『実隆公記』で発見! 彗星、日蝕月蝕、夜の虹?も
1月27日のブログの続きです。
『実隆公記』。
あまりにボリュームがあって、
続群書類従完成会から出されている20巻の5巻までしか目を通していませんが、
とても面白いです。
実隆が筆でさらさら書いている原文は私には解読不可能。
この本は活字で起こしてくれているのでありがたいです。
すべて旧暦で書かれています(
※)は暦変換サイト「換暦」(ttp://maechan.net/kanreki/)で私が変換した西暦、ご参考までに。
『実隆公記』からの引用部分は青文字。
旧漢字の一部はこのブログの入力の都合で現在の漢字に直しています。
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実隆 彗星を見る!
延徳2年11月22日(※西暦1491年1月11日)の日記より
抑西方如彗星之星光現 (巻二下 p504)
抑=そもそも。接続詞。
<西方に彗星のような星の光が現れた>となるでしょうか。
1491年に彗星なんてきたのかしら、とネットでみてみると。
国立天文台のニュースを2つ発見!
★1996年3月7日の天文ニュース(21)
【もっとも地球に接近した彗星の話】の中で
1491年2月に1491 B1彗星が0.0094天文単位にまで近づいたといわれてはいますが、この軌道は正確なものではありませんので、この表には含めてありません。
と書かれています。(ttp://www.nao.ac.jp/nao_news/mails/000021.txt)
★2003年12月11日の天文ニュース(688)より
1979年に長谷川一郎(はせがわいちろう、大手前大学教授)さんは、東洋の古記録を調べて、1491年初頭に現れた「C/1490 Y1」という彗星がりゅう座流星群の母天体の可能性があると指摘していました
と書かれています。(ttp://news.local-group.jp/naoj_news/688.html)
実隆がみたのはこの彗星に間違いないでしょう。
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実隆、隕石の音を聞く?
文明10月14日(※西暦1483年11月23日)の日記。
今夜有流星云々、鳴動驚聴了 (巻一下 p466)
<今夜、流れ星があって、大きな音がして驚いた>という意味でしょうか。隕石が大気中を通過する時の音を聞いたのかしら。
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金星が木星を隠す?
文明15年9月28日(※西暦1483年11月7日)の日記
聞、去廿六日太白侵歳星、将軍愼、大喪連、萬民飢、兵革□、占文旨可愼者也 (巻一下 p461)
太白は金星、歳星は木星のことです。となると、
<さる26日に、金星が木星を侵したことを聞いた>という意味でしょうか。
金星が木星を侵すという意味がわからないのですが、金星が木星の前を横切って隠したということなら、天文用語でいうところの「掩蔽(えんぺい」かなと…。ネットで少しみた限りでは1483年にそんな現象があったという記録はみつけられませんでした。
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実隆、夜の虹(ムーンボウ)を見る?
文明17年5月16日(※西暦1485年7月7日)の日記
天快晴、及晩雨濺、虹霓現 (巻一下 p593)
<空は快晴、晩に雨そそぐ。虹が現れた>と書かれています。
この虹が謎です。「晩」の雨の後に現れたということですよね。となると考えられるのは二つ。
(1)「晩」が何時頃か。古語辞典で「晩景」は夕方の風景とでるので、雨が降ったのは夕方でそのあと西日を受けて虹が現れた。
(2)「晩」が現代のように夜になってからの時間だとしたら。虹が出たのも夜となります。
となると・・・・・意味するのは「ムーンボウ」。
虹というと太陽の光がつくるものというイメージが強いですが、満月などの光量の多い月だと、太陽と同じように虹を作ることができるのです。太陽が作る虹ほどカラフルなものにはなりませんが。
旧暦は月の満ち欠けとリンクしていて15日前後が必ず満月となります。
旧暦の5月16日の月も満月か月齢14、16日ぐらい。となるとムーンボウも十分みることができるのです。
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日蝕
文明16年9月1日(※1484年9月29日)の日記
今日日蝕巳午刻也、但分明不現、後聞、八分蝕云々、暦面所注十五分半云々 (巻一下 p514)
<今日日食が午前9時~午後1時の間にあった。みることはできなかったけれど、あとで聞いたころによると部分日食(8割)だった>ということでしょうか。
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月蝕
文明18年7月16日(※1486年8月15日)の日記
晴、月蝕申酉戌刻云々、皆虧正現 (巻一下 p700)
皆虧は皆既のこと。<皆既月食がみられた>ということですね。
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七夕の夜
延徳2年7月7日(※1490年8月2日)の日記
天晴、星夕佳期、幸甚幸甚 (巻二下 p441)
七夕の日の日記です。佳期はデートのこと。
<空は晴れて彦星と織姫星の逢瀬がうまくいっている、このうえない幸せ>って書いているのですね。
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梅雨の長雨
文明18年5月(旧暦の5月なので今の6月の梅雨の時期)(巻一下 p676~683)
1ケ月間、非常に雨が多かったことがわかります。1ケ月の日記の天気に関するところだけをまとめてみると
1日 2日 3日 4日→ 5日 6日 7日→ 8日(地滑りがあったことが書かれています) 9日 10日 11日 12日 13日 14日 15日 16日 17日 18日→ 19日→ 20日 21日→ 22日 23日→ 24日 25日時々→ 26日時々 27日 28日 29日 30日
ひと月の半分ぐらい雨が降っていたことがわかります。
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その他、実隆の風流さetc.がわかる表現。
◆文明18年9月13日(※1486年10月19日)
陰雨降、名月無念々々 (巻一下 p713)
旧暦9月13日の月はいわゆる「十三夜」の月。豆名月、栗名月と呼ばれ「十五夜」の月と並んで名月と言われています。<曇り、雨降る、名月無念無念>と繰り返すところに名月がみられなかったがっくり感がでていますね。
◆文明19年2月9日(※西暦1487年3月13日)
天晴、風静和暖、始而知窓之春色 (巻一下 p759)
空は晴れてそよ風が吹いてあたたかくて、窓のそとには春の色というどのかな風景が目に浮かびます。
◆日記を読んでいくと、実隆が見てきたこと、感じたことがわかってきて親近感を感じてしまいます。
時々でてくるのが「終日無事」という書き込み。
たとえば文明9年閏正月2日 (巻一上 p204)には終日安閑無事。7日(p205)には、雪降、終日無事。
終日無事が書いていない日は、事件が起きたのかしら。だからこそ、終日無事ってかける日はほっとして筆を走らせたんだわと実隆の様子が目に浮かびます。
◆延徳3年7月26日(※1491年9月9日)
竹取物語終日書写 (巻二下 p614)
竹取物語を終日書き写していたということなのでしょう。
◆延徳3年8月14日(※1491年9月26日)
今夜月輝清明、言語道断也 (巻二下 p618)
旧暦8月15日は「十五夜」。15日前後が必ず満月となります。きっとこの年は14日が満月だったのかなと思います。言葉にあらわせないほど清らかで美しく輝く月だったのですね。
◆明應2年5月26日(※西暦1493年7月18日)
夕立雨降、雷鳴甚、入夜電光如晝 (巻二下 p710)
晝=昼。<夕立が降って、雷がものすごく鳴っている。夜になって電光が昼のようである>
情景が目に浮かびます。現代と違ってネオン、フラッシュなど人工的な明るいものがない室町時代。雷の明かりは現代の人よりはるかに恐ろしい明るさに感じたことでしょう。
以上、『実隆公記』から、興味を持った箇所をご紹介しました。古典の専門家でも、古天文の専門家でもありません。
「実隆公記に書かれている天文現象は当時、確かにあった」etc.ご存じの方はぜひ情報を教えてくださいませ。
「実隆公記」シリーズは2月8日に続きます。
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