプレーへの行動を讃えています。

対戦国の国歌に敬意を   1999年6月9日。
国際試合の試合前におこなわれる両国の国歌斉唱・吹奏について書かれています。相手の国歌が流れている時に動いている人が多いのが残念であること、けれども、日韓ワールドカップの予選---なんとしてでも勝ちたい韓国戦、イラン戦の時であっても

日本のファンは韓国やイランの国家に敬意を表し、拍手を惜しまなかった
と観客の様子が述べられています。

自分たちが非常に大事にしているもの、人によっては神聖とさえ思っているものを、他人が軽視し、無視するような態度をとったら、どんな気持ちがするだろうか。逆に、しっかりと敬意を表してくれたら、どれほど気持ちのいいものか。
と、他の国の国歌に礼儀正しい態度で臨もうと呼びかけています。

「景観」となったゴー  1999年8月11日
コラムとともに掲載されている写真が印象的。それは、世界各地のサッカーのゴールポストの写真集「ポスト」(イギリス・ペンギンブックス)からの1枚。ボツワナの乾いた大地に、2本の枝を立てそこにもう1本の枝を横に渡しただけの素朴なゴールポストが立っている様子を写した写真です。
この写真集が取り上げているのは、公式戦がおこなわれるスタジアムのゴールではなくて、チュニジアの砂漠、ラトビアの雪原、パラグアイの農場の片隅などなどのゴールポストなど、大半は手作りで草サッカーのためのものだそうです。大住さんは、

ページを追っていくと、それぞれのゴールが見事に「景観」の一部になり、その土地に住む人々の生活ぶりをあまりに的確に表現しているのに驚く。そして。サッカーが世界中にくまなく広がっていることが、あらためて認識させられるのだ。
と語っています。

英独軍 敵味方を越え  2002年1月23日
第一次世界大戦のクリスマス停戦時に敵味方であった英独軍がサッカーをおこなったことについて書かれています。このエピソードは有名ですよね。NHKでも数年前、アニメドラマとして放送されていました。この時のイギリス兵の一人の証言もコラムの中で紹介されています。

「最初は、ただ見合っていた。何をしようということもなかった。そのうちにだれかがサッカーをやろうと言い出した。もちろん戦場にサッカーボールなんてなかった。そのへんのぼろきれを集めて丸め、つくりあげた。それをけり始めると、すぐさま試合になった」。
大住さんは砲弾がつくった穴だらけの戦場で兵士同士が解放感に浸ってサッカーに興じる姿を描いています。そして、サッカーを楽しむうちに、敵である相手に対して「とてもいい連中」「紳士たち」という思いが芽生えたことも。サッカーをやめて、また敵味方に戻った時、サッカー仲間となった相手に銃を向けることが容易ではなかったそうです。

ヨーロッパのサッカーは、第一次世界大戦後に大きく観客数を伸ばした。それは戦争体験より、平和の尊さ、何も心配なくサッカーを楽しめることのありがたさを、人々が再認識した結果に違いない。
と述べています。

以上6編をご紹介しましたが、サッカーについて語られているのに、自然に自分自身の環境にあてはめて読んでいたりします。
たとえば①。敵味方になっても俯瞰でみれば同じことを楽しむ仲間、って私たちの日常にも置き換えられますよね。いろんなこぜりあいがあったり、自分にとっての悪役が人生に登場することもあるけれど、すべてを達観したら同じ芝居に参加している仲間なのかなって思うことがあります。
④では、3つのリスペクト(自分自身、優越感を感じる相手、劣等感を感じる相手)の大切さを感じさせられます。

スポーツマンシップ、フェアプレイ精神etc.。大住氏がサッカーについて語ることが普遍的な大切なこと、人としてのあり方に通じる。そこが面白いです。
一つのジャンルに突き詰めればつきつめるほど、そのジャンルに疎い人が共鳴できなくなりそうですが、そうではないのですね。
魚屋さんがブログで魚のことだけを書いても、きわめれば、その体験は魚の世界を知らない多くの人に通じるものがでてくるのでしょう。

私は天文の専門家ではありません。けれど、私なりの視点でこれからも星の話を綴っていきたい、星のことを語りながら普遍的なことにつながったらと大住さんの文章を読むたびに、「お手本」にしたいと思うのです。

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さて、『サッカーの話をしよう』について整理します。
東京新聞で1993年から水曜日夕刊にて連載。現在も継続中。

1993年~1996年までのコラム→「サッカーの話をしよう」大住良之オフィシャルアーカイブサイト(ttp://www.soccertalk.jp/)で閲覧できます。

1996年~2001年までのコラム→書籍『サッカーの話をしよう』全6巻(NECクリエイティブ)にまとめられています。

※時系列ではなく、テーマごとに収録。ですので、1巻が1996年のコラム。6巻が2001年というわけではありません。また、写真も新聞連載時とは若干違っているものも。⑤ボツワナのゴールポストの写真はなかったように記憶しています。

2002年~2009年までのコラム→抜粋された64編が書籍『サッカーの話をしよう ワールドカップ予選をめぐる64の話』に収録されています。

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※「サッカーの話をしよう」大住良之オフィシャルアーカイブサイトはアーカイブ化が進行中のようですので、以上は2010.6.10現在のデータです。

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emi (秋田恵美)

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