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2012年6月28日 (木)

雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(4)⑥~⑩まで

ダイジェスト年表で挙げた⑥~⑩の詳細です。
ネットで原文を読めるところも挙げています。
<本で閲覧できる資料>はみつけにくいものを中心に挙げました。
〔挙げていない=本の形態では出版されていない〕ではありません。


青文字=原文。
オレンジ=顕微鏡画像がみられるURL
=顕微鏡での雪の結晶観察

ただし書きはこちらをご覧ください。

顕微鏡にご興味がない方も多いと思いますが、江戸時代の顕微鏡ってフォルムがすごく美しいんです。
画像が見られるリンク先もご紹介していますので、ご興味あったらぜひご覧ください。

追記/国立国会図書館の画像掲載許可をいただきましたのでアップしました
=======================================

⑥1775~1825年(安永4~文政8年)推定。
小野蘭山が顕微鏡で雪の結晶を観察

顕微鏡も雪の結晶のスケッチも現存せず。
※鎌田昌長の『結夏随筆(けつげずいひつ)』(1825)に小野蘭山が雪の結晶を50年間観察してきたことの記述あり。そこから年代を推定。
原文/『結夏随筆』鎌田昌長著。巻之二【蘭山先師地黄不忌蘿菔説】の項より。 (私メモ/蘿菔(らふく)=大根)

長(私メモ/鎌田昌長のこと)嘗テ先生ノ塾ニテ、初春望日講書ノ初日、他人未ダ致ラザルニ先テ往ケリ。寒喧畢テ同春人日、至テ大雪ノコトヲ述シニ、老師曰、子彼ノ雪ヲ見タリヤト。長愕然トシテ謂ク、彼其大雪凡眼アル者誰カ之ヲ見ザル者アラン、然ルニ今改メテ見タリヤ否ヲ咎メ玉フコト、必深義アラント、敢テ問テ曰、彼雪何ノ異様カアリヤト。師曰、往々人ニ問フニ皆未見タリト云フ者アラズ、吾年々雪アル毎ニ必輙摘テ顕微鏡モテ照査スルコト今ニ五十年アリ。曾テ異様アルヲ見ズ。然ルニ今春ノ雪ノミ獨其状ヲ異ニス。弁々六出旧ニ依ル。其弁々皆縦理有テ、又其縦理ヨリ斜紋有テ、其状恰も麻葉ノ紋理ヲ成セリ。嘗テ和蘭絵図ニ於テ之ヲ見タリ、竊ニ疑フコト年アリ、本年ノ雪華全ク彼ノ国ノ図ト一般ナリシト答ヘ玉ヘリ。咄嗟先生ノ物産ニ精密ナルコト、比一事ヲ以テ推スベシ
ネットで閲覧/現物
【国立国会図書館デジタル資料】 →結夏随筆→19/59と20/59
直接のURLは
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536479/19と
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536479/20
005_microscope_ketsugezuihitsusnow
(国立国会図書館より 上記の20/59) 

顕微鏡という文字がはっきりとご覧いただけると思います。雪華が六花(六出)の形であることを自分の目で確かめた様子がわかります。和蘭絵図というのはマルチネットの「格致問答」のことでしょう。


◎顕微鏡観察の箇所は(『雪華図説考』p44-45、『雪華図説新考』p92)に紹介あり
※小林氏は『雪華図説考』p45で文化5年1808年1月4日の雪と推測。『日本の気象史料 2』原書房に筑後国並江戸 積雪二尺(p568)と書かれていることから。
◎PDFファイル『雪華図説再考』鈴木道男 ttp://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/34453/1/KJ00004370355.pdf(18/23)には蘭山は六角形の雪華を観察できず、西洋の文献の説くところの真偽を疑っていたものが、この年(1824?)はじめて京都で六角形のものが観察できたと述べている旨が紹介されている

⑦1774年(安永3年)『解体新書』クルムス著。杉田玄白他訳
【凡例】に顕微鏡(ヲホムシメガネ)の言葉あり。
原文/
原本之図、其微細見るべからざるは、尽く顕微鏡(ヲホムシメガネ)を以て臨んで之を模す。
現代語訳/
原本の図で微細な部分の見にくい所は、ことごとく顕微鏡(オオムシメガネ)でこれを見て模写したのである。 『解体新書 全現代語訳』酒井シヅ(講談社学術文庫)p30より。
ネットで閲覧/現物
【中村学園】ttp://www.lib.nakamura-u.ac.jp/yogaku/kaitai/head.htm
【序文(吉雄耕牛)、自序、凡例】をクリック→「14/16」右ページ。

⑧1778年(安永7年)『森山孝盛日記』森山孝盛著
平賀源内宅において顕微鏡で灯心、髪、のみ、虱、かびを観察。記述は虫目鏡。
原文/『森山孝盛日記』の8月26日の項に記載あり。

平賀源内方え参、珍敷(めずらしき)品々一覧。我等参候節は虫目鏡を見する。色々之彫物等致し候台にて、目鏡三段程重りけり。灯心太きみみす程に見ゆる。中に明かりほのかと見るとき筋有之(これあり)。髪の毛は懐中筥(かいちゅうばこ)程に見ゆる。其外、のみ虱等すさましく見ゆる。髪の毛の根にふけ之附たる様子、柏餅の付たるか如く也。芥子、ゆひの腹程にみて、かち栗之ことき筋有之。かびの生(はえ)たるかびの形、みな木の子の形なり。
ネットで閲覧/未発見
本で閲覧/『自家年譜 森山孝盛日記』(国立公文書館内閣文庫 上)p91
◎くずし字の解読できず。上記の〔原文〕は『江戸の好奇心』内山淳一著p30より引用。

⑨1778年(安永7年)
『帰山録(きざんろく)草稿』&『帰山録』三浦梅園(みうらばいえん)著
長崎旅行の際、吉雄耕牛宅で顕微鏡にて人髪、灯心を観察。スケッチ有。記述は見微鏡、顕微鏡。
※1778年はこの旅行の年。
原文/『歸山録』三浦梅園より。

吉野名は永章字は耕牛幸作と称す此亭にして松村君紀に会ふ君紀は其字名は元綱安ノ丞と称す共に阿蘭陀の舌人耕牛西学に通ず西洋の書を儲ゑて架に満つ其客を愛す一日我を招ひで酒を飲しむ其酒数品(略)吉雄亭奇貨多し只此時長崎熱閙其奇貨を遍く見其説を詳に尽す事能はず今に是を憾む亭上阿蘭陀琴、望遠鏡、顕微鏡、天球、地球、ヲクタント、タルモメートル、其外奇物種々を見る。(略)顕微鏡にてうかがふに人の上はひらみ有り獣毛はまるし小兒の髪は中一條すく
ネットで閲覧/現物
【中村学園】ttp://www.lib.nakamura-u.ac.jp/e-lib/kizan/kizan.pdf
54/93、55/93、61/93、62/93
◎三浦梅園資料館のパンフレットには梅園の顕微鏡の写真あり。

⑩1781年(天明元年)『顕微鏡記』中井履軒(なかいりけん)著
木村蒹葭堂(けんかどう)が持っていたオランダ渡りの顕微鏡を真似て、服部永錫(えいしゃく)が顕微鏡を手作りしたこと、1781年にその顕微鏡を見せてもらい、蚊、ハエ、しらみ、あごひげ、花粉などを観察した記録、顕微鏡の構造について詳しく記されている。記述は顕微鏡。
原文/長文につき省略。
現代語訳/論文「十八世紀の国産顕微鏡」井上了著に現代語訳あり。以下、この論文を私が要約&引用させていただきました。
【顕微鏡製作いきさつ】服部永錫が西洋の方法にならって顕微鏡を製作。仕様を推定してレンズ職人に指示し、職人の手に余る部分は自ら腕をふるった。
【構造】架の上に千里鏡(望遠鏡)を逆さに立てたようなもので上から下を覗く。高さ30cm余り。紫檀で接眼部を作り、直径は3cmほど。上端の穴に接眼レンズが嵌まっている。厚紙を巻いて鏡筒を作り、表面を鮫皮で包む。直径は約9cm。鏡筒は蓋のある箱を逆さまにしたようで、つまんで伸縮させることができる。鏡筒内にはさらに1枚の視野レンズがある。鏡筒の下に1本の管がぶらさがって尾部をなしており、その下端に対物レンズが嵌まっている。ネジによって交換することができ、1号から5号まである。他に高倍率レンズがあり、計六種である。厚いもの薄いものあり、焦点距離はみな違っている。鏡筒が伸縮するのはレンズの焦点を合わせるためである。鏡筒の腰下に、金属製の三脚が固定されている。この三脚を金属製の円板が支えており、その中央に穴がある。これが「中架」である。この中央に2枚の丸い金具が固定されている。(私による略)薄い象牙のスライドで、穴をあけて2枚の雲母片を嵌めたものを使う。観察したい微小標本を雲母の間に封入し、金具の横から差し込めば、「中架」の穴とスライドの穴とが合う。「中架」の下にはまた三脚があり、丸い木製の台座がこれを支えている。台座の中央には反射鏡が立ち、上向きに「中架」中央の金具と相対しており、角度を変えることができる。これは錫メッキのガラス鏡で、日光を反射して「中架」の穴を下方から照らす。「中架」の上には別の可動式の集光レンズがあり、日光を透過して「中架」を斜め上から照らす。これらによって「中架」上の標本は、上下から日光に照らされ、対物レンズによって大きな像を得る。
【観察したもの】 4、5号レンズで蚊→蜂のように大きい。ハエ→雀のよう。シラミ→ネズミ。ハジラミ→エビ。高倍率レンズでハエの頭、羽、ネズミの毛、ツバキの花粉、自分のあごひげ、細字篆刻(約3センチ四方に360字彫られた前川虚舟の篆刻)について詳細を記述。ツバキの花粉→麦粒のように割れて大きく中央に縦筋。あごひげ→根本はバラの根のよう。
ネットで閲覧/未発見。
本で閲覧/『華胥国物語 懐徳堂文庫復刻叢書 3 』に収録。

◎この顕微鏡は現存していないが、記述から構造はカルペパー型と推測。

Microscope_kenbikyoki_byemi

↑私が上記の文章から『顕微鏡記』の顕微鏡を超ざっくりと形を再現したもの。


小林義雄氏は自著『世界の顕微鏡の歴史』p38でもっと正確に再現されています。

--------------参考画像---------------
1730年製造のカルペパー型顕微鏡。
ケンブリッジ大学ウィップル科学史博物館所蔵の顕微鏡。
トップページttp://www.hps.cam.ac.uk/whipple/→Explore Collections→Explore website→microscopes→3 Microscope Makers→John Cuff
直接のアドレスは
ttp://www.hps.cam.ac.uk/whipple/explore/microscopes/3microscopemakers/johncuff/
覗き口や脚がクラシカルな椅子を思わせるフォルムで美しいです。
「microscope 18th culpeper」で画像検索すると、工芸品のように美しい顕微鏡の数々がご覧いただけますよ。



私メモ
⑥の小野蘭山に関して。あくまでも弟子の鎌田昌長の記述の中に出てくるだけで、小野蘭山自身の著作物の中には、雪の結晶を顕微鏡で観察したということは出てこないです(私が調べた限り)。
⑧の森山孝盛の日記から、平賀源内が顕微鏡を持っていたことがわかりますが、平賀源内自身が顕微鏡で~を観察した、と記した文献も未発見です。
⑩は顕微鏡の形状や、観察したものについて詳しく書かれています。一般的には日本で最初に顕微鏡について詳しく取り上げたのは1787年森山中良の『紅毛雑話』と言われていますが、中井履軒の『顕微鏡記』こそ!と思います。

【江戸時代の顕微鏡シリーズ】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら

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コメント

すっかりご無沙汰してしまいました。

顕微鏡素晴らしいですね。
この時代でシラミがネズミの大きさですか?
怖いですね。
さぞビックリしたことでしょう。

本当によく調べているので関心と、ビックリして、とても参考にさせていただいています。

私もネットで見て見たいと思います。

ジジさん。私の方こそおひさしぶりです。
江戸時代の顕微鏡、本当にうっとりするくらい美しい姿ですよね。そしてスケッチの蚤とか虱とかが本当に傑作で。ブログに画像が貼れないものが多く(国立国会図書館は申請して通れば貼れるそうですが、顕微鏡シリーズを全部アップしてから申請しようと思っています)リンク先をたどっていただくお手間がありますがどうぞこれからもご興味があったらご覧くださいね!

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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