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2012年6月30日 (土)

雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(5) 〔11〕~〔15〕まで

ダイジェスト年表で挙げた〔11〕~〔15〕の詳細です。
ネットで原文を読めるところも挙げています。
<本で閲覧できる資料>はみつけにくいものを中心に挙げました。〔挙げていない=本の形態では出版されていない〕ではありません。

青文字=原文。
オレンジ=顕微鏡画像や顕微鏡で観察したスケッチ画がみられるURL。
=顕微鏡での雪の結晶観察

ただし書きはこちらをご覧ください。

江戸時代、「望遠鏡」を「とおめがね」、「顕微鏡」を「むしめがね」とルビを振っている文献が多いのですが、まさにその名の通り、顕微鏡で一番観察されスケッチが残されていたのが「虫」!
ノミ、シラミなどなどこまやかに描かれたその姿から当時の人の好奇心や驚き、感動が伝わってきます。どうぞリンク先を訪ね、そのスケッチの数々をご覧ください。

追記/国立国会図書館から画像掲載許可をいただけましたものをアップしました。このブログ内に画像載せられるのはうれしいことです
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〔11〕1781年(天明元年)製造の国産顕微鏡、島津創業記念資料館(京都)に現存&展示。小林規右衛作(大阪)。取扱い説明書有り。記述は「顕微鏡」。
私メモ/本体は木製、鏡筒は紙製、対物レンズは3種ついているとのこと。紙筒の色と模様も美しいです。
ネットで閲覧/島津製作所創業記念資料館(ttp://www.shimadzu.co.jp/visionary/memorial-hall/)→展示ガイド→(1)ようこそ創業の地へ→展示品を見る→国産最古の顕微鏡

(2015.3.8追記)
国立科学博物館で開催の「国産顕微鏡100年展」にこの顕微鏡が展示されていました。
撮らせていただいた顕微鏡本体、付属品、説明書きをご紹介します。


なによりこの説明書きの現物を読むことができたのがうれしいです

「顕微鏡見様」と書かれたいわゆる取説。
筆文字ですがとてもわかりやすいです。
20150304microscope10

3本脚の顕微鏡が多いなと思う中で2本脚です。
20150304microscope01

「顕微鏡見様」の説明文と本体を照らしあわせて私が文字を加えてみました。
あくまでも私が勝手に解釈して添えたものです。
(間違っているところがあれば直します)
Microscope_kobayashi0101

附属品 この中に対物レンズ3種もあるのですね。
20150304microscope03

「顕微鏡見様」では一番~三番、3つの対物レンズの使い分けも細かく指示されています。
けし粒~胡麻粒ぐらいの小さいものは一番、二番。絹や木綿などは三番を推奨しています。

観察の対象物として、けし粒、胡麻粒、髪の毛、文字、絹、木綿、酢、水、酒が挙げれています。

京都の資料館を早く訪ねたいと思っていながらうがかうことができずじまいだったのですが、
興味深い貴重な顕微鏡と上野で対面できてうれしいです

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〔11〕-2 ネットで閲覧できる〔11〕の顕微鏡に似ている顕微鏡
<1>展覧会『「みる科学」の歴史――懐徳堂・中井履軒から超高圧電子顕微鏡まで』 (大阪大学の博物館)で展示された顕微鏡。 但し、中井履軒使用のものではく、江戸時代の顕微鏡としての参考展示。個人蔵。
【大阪大学総合学術博物館】(ttp://www.museum.osaka-u.ac.jp/jp/)→イベント→2009年以前→2006年度秋の特別展のお知らせ
直接のURLはttp://www.museum.osaka-u.ac.jp/jp/event_content/special-2006/special-2006.html
<2>【 トヨタコレクション】所蔵顕微鏡。 本体は木製・鏡筒は竹で 外側は和紙に漆を塗る一閑張りの技法。取替用レンズ3点付属。江戸時代後期。
トヨタテクノミュージアム産業技術記念館トヨタコレクション企画展「来て・見て・覗いて レンズからくり江戸明治」2008年開催
直接のURLはttp://www.tcmit.org/event/2008/08/post-23.html

<3> 平成16年特殊切手「科学技術とアニメ・ヒーロー・ヒロインシリーズ第3集」より。
天明年間(1781~1789年)に製作された和製の木製顕微鏡。

Microscope11_2stamp_wadaigakushiryo

ネットで閲覧/【日本郵便】のこちら↓(ttp://www.post.japanpost.jp/kitte_hagaki/stamp/tokusyu/2004/h160223_t.html)
私メモ/上記の日本郵便のページに所蔵:和田歴史資料館 とあるが、和田医学史料館のことか。
<4> 国立科学博物館所蔵の19世紀ごろの国産木製簡易顕微鏡。(元は和田医学史料館蔵)
<3>の切手の顕微鏡はこれを撮影したものか。
【国立科学博物館】ttp://www.kahaku.go.jp/→展示常設展→「日本館1階南翼」の展示内容を見る→10極微の世界への挑戦→p1右上の顕微鏡
直接のURLはttp://shinkan.kahaku.go.jp/kiosk/nihon_con/S1/KA4-1/japanese/TAB1/index.html
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〔12〕1781年(天明元年)『五月雨抄』三浦梅園著
〔1〕の『南蛮寺興廃記』をモチーフにしたもので自身の顕微鏡体験を綴ったわけではない。記述「顕微鏡」
原文/永禄十一年九月信長に謁す。(略)望遠鏡(トホメカネ)顕微鏡(ムシメガネ)も信長に謁するとき捧げしものの品なり。
ネットで閲覧/【近代デジタルライブラリー】「闢邪必読五月雨抄. 上」三浦梅園著。
直接のURLは
ttp://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/824475/16/
本で閲覧/『世界の顕微鏡の歴史』p12に紹介あり。
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〔13〕年代不詳1780~1799頃(安永9~寛政11年頃)推測。
長沢芦雪(ろせつ)、顕微鏡で蚤を観察し『蚤図扇面』を描く
スケッチあり。
※年代は芦雪の生年没年(1754~1799)より推測。
ネットで閲覧/この絵を閲覧できるHP未発見。
本で閲覧/ カタログ「百獣の楽園 美術にすむ動物たち」p18 ( 京都国立博物館2011年7月16日~8月28日開催) 。カタログは京都府立資料館に所蔵あり。 

〔13〕-〔2〕年代不詳。『淇園文集 詩』皆川淇園(きえん)著
長沢芦雪が顕微鏡で観察した跳虫(蚤)を描いたことを淇園が詩に記す。 記述「澄鏡」。
※ただし、蚤が扇ではなく、屏風に描かれたと記しているので『蚤図扇面』とは異なる作品があるのか。屏風に描かれたという蚤の作品は現存不明。
原文/『淇園文集 詩』皆川淇園著より。
「題芦雪写顕微鏡中跳虫影図」 写形澄鏡中本是一桃虫寧信飛林鳥袛疑走澤雄 丹青模影迹盈溢在屏風諦視毫毛巨方知造化工
本で閲覧/写本「淇園文集 詩」より。『淇園詩文集 近代儒家文集修成 9』ペリカン社 p388-388に記載あり
書き下し文&現代文/ 『江戸の好奇心 美術と科学の出会い』内山淳一著(講談社p37)に現代語訳&解説あり。
形を写す澄鏡の中、本(も)と是れ一跳虫、寧(いず)くんぞ信ぜんや飛林の鳥と、袛(た)だ疑ふ走沢の雄かと、丹青模影の迹、盈溢屏風に在り、諦視すれば毫毛巨なり、方(まさ)に知る造化の工
澄鏡(顕微鏡)のなかの形を写したが、もともとこれは一匹の跳虫であった。にもかかわらず、林に飛翔し森を駆けめぐる鳥獣のような雄々しい姿に見える。色彩はよく対象を模し、屏風に溢れんばかりであった。よく見れば微細な毛は巨大になり、まさに造化の工(たく)みを見るようだ。

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〔14〕1787年(天明7年)『紅毛雑話(こうもうざつわ)』森島中良(ちゅうりょう)著
顕微鏡の図と簡単な取扱い方を記載。司馬江漢(しばこうかん)筆による顕微鏡観察によるスケッチ(穀物、昆虫他)あり。記述は「顕微鏡(むしめがね)、ミコラスコービユン」。
※ミコラスコービユンはmicroscopiumの聞き取り間違いか。ちなみに18世紀に作られた「顕微鏡座」もmicroscopiumという。
※森嶋中良は桂川甫周国瑞の弟。
原文/ 【顕微鏡( むしめがね)】の項で。
近頃舶来「ミコラスコービユム」といふ顕微鏡あり。形ち図の如し。種々のものをうつし見るにその 微細なること凡慮の外なり。塩は粒々皆六角なり。 蕎麦粉はいか程細き粒にても三角なり。燈心は絲瓜(へちま )の如し。黴は菌(きのこ)の形なり。水は麻の葉の 如き紋あり。氷に縦横の紋をなすは是なり。 酒 (にえゆ) は百沸湯の如くうごくなり。是を飲めば運 行の血脈を鼓動する故胸踊り面に血色を 発するも宜なり。予、伯氏(私メモ/兄の桂川国瑞)と倶に見たる中 に虱の古く成たるが、脇腹やぶれて鰯の骨の如 き肋骨あらはれ、腐爛たる腸に茶たて蟲の 如き蛆たかりたり。目鏡をはづして見ればいささか色のかはりたるやうに見ゆれども、肋ぼねも蛆も見えず。誠に希代の珍器なり。 蚊の睫に巣をくふ蜼螟蝸牛の角の上なる蛮氏 觸氏の二国をも、此器をもつてうつさば、明らかに 見分けつべし。司馬江漢「ミコラスコービユン」にて 見たる所のものを盡く書きて家に蔵む、其 一二図をもとめて左に出す、説所(とく)の荒唐(いつわり)なら ざるは比器を見たる人知るべし。
※くずし字からの解読は 『雪華図説考』p42~43ならびに『蘭学の家 桂川の人々』p428を参考にしました。
ネットで閲覧/【国立国会図書館】 【早稲田大学古典籍総合データベース】や 【九州大学総合研究博物館】で可能。

国立国会図書館から画像掲載許可をいただきましたのでご紹介します。
文字は私が解読できた範囲で青文字で記します。
江戸時代の顕微鏡シリーズ(8)の(28)でご紹介した『山東京伝全集 第7巻』(ぺりかん社)も参照しました。

014microscope_komozatsuwa01_5
↑カルペパー型。筒のこまやかな模様が美しいです。

(右上から)
此所より見る/虫をはさむたる板をここへおく/かがみ

【国立国会図書館デジタル化資料 より】
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2557089/19

014microscope_komozatsuwa02right_3
↑右上から
米、胡麻、粟、稗、
三葉酸の実、芥子、
紫蘇の実、水引草の花


竹虱と蚤
014microscope_komozatsuwa02left
蚤/足六本あり 二本は鼻の先にあり 全体海老に似たり

蚤がかわいいです

【国立国会図書館デジタル化資料 より】
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2557089/20

ぶよ
014microscope_komozatsuwa03right_2

しらみ
014microscope_komozatsuwa03left_2
虱/全体烏賊(いか)に似たり。足は蟹の爪の如く先鋭にして鋏(はさみ)あり。
腹の黒きは臓腑の透通りて見ゆるなり。


しらみの卵、気持ち悪いです

【国立国会図書館デジタル化資料より】
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2557089/21

はえ
014microscope_komozatsuwa04right_2


014microscope_komozatsuwa04left_2
蚊/口は管なり。中より針を出して人を刺す。眼真黒にして魚子を打ちたる如し。

蚊、かっこいいです。クール!サンバのダンサーのような姿です

【国立国会図書館デジタル化資料より】
直接のURLは
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2557089/22

蟻(あり)
014microscope_komozatsuwa05right_3

孑孑(ぼうふり)
014microscope_komozatsuwa05left_4


ぼうふり(ぼうふら)はエイリアンのよう

【国立国会図書館デジタル化資料 より】
直接のURLは
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2557089/23

赤孑孑(あかぼうふり)、茶立虫
014microscope_komozatsuwa06

赤孑孑/口はなはだ大きなり。尻に枝あり。
茶立虫/全体虱に似たり。眼茶色なり。鼻の先に撥の形の角あり。是をもって紙をかくなり。

【国立国会図書館デジタル化資料 より】
直接のURLは
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2557089/24

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これらの絵は 司馬江漢のオリジナルではなく、オランダの科学者スワンメルダム(Swammerdamm)の 著書『Biblia naturae, sive Historia insectorum』内のスケッチの模写とも言われています。
(参照/国立国会図書館 ttp://www.ndl.go.jp/nichiran/s1/s1_4_column.html#h5_ とその中の説明文/

スワンメルダム『自然の聖書』。源内が入手し「紅毛虫譜」と呼んだ Historia insectorum generalis(『昆虫学総論』1669年刊)の内容も含む。 第2巻末にある顕微鏡による蚊などの観察図は、司馬江漢が模写し 『紅毛雑話』に掲載、草双紙などにも流用された

『Biblia naturae, sive Historia insectorum』は グーグルブックスで閲覧可能です。
こちらです(2012.6.30現在)
サムネイルをご覧ください。なぜかP543からはじまっていますが、下の方に辿っていただくとp185、187がみつかるはずです。
-----------絵を比べてみましょう---------

〔ぼうふり〕byスワンメルダムp185                                        
Microscope_biblianaturae2

〔ぼうふり〕by 司馬江漢『紅毛雑話』
014microscope_komozatsuwa05left_4

〔蚊〕byスワンメルダムp187                               
Biblia_naturae_sive_historia_insect

〔蚊〕by司馬江漢『紅毛雑話』
014microscope_komozatsuwa04left_2

そっくりですが、微妙に違います。
A)司馬江漢がスワンメルダムの本を模写した
B)司馬江漢自身が顕微鏡で観察してスケッチした。
 スワンメルダムの本に激似なのは、この本と同じアングルで描こうと思ったから。

AなのかBなのか私には判断できません。

さて、『紅毛雑話』の顕微鏡で見た蚊の絵は浮世絵にも登場します。
嘉永5年(1852年) 歌川国芳 「東都富士尽 地雷也」です。

盗賊地雷也の着物の柄として描かれています。

ぎょろっとした目の金色の蚊。とってもパンクだと思いませんか!!
Microscope_ukiyoe_kuniyoshi_jiraiya
歌川国芳画 「東都富士尽 地雷也」

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〔15〕1787年(天明7年)「大小絵暦・虫眼鏡拡大図」司馬江漢画
東京国立博物館所蔵。
米、粟、胡麻、芥子の実、米、水引の花をスケッチ。記述は「虫目かね」。 画に記された言葉は「丁未立春戯写 米 粟 胡麻 芥子 水引の花 至て小なる物を虫目かねにて大く見たる図なり
描かれたものは『紅毛雑話』に描かれた米、粟、胡麻、芥子、水引の花をレイアウトを変え1枚の絵にアレンジしたものです。
ネットで閲覧/未発見
本で閲覧/ 『司馬江漢全集 四』司馬江漢著(八坂書房) p88

【江戸時代の顕微鏡シリーズ】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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