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2011年10月29日 (土)

高嶋哲夫の『乱神』。神風は人事を尽くしたところに吹く

先週から一気に読んでしまった小説があります。
高嶋哲夫の『乱神』(上下) 。

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元寇の時代を描いた歴史小説です。
読み進めていた今週、<元寇の船が海底で発見>というニュースがあって(西日本新聞の2011年10月28日の記事)余計、身近な出来事に感じました。

歴史小説マニアでも武士マニアでも武器マニアでも合戦マニアでも戦術マニアでもない私がなぜこの本を手にとったか。
きっかけは高嶋さんが『メルトダウン』(読んでいませんが)の著者だったから。

『乱神 上』の最初の方を立ち読みして一気にひきこまれました。

大学の考古学科准教授の賀上俊(がうえしゅん)は色白で鼻筋の通り、女子大生から先祖にヨーロッパの人がいたんですかといわれる彫りの深い風貌。その賀上家には先祖代々伝わる短剣と十字架があった。
それは13世紀にイギリスでつくられたものであることがわかっていた。

賀上准教授は元寇の攻撃を防ぐために石を積み上げた「元寇防塁」の跡地のそばで、家に伝わる短剣と同じものを発見する。

という出だし。

そのあと、舞台は一気に中世に。
元寇の最初の襲来から2年後、イングランドの騎士エドワード・ガウェイン率いる十字軍の一行が九州に漂着した、という設定で物語は展開します。

元がさらに日本への攻撃を企てていることを知ってしまうエドワード。母国へ帰りたいと思っていたのにいつのまにか、当時の鎌倉幕府の執権北条時宗のもとで、武士を率いて、元の次の襲来に向けて力を尽くすことに…。 という物語です。

何が面白いかというと、
1 西洋の騎士と日本の武士の違い。戦術、武器などの違い。
2 2者の「戦う」大義の違い。
3 異文化の人がやってきてそこに生きる人たちとどう交流するか(江戸時代に医者がタイムスリップした『仁』にも通じます)。
4 エドワードと時宗。交流しながら、互いが自分の価値観を見つめなおさせられたり、リーダーの在るべき姿を模索したり。葛藤しながらそれぞれが変わってゆく過程の面白さ。
5 風貌も環境も何もかも違う者がリスペクトしあう様子。

とにかく面白いです。以下はネタバレになるかもしれません。

2度目の元寇に備えるエドワードたち。エドワードは今までの戦い方ではだめだと武士の意識改革をしようとします。その様子は日本企業にやってきた外国人社長のようでもあります。

元寇ってみなさんはどんな風にとらえていらっしゃいましたか。私は学生時代のうっすらとした記憶で、2度日本に襲来したけれど、2度とも、「神風(台風のようなもの)」が起きて、元の大群はダメージを受けて、日本が勝利したって習った気が。

この『乱神』 では、
エドワードや武士、民さえもが「叡智」と「勇気」と「誰かを護りたい、この国を護りたい」という思いで戦ったこと(もちろん武士は手柄のために、恩賞のためにという人も)、それも高い戦術とそれを遂行する技術あってこそ、日本最大の国難を逃れることができたということが描かれています。

確かに、たくさんの船で押し寄せてきた敵軍が台風ごときで2度も全滅してしまうものでしょうか。今考えれば、授業の時に「神風」が起きて滅んだと単純に納得していたのが不思議。

この小説を読んでふとよぎったのが映画『ターミネーター』。
第一作で、ハンバーガーショップでバイトするただの女子大生のサラ・コナーが未来を変える重要な女性となることが描かれています。それは彼女の子供が、将来人類を救うリーダーとなるから。

ただの女子大生にすぎなかったサラが2作目では、戦う技術を身につけた一戦士として鍛えられた体で登場します。人類のヒーロー、ジョンの母親であるという自覚、この世界を護るという使命を持って、彼女自身が自分を変えていったことがうかがえます。

エドワードも同じ。十字軍の一人であったとしても、彼が日本の武士たちを率いることができたのは、使命を自覚してさまざまな戦術を考えだし、一緒に戦う人を鍛え、敵に備えてきたから。サラもエドワードももともと完全無欠なヒーローではなくて、「使命」を感じてしまって、「護りたい」 ものができてしまったがために、自分をそのミッション遂行のために努力で高めた人たちなんですね。

人事を尽くして天命を待つといいますが、「神風」というのは、力を最大限尽くした人のところに吹くものなんだろうな~と思いました。

<2度目の元寇の危機を救った功労者に十字軍のイングランド騎士がいた>というのはあくまでもこの小説の設定ではありますが、「神風」という一言で授業で終わらされてしまう背景に、元寇に備えて命を懸けて防衛したたくさんの命があったのだろう、私たちの先祖の、歴史の表にでないだけで・・・。

そんなことを感じさせる小説でした。
挿絵はないので、武器、武将の姿などに詳しくない私は、描写されている刀、鎧他半分ぐらいしか想像できていないと思うのですが、十分楽しめました。

2度目の襲来、弘安の役の戦いは凄まじいです。一気にひきこまれます。小説読み終わったあと、軽いしびれというか「熱気」が体に残りました。おすすめの作品です。

調べもの魂が湧いてきて、つい調べてみました。

日本古典籍画像データベースでは九州大学付属図書館所蔵の『蒙古襲来絵詞』の画像をみることができます。
そのURL(ttp://www.lib.kyushu-u.ac.jp/hp_db_f/moukoshurai/)

『乱神』を読んだあと、この絵巻を見ると、感慨深いです。
16件目の画像では、逃げる蒙古兵が。足元には唐草模様みたいなものが描かれ、鎧も日本のものとはまったく違う様子が描かれています。
20件目では「てつはう」の火薬が爆発する?様子が。弓も日本と蒙古兵の持つものと違うフォルムが描かれています。
24件目の蒙古兵の旗は朱色に白い丸が。銅鑼を持っている人もいます。
36件目の中央の人物は解説によると安達泰盛のようですね。
45~49件目は力を結集して築いた石造りの防塁が。絵巻でもその長さを強調するように描かれています。
62件目は蒙古兵の船。装飾がきれいです。
64件目にも銅鑼が。
65件目では盾に卍の図形が。

元寇のことはこれからもっと明らかになってくることがあるのかもしれないと思うと楽しみです。

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emi (秋田恵美)

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。
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