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2011年12月27日 (火)

全日本フィギュア(その2)

女子フリーでは
浅田真央の演技後の宙をしばらく見上げ、目を閉じてほっとしたように一息つく穏やかな笑顔と、
村上佳菜子の演技後の、緊張がとけたのとミスのためか一瞬涙ぐんでしまいそうだったあとに吹っ切れたようにみせた明るい笑顔、
2人の表情に感動しました。

浅田真央は大変辛い目にあい、また練習のブランクもあり、よく出場を決めたと思ったのですが、
6分間練習でトリプルアクセルを決める力も素晴らしいです。
フリー本番ではダブルアクセル。
後半少しジャンプの乱れはありましたが、ジャンプ、スパイラル、スピン、どれをとっても別格にポジションが素晴らしく、
ジャンプのあとのポーズ他、無理な体勢から足を下ろす所作一つ一つもこまやか。
いとも簡単に踊っているようにみえますが、
スローモーションのリプレイをみると相当ハードに身体全身を動かしている振付であることがわかります。
それなのに美しくやわらかく魅せることができる技術力表現力、スタミナがすばらしいですね。
最後の鳥かごのようにみえるビールマン変形スピンも美しいです。

なによりも「愛の夢」は生身の肉体の重さを感じさせるのはNG、息遣いハアハアもNG。
どこまでも軽やかにうっとりと、少し空中に浮いているぐらいのやわらかさと風になびくようなスピードが似合うプログラム。
浅田真央以上のクオリティで滑れることができる人はいないのでは。

何よりも演技後の表情にじ~んときました。
少し天を仰いで瞳を閉じてほっとしたように息をつく。
今自分のやるべきことをやったというような満ち足りた表情。
そしてそんな彼女の頑張りをたたえ、つつみこむようなスタンディングオーベーションと惜しみない拍手。

演技後の選手の表情は、「素」の面がかいまみられすが、
彼女の演技後の素の表情はどんな時もドラマを感じさせます。
真摯にいろんなものと戦ってきていることがかいまみれます。
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浅田真央がフリーでつかった「愛の夢(Liebestraume)」について。

昨日、宮根さんの番組を見て「愛の夢」がもともと歌曲であったこと、
その詩が彼女の状況とリンクするようなものであることを知りました。

フランツ・リスト(Franz Liszt)の「愛の夢」は大好きな曲でしたが、今まで由来を知りずじまい。
調べてみました。

まず、リストの『愛の夢』について。
『愛の夢 ~3つのノクターン~』はもともと歌曲としてリストが作曲したものを、
後にピアノ曲として編曲したものだったのですね。

第一番『高貴な愛』
第二蕃『私は死んだ』
第三番『おお、愛しうる限り愛せ』からなります。

浅田真央のフリーで使われている『愛の夢』はこの第三番にあたり、
ドイツの詩人フライリヒラート (Freiligrath)の詩をもとにしています。

『フライリヒラート詩集』井上正蔵訳(日本評論社)より。

「愛しうるかぎり愛せよ」(O lieb so lang du lieben kannst)

愛しうるかぎり愛せよ
愛したいとおもうかぎり愛せよ
墓場にたたずみ なげきかなしむ
ときがくる ときがくる

なんびとか 愛のまごころを
あたたかくおまえのためにそそぐとき
おまえは 胸に愛をいだいてあたため
ひたぶるにその炎をもやすがいい

胸をおまえのためにひらくひとを
できるかぎり愛せよ
いかなるときも そのひとを悦ばし
いかなるときも そのひとを嘆かすな

わが舌をよくつつしめよ
あしざまの言葉をふと口にしたなら
ああ それは けっして悪意からではなかったのに
けれど そのひとは去り そして悲しむ

愛しうるかぎり愛せよ
愛したいとおもうかぎり愛せよ
墓場にたたずみ なげきかなしむ
ときがくる ときがくる

その時 おまえは 墓のほとりにひざまづき
うれいに濡れたまなざしをおとす
もはやそのひとの影もない
ほそいしめった墓場の草ばかり

「あなたの墓に涙をながしているこの わたくしを ごらんなさい
わたくしがあなたをののしったのも
ああそれはけっして悪意からではなかったのです」

が そういっても その人は聞きもしないし 見もしない

喜んでおまえをいだきにもこない
しばしばおまえに接吻したその人のくちびるは
ふたたび「とうに許しているよ」とも語らない
あの人は許したのだ とうにおまえをゆるしているのだ

おまえのおかげで おまえのきたない言葉のために
あつい涙をとめどなく流したけれど
今はしずかに眠っている
もうふたたび目をさましはしない

愛しうるかぎり愛せよ
愛したいとおもうかぎり愛せよ
墓場にたたずみ なげきかなしむ
ときがくる ときがくる


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びっくりでした。「愛の夢」。
恋人同士の甘いロマンスの歌とばかり思っていたのです。
うっとりするメロディーにこんなに強い歌詞がつけられていたとは。

そしてなんとこの詩は、フライリヒラートが19歳で父親を亡くした時に
(母は幼いころにすでに亡くなっています)つくった詩なのだとか!

この曲を21歳で母を失ったばかりの浅田真央が滑る、なんという縁(えにし)なのでしょうか。

「好き」と「愛する」は違いますね。
好きは自然に生まれる心の状態。
でも、愛するは意志。強く覚悟を決めた意志。

このフライリヒラートの詩はまるで結婚式の時の牧師さんの言葉のよう。
愛せる限り愛しなさい。傷つける言葉を慎んで。別れの時に嘆きかなしむことのないよう・・・。

浅田真央は使命を持ってこの世に、今の日本に遣わされたのかなと思ってしまいます。
最愛の母を亡くす、そして最期に立ち会えないという大変悲しい想いをまだ21才の若さで体験しなければならなないのはなぜか。

今年の日本には家族や愛する人を失ってつらい思いをしている方々がたくさんいらっしゃいます。
その方達にとって、また震災だけではなく、いろんな傷を心に持って日々生活している者にとって、
「幸せな浅田真央」が幸せな演技ををみせて幸せな気分にしてくれるのももちろんうれしいことですが、
同じように「辛い思いを抱えた浅田真央」が自分自身を奮い立たせて演技をすることがどれだけ勇気を与えてくれることか!

彼女はそういうお役目を担って遣わされたのかしらと思いました。

EXで見せた「ジュピター」。祈りに溢れていました。
オリエンタルなコスチュームのせいもありますが、
天女のよう。神々しく、やわらかな空気をまとって。
「お母さんがいて、今の自分がある。今スケートを滑ることができる」
そんな感謝のような思いが静かな穏やかな顔にひろがっているようにみえました。
それでいて激しくバレエのマイムのような箇所もあったり。

出だしでY字バランスで足をあげたままスパイラル、同じ足のまま滑って
その後、水鳥のように手をはばたかせるというところも素敵。
ゆっくりと大きな動きで優雅に。
祈りのように手をあわせて前にすーと滑ってゆくところや、
フィニッシュの手をかかげて空を仰ぐところ他、本当に素晴らしいプログラムと演技。

哀しみを抱えても「いつも通りのことをしよう」と意志を持ち、それをこなすことができる。
人間の強さを私たちに示してくれたような気がしました。

若いのに同情を集めようとしない、母と絡めたコメントや涙を狙っているマスコミに対しても、
あくまでもエレガントに誠実に答えながら、公私を分けようとするその気概も素晴らしいです。
小学生時代、ポニーテールの髪を揺らし、きゃしゃな体でトリプルトリプルトリプルを決め、
あどけない笑顔をみせた少女がこんなに過酷なことを味わいながら強い内面を磨いていったとは。

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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