中国で六出が出てくる文献さがし。「釈名」に記載はあるのか
多くの方はご興味のないことと思いますが、
中国で雪の結晶を「六出」と表現している文献を探している中で、
1つ疑問だった文献が「釈名」でした。
まだ途中ではありますが、自分自身の整理のためにも書きました。
「釈名」(後漢時代、劉煕撰)に六出の記述があると
中国語のサイトでみかけたので調べてみました。
①国立国会図書館で「釈名」劉煕撰を見ました。
六出の記述はみつけられませんでした。
②「本草綱目」(明時代、李時珍撰)に、
劉煕の釈名の六出の記述が書かれているようだということがわかりました。
ネットで「本草綱目」を閲覧できるページをみました。
維基文庫,自由的図書館(维基文库,自由的图书馆)
→本草 綱目(本草纲目)→水部→水之一天水類十三種
2つの項目で記載があります。
◎臘雪 【釋名】時珍曰︰按劉熙《釋名》云︰雪,洗也。洗除瘴癘蟲蝗也。
凡花五出,雪花六出,陰之成數也。
冬至後第三戊為臘。臘前三雪,大宜菜麥,又殺蟲蝗。
臘雪密封陰處,數十年亦不壞;用水浸五穀種,則耐旱不生蟲;
洒幾席間,則蠅自去;淹藏一切果食,不蛀蠹,豈非除蟲蝗之驗乎。
藏器曰︰春雪有蟲,水亦易敗,所以不收。
◎雹【释名】时珍曰︰程子云︰雹者阴阳相搏之气,盖气也。
或云︰雹者,炮也,中物如炮也。
曾子云︰阳之专气为雹,阴之专气为霰。陆农师云︰阴包阳为雹,阳包阴为霰。
雪六出而成花,雹三出而成实。阴阳之辨也。《五雷经》云︰雹乃阴阳不顺之气结成。
亦有懒龙鳞甲之内,寒冻生冰,为雷所发,飞走堕落,大者如斗升,小者如弹丸。又蜥蜴含水,亦能作雹,未审果否?
③日本で出された「本草綱目」を見てみました。
『國譯本草綱目』 第3冊 水部・火部・土部・金石部/李時珍原著 鈴木真海訳/春陽堂書店/1979
臘雪の項はp11~12
【釋名】時珍曰く、按ずるに、劉熙の釋名に『雪は洗なり』とあって、瘴癘蟲蝗を洗除するものである。
凡そ花は五出,雪花は六出であって、これは陰の成數である。
冬至後第三の戊の日を臘といひ、臘以前に三回の降雪あれば、菜、麥の發育に好影響があり、
また蟲蝗を殺すものである。
臘雪を光線の當らぬ處に密封して置けば、數十年の長きもそのまま消けずにある。
その水に五穀の種を浸せば、旱魃に耐へて、蟲が生ぜず、
室内に酒げば、蠅が自ら去り、一切の果物、食物を水で深く貯蔵すれば、蛀蠹に傷められぬ。
かやうな効果は、如何にも蟲蝗を除くの實證ではあるまいか。
藏器曰く、春雪には蟲があり、水も腐敗し易いから取らぬことになつて居る
◆この本をみると、劉熙が「釋名」で記述したのは、『雪,洗也』という部分だけで、
その後の六出のくだりは、「釋名」からの引用ではないことがわかります。
ややこしいですが、「本草綱目」のそれぞれの項の最初の【釋名】は、
劉熙の「釋名」ではなく、名前の由来、考証などの意味で使われています。
雹の項はp12~13
【釋名】时珍曰く、程子は『雹は陰陽相搏つの氣である』といふ。
蓋し沴(ワザハヒ)の氣である。或は雹は砲であって、物の中ること砲の如しといふのだともいふ。
曾子は『陽の専なる氣は雹となり、陰の専なる氣は霰となる』といひ、陸農師は『陰が陽を包んで雹となり、陽が陰を包んで霰となる。
雪は六出で花を成し、雹は三出で實を成す』といふ。
これは陰陽に就てのみの説明である。
五雷經には、『雹は陰陽不順の氣の結成である。
また、懶龍の鱗甲の内が寒凍したために氷が生じ、その龍が雷のために發動せられて中空を飛走するとき、
その冰が堕ちて來るものもあって、大なるものは斗升ほどあり、小なるものは弹丸ほどある』とある。
また蜥蜴が水を含むとよく雹になるなどともいふが、果たしてさやうな事實があり得るや否やは審でない。
(私メモ、文字がPCで出なかったのですが砲の字は本では己じゃなくて巳となっています)
④日本で出されたもう一冊を見てみましょう。
『本草綱目啓蒙 : 本文・研究・索引』/小野蘭山[著] 杉本つとむ編著/早稲田大学出版部 1986
この本は李時珍の「本草綱目」をもとに小野蘭山が講義したものを弟子が書き起こしたもののようです。
臘雪の項目(p10)をみてみると、
まず雪の異名として、ムツデハナ、ムツノハナ、六出花、六出公などの記載があります。
臘ハ釋名ノ下ニ冬至後第三戊為レ臘ト是本説ナリ後世ハ十二月ノ八日ヲ臘日ト定ム雪花ハ必ス六出ナリ凡ソ雪降ラントスル時霰ト雑リ降ル大雪ノ時ニハナシ其状水斳ノ花ニ似テ六瓣薄クヒラタシ大サ一分餘ニ落テ消易シ春ニ至レハ五瓣ニナルト云フ説ハ誤リト云フ五雑組ニ瓣セリ 臘雪ハ十二月ニ降ル雪ヲ採リ貯テ藥用ニス故名ク 臘雪ヲ貯テ夏月△毒ヲ解ス其法醫宗椊言ニ出タリ
(私メモ、△のところの文字は執の下に火の文字。PCで出ませんでした)となっています。
・李時珍の本文とだいぶ変わってます。
・劉熙の「釋名」についての言及はなし。ですが「雪花ハ必ス六出ナリ」は漏らさず記載されています。
・雹の項目は原書とはずいぶん違っていて「六出」という言葉はみられません。
原書(中国語の本草綱目」)をあらためて図書館で確認しようと思いますが、今の時点の結論としては
後漢時代の劉熙の「釋名」に六出の記載はなし。
ただし、明時代(1596年)に出版された李時珍著の「本草綱目」には、水部の臘雪と雹の項に六出の記載がある
といえるでしょう。
(2011.1.11追記)
国立国会図書館が「本草綱目」をデジタルライブラリーで公開しています。
行かずに見ることができるなんてありがたいことです
しかも中国で1596年に出版された原書の初版のデジタル化のようです。ありがたや~。
今日現在のURLは(ttp://www.ndl.go.jp/nature/img_r/001/001-06-008r.html)
国立国会図書館のトップページ(ttp://www.ndl.go.jp/)から辿るには
→電子展示会→描かれた動物・植物→いろいろな見方・楽しみ方
→じっくりと読み込む全ページライブラリー
→本草綱目(205-5)→各巻総目次→第六冊第5巻→全53ページ中の008ページをクリック。
右側のページに臘雪の項目。その中に凡花五出雪花六出陰之成數也
左側のページに雹の項目。その中に雪六出而成花雹三出而成實の文字をお読みいただけると思います。
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