『実隆公記』に出てくる星の表現その2
2月17日の続きです。雪の結晶の調べものから脱線した『実隆公記』をもう少しだけ。
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◆文亀元年8月3日(西暦1501年9月25日)の日記も興味深いです。
陰陽師の安倍晴明の一族である安倍有宣が7月29日に語った言葉が記されています。
今月廿七日寅時月之暈有軒轅度、(其躰三十也)天文要録云、月之暈見軒轅度、其分野大旱、石申曰、月入軒轅中有逆賊臣、天子愼之(私による略)又云、月之暈入軒轅天下人飢死、火災起(以下略)
<軒轅(けんえん)>とは中国流の星座で、およその位置はしし座に当たります。星の位置で国の吉兆を読んでいたことがうかがえる一文です。
シリーズの第六巻(巻三下)にもいくつか天文現象が出ています。
◆文亀元年9月14日(西暦1501年11月4日)の日記
月行変、歳星入月。 (巻三下 p739)
歳星は木星のこと。木星が月に隠される木星食が起きたのでしょうか。
◆翌日、文亀元年9月15日(西暦1501年11月5日)も皆既月蝕があったようですね。
晴、今夜月蝕也、皆既正現出という記述があります(同 p739)
◆文亀3年3月1日(西暦1503年4月7日)の日記
晴、日蝕五分卯辰時云々、但不正現歟(巻四上 p103)
◆文亀3年8月16日(西暦1503年9月16日)
晴、今夜月蝕也、但不正現歟(同 p167)
旧暦8月15日は十五夜・中秋の名月ですがかならずしも満月になるとは限りません。一方月蝕は必ず満月の時に起こります。
16日の日記に月蝕の記述があるということは、この年は8月16日が満月の夜だったことがわかりますね。
◆永正元年閏3月2日(西暦1504年4月26日)の日記も天文現象から吉兆を占っていたことがわかります。
去月自十六日連日日月薄蝕也、天文録曰、日月蝕者、臣奪其政、主失其威、女主有失~
という記述があります。
またこの日には、
去月廿九日酉時日病、色赤無光没西山
天文要録云、日者主太陽之精也、天子象也、占云、日無光其國哭泣聲不息、君臣愼之、又云、日無光輝者、必不出其年兵革起、又云、日無光如火赤者、天下有疾疫、甘氏云、日無光者、万民餓死、又云、日無光赤者、有火災、盗賊、京房易傳云、日未入二竿亭々無光、曰死、曰病。
(同 p253)
正確には訳せないのですが、先月29日酉の刻の時に、太陽が夕焼けを持たずに西の山に沈む現象があったということでしょうか。
それは天文要録によるとかなり不吉のものであることが説明されているのですね。
※『天文要録』は中国の唐の時代につくられたとされる天文書。日本では平安時代に入ってきたとされています。
◆永正元年閏3月15日(西暦1504年5月9日)の日記では
薄蝕御祈事一通到来、則加下知了、
白蝕連日、占文之趣御愼不軽、別而抽精可祈謝之旨~
と書かれています(同 p261)
天文の異変に世の中が左右されると、昔の人が考えていたことがうかがえます。
◆永正5年3月21日(西暦1508年5月1日)
今夜有流星、其大如甕云々(巻五上 p29)
◆永正6年12月8日(西暦1510年1月27日)
天晴、早朝拝明星
現在の暦で1月27日は。夜が明けるのが少し早くなってきている時期とはいえ、早朝は凛とした寒さのことでしょう。
その中で、見上げた明けの明星(金星)は明るく、まさに「拝む」にふさわしい神々しさだったのかしらと思います。
◆永正7年4月4日(西暦1510年5月21日)
入夜有流星(同 p348)
実隆は後世の人が自分の日記を読むと思わなかったかもしれなけれど、そして日記はもっと政治のこととか業務日誌的なことも多いのだけど、私には流れ星があったとか、今日も晴れ、終日無事とか、明けの明星を仰いだとかなにげない日々の記述が人間性が伝わってきて興味があります。
※西暦は(ttp://maechan.net/kanreki/)のサイトで和暦から変換しました。
※『実隆公記』からの引用は青文字。
※一部、旧漢字ではなく入力しやすい現代の漢字に私が直しています。昔の文献を読み解くには、天文知識、古文漢文の知識もさることながら、中国の星座他の知識が必要。私の能力を完全に超えてしまっている世界なのでこれ以上『実隆公記』を追うのはやめにします。
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