北越雪譜(その1)雪国の過酷さと雪華図説からの写し
今日はしんしんと寒くてほんの少しだけ小雪が舞いました。
この冬、日本各地の大雪の被害のニュースをききます。
一冬に雪が3回降るかどうか、という暖かいところに住んでいると、
雪ははかなくとけるもの、雪月花として和歌に詠む風情のあるもの、と思ってしまいがちですが、
大雪にみまわれるところでは雪はまったく違うものなの。
融けない雪のこわさ…。
20キロの雪が屋根に積もっているというのは20キロのコンクリート片を屋根の上に勝手に乗っけられたようなもの。
命がけで高齢者の方が屋根の雪下ろしをされていますが、
命の危険を知りながら雪下ろしをしなければいけないのは、
そうしないと家がつぶれてしまう危険があるから。
雪の怖さを知らずにすむ場所で、「雪の結晶はきれい」と思っている身が申し訳なくなります。
さて、越後の鈴木牧之(ぼくし)は江戸時代に『北越雪譜(ほくえつせっぷ)』を出版しました。
雪の民俗学の決定版といえるこの本の中で、土井利位の描いた雪華を35片紹介しています。
北越雪譜が当時700部売れるというベストセラーになり、そのおかげで土井利位の雪華も広まりました。
鈴木牧之は北国の人と温暖の地の人との雪に対する受け止め方の違いをいろいろ書いています。
たとえば「初雪」の項。
暖かい国人が雪をめでることは、前にいったとおりである。
江戸では雪の降らない年もあるので、なおさらのことに雪を喜び、
雪見の船に歌や踊りをする妓女を連れていったり、雪の日に茶会を催し特別の客を招く。
遊里では雪を口実に客を引き留めたり、料亭は客が来るよい知らせとする。
こうして雪で遊んだり楽しみとすることを数えるときりがない。
雪をこのように賞するのは、繁華ほ巷だからであろう。
雪国の人がこくしたことを見たり聞いたりしたとき、うらやましいと思わない人はいない。
私の住む越後の初雪は、これに比べれば大変な違いである。
江戸では雪を楽しみ、越後は雪で苦しむのであるから中略。
このあと越後の初雪が9月の末か十月の初め(私メモ:旧暦)であると語られ、
越後の雪は鵞毛のようにひらひらとは降らず、必ず粉雪である。(中略)
暖かい地方の人のように、初雪を見て吟詠や遊興の楽しみにするなどは夢にも思わず、
「今年もまたこの雪の中で暮らすのか」と雪を見て悲しむことは辺境の寒い国に生まれた不幸なのである。
繁華な暖かい土地に生まれ、雪を見て楽しむことのできる人の幸福を、雪国の人間としてうらやましく思う。
「雪を払う」の項を読むと雪国の大変さがよくわかります。
雪を払うことは、肩にかかった花びらを払うのと同じく風流の一つとされている。
そうしたことは日本や中国の詩歌にも多く出てくるが、このような大雪を払うのは風流とは程遠いことである。
初雪が積もったのをそのままにしておくと、
次に降った雪がその上に積もって一丈以上にはることもあるので、降った雪はその都度払う。(中略)
雪を払うことを、里の言葉で「雪堀り」という。(中略)
雪を掘らないと家の出入り口をふさぎ、家を埋めて人が出ることもできなくなる。
また、頑丈に作った家でも、屋根に積もった幾万斤という雪の重さに潰される惧(おそ)れもあるから、
どこの家でも雪の結晶を掘らないわけにいかない。
北越雪譜は「雪華図説」と違って今も手に入りやすい本です。
アマゾンではたとえばこちら。
2012.2.16現在、「なか見!検索」で数ページが見られるようになっていますc
(2020.11.28追記 現在はみられなそうです)
ありがたいことに、土井利位の雪華図説からの引用ページも見られます。
(P13の次ですね)
「雪の形」の項で次の図は「雪華図説」に見る「雪花五十五品」から筆写したもの、
と書かれています(中見!検索P12参照)が、ご注意ください。
この「なか見!検索」を開いた時に「ご覧の内容は単行本版(1997)小学館製のものです。
と書かれているように、
このなか見は
「北越雪譜」 (ワイド版岩波文庫)鈴木牧之編撰、京山人百樹刪定 岡田武松校訂(1991年12月5日発行)のものではありません。
「北越雪譜」 (ワイド版岩波文庫)では
下の図は天保三年許鹿君の高撰雪花図説に在る所、雪花五十五品の内を謄写にす。
と書かれています。 許鹿(こが)は土井利位の雅号です。
北越雪譜 (ワイド版岩波文庫)は原語のまま。 わかりづらいという方には現代語訳を。
「現代語訳北越雪譜」監修者高橋実訳者荒木常能 野島出版。
と照らし合わせると原文が読みやすくなります。
今日のブログでご紹介した現代語訳(青文字)はこの本からの引用です。
追記/『北越雪譜』に関してはこちらにも書きました。
【雪の結晶と文学、出版物】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら
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