雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(11) (43)~(45)
ダイジェスト年表で挙げた(43)~(45)の詳細です。
ネットで原文を読めるところも挙げています。
<本で閲覧できる資料>はみつけにくいものを中心に挙げました。〔挙げていない=本の形態では出版されていない〕ではありません。
青文字=原文。
オレンジ=顕微鏡画像や顕微鏡で観察したスケッチ画がみられるURL。
ただし書きはこちらをご覧ください。
今回の特におすすめ
(45)『雪華図説』をネットで閲覧できるところをご紹介しています。浮世絵の着物の柄などに描かれ、紋としても江戸時代にブームを起こした美しい雪華の数々をご覧ください。
追記/国立国会図書館から画像掲載許可をいただけましたものをアップしました。
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(43)1831年(天保2年)天保2年9月18日
渡辺崋山が大原道斎所有の顕微鏡を田原藩主三宅康直に献上
顕微鏡で糠粃(あらぬかとくず米)の中の虫を観察。三宅康直が虫を覗いて驚く。記述は顕微鏡。
又奉二顕微鏡(大原氏物)一。洋制之精且詳君大驚、試以二糠粃(コウヒ)中小蠢一見レ之如レ蟹、是又一奇也。
ネットで閲覧/未発見
本で閲覧/『全楽堂日録』〔渡辺崋山集 第一巻〕(日本図書センター) p264。
※私が書き下してみると。
また、顕微鏡(大原氏物)を奉る。洋制の精且詳に君大いに驚き、試しに糠粃中の小蠢を以て之を見れば蟹の如し。是また一奇なり。
私メモ/土井利位・鷹見泉石との関係でいうと、渡辺崋山は蘭学において鷹見泉石と兄弟弟子の関係。崋山が描いた鷹見泉石の肖像画は国宝となっています。
関連資料/『小説渡辺崋山』杉浦明平著(朝日新聞社 文庫版)。
二巻p77~90では、崋山と藩主三宅康直の顕微鏡観察、 大蔵永常の稲の花の顕微鏡のスケッチを崋山と康直が眺めるエピソード(大蔵永常の『農稼業事後編』の挿絵と書かれていますが、私は『農稼業事後編』の中に稲の花の顕微鏡スケッチをみつけられず)、崋山が鷹見泉石から土井利位と一緒に雪の結晶の顕微鏡観察をしている様子を聞いたことなどが書かれています。ですが、どんな資料を元に脚色しているのかわからず。私が史実として確認できたのは下線部分のみなので、この小説からの引用は控えます。
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(44)1832年(天保3年)『再種方(さいしゅほう)』大蔵永常著
大蔵永常は江戸時代の3大農学者の一人。再種方とは、稲の二期作栽培の方法のこと。
顕微鏡で稲のおしべめしべを観察。スケッチあり。 記述は顕微鏡。
「稲花雌雄蘂之圖」というタイトルで顕微鏡(むしめがね)とりて籾の中~と記され、観察スケッチが記載されています。
ここに顕微鏡(むしめがね)の文字が↓
国立国会図書館デジタル化資料より
はっきりした画像は↓でご覧ください
ネットで閲覧/【国立国会図書館デジタル化資料】→「再種方」→1→16/22
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536651/16
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(45)1832年(天保3年)『雪華図説』土井利位著
顕微鏡で雪の結晶を観察。スケッチあり。 記述は鏡(顕微鏡のことと思われますが、顕微鏡の反射鏡のことかも?)。
雪華図説の詳細はあらためて別記事でご紹介します。ここでは雪華図説がネットでみられる場所を顕微鏡についてどう表現しているのかとを取り上げます。
『雪華図説』をネットで閲覧/
【国立国会図書館デジタル化資料】→雪華図説→雪華図説(古典籍資料)(刊,天保3)
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536975
↑国立国会図書館デジタル化資料より
さまざまな形の雪華が並んでいます。
○顕微鏡に関する記述⇒「鏡」とだけでてきます。
その箇所は冒頭。土井利位が西洋で雪の結晶を観察する方法を紹介し、その方法にならって自分も観察をしたことを述べているくだりです。
西土雪花ヲ驗視スルノ法、雪ナラントスルノ天、預メ先、黒色 ノ八絲緞ヲ、氣中ニ晒シ、冷ナラシメ、雪片ノ降ルニ 當テ之ヲ承ク、肉眼モ視ルベク、鏡ヲ把テ之ヲ照セ バ、更ニ燦タリ。看ルノ際、気息ヲ避ケ、手温ヲ防ギ、纖 鑷(せんじょう)ヲ以テ之ヲ箝提スト、余文化年間ヨリ雪下ノ時、 毎ニ黒色ノ髹器(きゅうき)ニ承テ、之ヲ審視シ以テコノ図ヲ 作ル
該当箇所をネットで閲覧/上記の【国立国会図書館デジタル化資料】の雪華図説4/22左側
直接のURLは ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536975/4
拙訳で(『雪華図説考』『雪華図説新考』小林禎作著も参考)。
西洋で雪華を観察する方法。雪になりそうな天候の時は、あらかじめ黒いシュスを空気中にさらして冷して置く。雪片が降ってきたらこの上に受ける。肉眼でも見ることはでき、鏡を使ってこれを照せば、雪はさらに燦然と輝く。観察する際は呼気がかからぬようにし、手の温かさが伝わるのを防ぎ、纖鑷(私メモ/毛抜きやピンセットのようなもの)で雪の結晶をつまみ上げるという。私は文化年間より雪が降るたびに、黒い漆器に雪の結晶を受けて詳しく観察してこの図を作った。
「鏡ヲ把テ之ヲ照セバ」となっていますよね。小野蘭山も顕微鏡で雪の結晶を観察することを「顕微鏡モテ照査スル」と表現しています。(⑯鎌田昌長『結夏随筆』参照)。
<顕微鏡で観察>を<鏡で照らす>と表現するのは珍しいことではなかったのかもしれません。
さて、鷹見泉石の日記もみてみましたが、彼の日記にも「顕微鏡」の言葉をみつけられませんでした。
(中谷宇吉郎は鷹見泉石が持っていたという「蘭鏡」こそ顕微鏡ではないかと述べています。※資料1)
二人にとって一番大事な道具なのに。遠目鏡、テレスコツプは何度も日記に登場しますが不思議なことです。
私の勝手な推測ですが、土井利位は「験視」という」言葉に顕微鏡で観察する、という意味をこめ、あえて顕微鏡という単語は書いていないとも考えたりします。
⇒⇒⇒『雪華図説』でこのほか顕微鏡観察についてでてくる箇所
○審視
鷹見忠常こと鷹見泉石によるあとがきより。
公事務ノ暇、雪ノ 下ル、毎ニ之ヲ審視スルコト、今春ニ至テ、幾ド二十年。
該当箇所をネットで閲覧/上記の【国立国会図書館デジタル化資料】の雪華図説15/22左側
直接のURLは ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536975/15
拙訳で。土井利位侯は執務の空いた時、雪が降る度に雪華を観察することを何度も重ね、この春に至って20年になる。
○検視
鷹見忠常こと鷹見泉石によるあとがきより。
西洋人瑪兒低涅多ガ、著ストコロノ 格致問答ニイフ。検視スルトコロ五百余種、近ク見ルト コロノ十二ヲ図スト。(略)爾後雪ノ下ル時、新奇 ノ形ヲ検視スルコトヲ得バ、更ニコレヲ補足スル事ヲ期ス。
該当箇所をネットで閲覧/上記の【国立国会図書館デジタル化資料】の雪華図説16/22右側
直接のURLは ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536975/16
拙訳で。西洋人マルチネット著「格致問答」の中に、<500余りの雪華を観察し、顕微鏡で見た12種類を図にした>と書かれていた。 (略)こののち、雪が降った時に目新しい形の雪華を観察することができたので、更にこれを補足することを約束する。
↓上記のマルチネットの『格致問答』の十二の図
↓書き写して『雪華図説』に加えられたマルチネットの十二の図。
いずれも国立国会図書館より。
○験視
桂国寧こと桂川甫賢によるあとがきより。
侯既ニ親自之ヲ験視シ、又中西ノ説 ヲ参酌シ、東討西求、捜羅殆ド尽キ精説詳釈、明備 遺スコトナシ。
該当箇所をネットで閲覧/上記の【国立国会図書館デジタル化資料】の雪華図説19/22右側
直接のURLは ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536975/19
拙訳で。土井利位侯はご自身で観察され、中国や西洋のよい説を取り入れ、東を訪ね西に求め、ほとんど探し尽くされた。精説詳訳で明らかにし残したものはない。
※資料1「誰も生れないまえから雪は降っていた」中谷宇吉郎(暮らしの手帖 1961 61号 p172)より
泉石の遺品の中に、仁和寺宮の附人からの手紙がのこっている。泉石が宮様に「蘭鏡」をお貸ししたのに対するお礼状である。宮様はたいへん興味をもたれ、その返礼として、道八の茶わんが贈られている。(私による略)。この蘭鏡がのこっていないのは残念であるが、たぶん顕微鏡でないかと思う。虫めがねならば、それほど珍重されるはずがない。というわけで、江戸時代の顕微鏡シリーズをご覧いただいておわかりになるように、多くの人が「顕微鏡」という言葉を明記しているのに、なぜか土井利位、鷹見泉石は「顕微鏡」という言葉を使っていないのです。
【江戸時代の顕微鏡シリーズ】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら
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