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2010年8月23日 (月)

雪の結晶を観察した人たち(その10)・・・韓嬰。中国では紀元前140年ごろに雪の結晶が六弁であることが知られていた

雪の結晶の観察の歴史を継続して調べています。
(その10)は韓嬰ですが、順番としては年表の一番最初(最古)に位置する人物となります。
以下、引用部分は青文字です。

中谷宇吉郎氏は著書『雪』(岩波文庫)の中で、
雪の結晶を初めて認識した人はアルベルタス・マグヌスで、一二五〇年代のことである
と書いています。
そして雪の結晶が六方晶系であることを初めて指摘したのがケプレル(p40~41)と記しています。
(私メモ:ケプラーのこと)

ですが、中国おそるべし!! 紀元前にすでに雪の結晶が六弁であることに気づいていたようなのです。

 

 

 

 

 

小林禎作氏は『雪華図説新考』の中でこう書いています。
雪の結晶の六方対称が初めて記載されたのは、
紀元前一五〇年ごろに、中国は燕の人韓嬰の撰になる『韓詩外伝』とされている。
この書のうち、雪の六出について記載した部分は今日に伝わっていないが、
十世紀に書かれた『太平御覧』第九巻天部には、
『韓詩外伝』にすでに「凡草木花多五出、雪花独六出」とみえるとある。
つまり草木の花のは多く五弁であるのにたいし、
雪の花だけは六弁であるという意味である。

(p50)

国立国会図書館サイト(ttp://rnavi.ndl.go.jp/kaleido/entry/jousetsu134.php#1)でも
『藝文類聚』の中で、「韓詩外傳曰凡草木花多五出雪花獨六出雪花曰霙雪雲曰同雲」と書かれていることに触れ、
前漢時代の学者韓嬰は2000年以上も昔に
雪の結晶が六角形であることを「韓詩外傳」の中に記しています。
唐代にまとめられた『藝文類聚』には、
韓詩外傳に雪の花は六出であるとの記述があったと伝えられています。

と記しています。

 

そこで、自分自身で確認することにしました。

①まず、こんな本をみつけました!!

 

 

 

 

 

『MARUZEN 科学年表 :知の5000年史』(丸善 1993)

P41の【紀元前140~131】【物理科学】の欄で
詩経の韓詩学派のテキストを解脱する道徳書(韓詩外伝)を韓嬰(Han Ying)が刊行.この本ではじめて雪片の6角形の性質について記述.

 

と書かれています。

②国立国会図書館で『韓詩外伝』を閲覧。
確かに現存する『韓詩外伝』には、凡草木花多五出雪花獨六出雪花曰霙雪雲曰同雲という記述はみつけられませんでした。
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小林禎作氏も国立国会図書館のサイトも、後世の書物が『韓詩外伝』に上記の記述があったこと伝えているとしています。
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後世の書物を調べてみました。


私の調べ方は
Ⅰ 大漢和辞典、漢語大詞典などの辞書を見る
Ⅱ 中国のサイトを見る
Ⅲ Ⅰ、Ⅱでみつけた書物を図書館で見て、実際に記載されているかを確かめる。
の方法を取りました。


結論として、やはり中国おそるべし。

以下『韓詩外伝』を引用している中国の書物を挙げます。

 

『①『宋書』488年完成した南朝宋の正史。 ←日本の古墳時代。
大明五年正月戊午元日,花雪降殿庭。時右衞將軍謝莊下殿,雪集衣。還白,上以爲瑞。於是公卿並作花雪詩。史臣按詩云:「先集爲霰。」韓詩曰:「霰,英也。」花葉謂之英。離騒云:「秋菊之落英。」左思云「落英飄颻」是也。然則霰爲花雪矣。草木花多五出,花雪獨六出
(見た現物は・・・『宋書』第三冊/沈約撰/中華書局 1974 p873)

②『藝文類聚』唐の時代、624成立。 ←飛鳥時代。
巻第二 天部下 雪の項で
韓詩外傳曰凡草木花多五出雪花獨六出雪花曰霙雪雲曰同雲。
(見た現物は・・・『藝文類聚』上/欧陽詢撰/上海古籍出版社/1982 p23)

③『初学記』唐の時代、728年に撰。 ←奈良時代初期。
第二巻 天部下 雪二
韓詩外傳曰凡草木花多五出雪花獨六出
(見た現物は・・・『初学記』第一冊/中華書局/1962 p27)

④『太平御覧』宋代初期、983年ごろ成立。 ←平安時代中期。
巻第十二 天部十二 雪の項で
韓詩外傳曰凡草木花多五出雪花獨六出
(見た現物は・・・『太平御覧』第一巻/大化書局/1977 p58)

⑤『埤雅』宋の時代(撰の陸佃の生年、没年は1042~1102年なのでこの間の時期に成立)
                     ←平安時代後期。
巻十九 釋天の雪の項で
韓詩外傳云雪華日霙凡草木華多五出雪華獨六出
(見た現物は・・・『埤雅』第二巻(百部叢書集成:五雅全書)/陸佃撰/藝文印書館/1967)

 

というようにいくつの書物が『韓詩外伝』で雪の結晶が六出であることを記述しているため
、中国では、雪=六出(6弁の花状)であることが早い時代から知られていたことがわかります。
そして、調べていく中で、漢詩にもうたわれていることがわかりました。
日本で換算すると上記の資料は古墳時代の頃から平安時代のもの。
ケプラーが1611年に『Strena seu de nive sexagula』で雪が六角形であることを述べたはるか以前です。驚きですね。
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・『韓詩外伝』を引用している中国の書物は複数の資料に目を通し、
〔見た現物は〕ではその一つを紹介しました。
・できるかぎり原典の漢字の表記に忠実にしていますが一部、日本語のパソコンで出る漢字になおしています。
一例:原典では「雪」の字はヨの真ん中の横棒が突き抜けていますが、パソコンで出ないため普通の「雪」にしています。
・以上は私自身が調べて書いているもので、これからも加筆修正ありえます。無断転載はご遠慮ください。

次回は六出が出てくる漢詩をご紹介します。

【雪の結晶を観察した人たちシリーズ】INDEXはこちら
【雪の結晶の文化】INDEXはこちら
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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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