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2012年8月27日 (月)

雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(12) (46)、(47)

ダイジェスト年表で挙げた(46)、(47)の詳細です。

ネットで原文を読めるところも挙げています。
<本で閲覧できる資料>はみつけにくいものを中心に挙げました。〔挙げていない=本の形態では出版されていない〕ではありません。

青文字=原文。
オレンジ=顕微鏡画像や顕微鏡で観察したスケッチ画がみられるURL。

ただし書きはこちらをご覧ください。

今回の特におすすめ


(46)、(47)はいずれも宇田川榕庵の著書です。顕微鏡について、顕微鏡観察に使うピンセットについての解説、植物の顕微鏡観察図、マルチネットの花粉顕微鏡スケッチの紹介などがあり、見ごたえがあります。

追記/国立国会図書館、静岡県立中央図書館から画像掲載許可をいただきましたのでアップしました。
榕庵による顕微鏡観察のスケッチ、マルチネットの花粉図、ぜひご覧ください。
※画像の転載、二次使用はご遠慮ください。
===========================

(46)1833年(天保4年)
『植学啓原(しょくがくけいげん)』宇田川榕庵(うだがわようあん)撰
刊行を天保5年、天保8年としている資料もあり。 
顕微鏡で植物の花粉、おしべめしべ、細胞等を観察。スケッチあり。記述は顕微鏡、ミコラス

『植学啓原』から9か所ご紹介します。現代語訳(緑文字)はいずれも『復刻と訳注 植学啓原』講談社より

巻之一 【二管】の項で

之を取て而顕微鏡(ミコラス)を以て之を観れば、則管毎とに紅汁を含んて宛も纐纈(しぼり)の如し。
この切片を顕微鏡で見ると、管ごとに紅色の液を含み、さながら、しぼり染めのように見える。(同上 p32より)
※同上p192に
オランダ語で顕微鏡microglasと書かれています。
ネットで閲覧/【早稲田大学古典籍総合データベース】→文庫08_e0092→1→No.15
直接のURLは
ttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_e0092/bunko08_e0092_0001/bunko08_e0092_0001_p0015.jpg

巻之二 【花粉】の項で

顕微鏡を以て各種の花粉を観る。毎種必しも円滑ならず馬兒抵涅杜(マルチ子ット)理学之書花粉の之顕微図十五種を戴す
顕微鏡で各種の花粉を見ると、どれもが丸くてなめらかとは限らない。マルチネットの理学〔自然科学〕書には、花粉の顕微鏡図十五種が載っている。(同上p70より)
ネットで閲覧/【早稲田大学古典籍データベース】→文庫08_e0092→2→No.9と10
直接のURLはttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_e0092/bunko08_e0092_0002/bunko08_e0092_0002_p0009.jpg とttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_e0092/bunko08_e0092_0002/bunko08_e0092_0002_p0010.jpg

【花粉】の項に対応する第十九図

花粉之顕微図 馬兒抵涅杜(マルチ子ット)之書自(よ)り抄写す
046microscope_syokugakukeigan_16r_2
↑国立国会図書館より
右側の「
花粉之顕微図」の下にマルチネットの名前が書かれています。

ネットで閲覧/【早稲田大学古典籍データベース】→文庫08_e0092→3→No.32
直接のURLは
ttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_e0092/bunko08_e0092_0003/bunko08_e0092_0003_p0032.jpg 本で閲覧/同上 口絵 p「xx」

巻之二 【花精細微】の項で

顕微鏡之物象周り十六万倍径り四百倍に廓(そだつ)可き者を用て花精を観るに僅に頭髪之断處の如し。 
物の形の周囲〔面積〕を十六万倍、径を四百倍に拡大できる顕微鏡を用いて、花精を見ると、やっと頭髪の切り口程度にしか見えない。 (同上 p70より)
ネットで閲覧/【早稲田大学古典籍データベース】→文庫08_e0092→2→No.10
直接のURLはttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_e0092/bunko08_e0092_0002/bunko08_e0092_0002_p0010.jpg

巻之二 【植蟲】の項で

第二図は顕微鏡之極精者を用て以て第五種を観るの図。
[第二十一図の]
第二図は、非常に精度のよい顕微鏡[第一図の]第五種を見た図である。 (同上 p93より)
※ [ ]内は私による補足。
ネットで閲覧/【早稲田大学古典籍データベース】→文庫08_e0092→2→No.21
直接のURLはttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_e0092/bunko08_e0092_0002/bunko08_e0092_0002_p0021.jpg

巻之二 【植蟲】の項に対応する第二十一図
ネットで閲覧/【早稲田大学古典籍データベース】→文庫08_e0092→3→No.33
直接のURLは
ttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_e0092/bunko08_e0092_0003/bunko08_e0092_0003_p0033.jpg 本で閲覧/同上 口絵 p「xxii 」

巻之三 【紫鉱(はなもつやく)】の項で

顕微鏡を以て紫鉱の粉を観れば、多足長身の紅虫有り。
顕微鏡で紫鉱の粉を見ると、多足で長身の赤い虫がいることを発見する。 (同上 p116より)
ネットで閲覧/【早稲田大学古典籍データベース】→文庫08_e0092→3→No.12
直接のURLはttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_e0092/bunko08_e0092_0003/bunko08_e0092_0003_p0012.jpg

顕微鏡で観察したスケッチ
第四図。顕微鏡を以て葉脉を観る

046microscope_syokugakukeigan_08l_2

↑国立国会図書館より
 
ネットで閲覧/【早稲田大学古典籍データベース】→文庫08_e0092→3→No.24
直接のURLは
ttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_e0092/bunko08_e0092_0003/bunko08_e0092_0003_p0024.jpg
本で閲覧/同上 口絵 p「 v 」

第十一図。顕微鏡を以て一小花を観る
046microscope_syokugakukeigan_12rig
↑国立国会図書館より

ネットで閲覧/【早稲田大学古典籍データベース】→文庫08_e0092→3→No.28
直接のURLは
ttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_e0092/bunko08_e0092_0003/bunko08_e0092_0003_p0028.jpg
本で閲覧/同上 口絵 p「 v 」
-----------マルチネットの『格致問答』---------------------------
宇田川榕庵は花粉の顕微鏡図をマルチネットの書より写したと書いています。その書というのは『Katechismus der natuur 』。日本で『格致問答』と呼ばれる本です。第一巻の雪の章を土井利位、鷹見泉石は雪華観察の参考にし、雪の結晶顕微鏡図を紹介しています(昨日のブログ参照 榕庵もこの本の雪の結晶顕微鏡図を見ているはず。けれど、榕庵は雪華スケッチは残していません。花粉と雪の結晶の顕微鏡図をみながら、花粉>>>雪の結晶だったのですね。

Katechismus der natuur 』をネットで閲覧【静岡県立図書館デジタル葵文庫】ttp://www.tosyokan.pref.shizuoka.jp/aoi/ →右側の葵文庫→左側の検索窓で『Katechismus der natuur』を検索→青字のタイトルをクリック→画像か添付ファイルを選択。 花粉顕微鏡図は第4巻AN155004→No.29/299


静岡県立中央図書館から画像掲載許可をいただけましたので、その花粉顕微鏡図をご紹介します。
046microscope_katechismus_der_nat_2
(静岡県立中央図書館 所蔵『Katechismus der natuur』より)

上記、宇田川榕庵が模写した絵をもう一度並べてみましょう。
046microscope_syokugakukeigan_16r_2
(国立国会図書館より)
原書から、正確、丁寧に模写されている様子がわかります。

花粉図を本で閲覧/『復刻と訳注 植学啓原』p277

※『植学啓原』は国立国会図書館デジタル化資料でも閲覧可能です。
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(47)1833年(天保4年)頃。1823年頃という説も。
『植学独語』宇田川榕庵著
顕微鏡で蕨、きのこ、黴、麹などを観察。顕微鏡、コールタング(ピンセット)の詳しい解説あり。記述は顕微鏡


【植学及び採薬旅行に有用とする書籍器械の事】の項で
【植学および採薬旅行に役立つ書籍や器具のこと】の項で

○「コールタング」は鑷子(けぬき)の先尖りたる如きものなり。花蕊の員数を計算するに用ひ、或は細花を顕微鏡下に安ずるに用ふ。其他用かた多し。

○「コールタング」〔ピンセット〕は毛抜きの先がとがったようなものである。花の蕊〔おしべやめしべ〕の数を数えるのに用いたり、小さい花を顕微鏡の下に置くときに用いる。その他、利用法は多い。

コールタング ・・・koren-tang.(蘭)・tweezers(英)ピンセットのこと。


顕微鏡は其徳尤も大なり。いかにも精巧 のものを捉み備ふべし。蕈類の笠のうら には鰓(えら)のことき畳績紋あり其内に花実 を生ず。これらは顕微鏡にあらざれば見る こと能はず。又蕨、黴類の葉のうらの金星、 水の垢、塩鹵奄汁の浮黴、麹塵も彼鏡にて観 れば、蕈(きのこ)の叢林にして、人間数時の内に、 彼は即花をひらき、実を結び、栄枯殆んど 地上の草木に異なることなしといふ。又橙橘の 葉等も肉眼にては、たゞ細き点あるやふに見ゆ れども、このにて観れば、其細点は皆小嚢にして、津液充ち、人身の腺といふものゝ 如く観ゆるなり。其他此の用広大にして、 悉く枚挙し難し。実に植学家の鴻宝 といふべし。 
顕微鏡の役割はもっとも大きい。非常に精巧にできているものを選んで、所持すべきである。蕈〔キノコ〕類の笠の裏には、鰓状の畳績紋〔ひだ状の模様〕がある。その中に花や果実ができる。これらは顕微鏡でなければ見ることができない。また、蕨黴類〔シダ類〕の葉の裏の黄色い斑点、水あか、塩漬の汁に浮かんだカビ、麹塵〔コウジカビ〕も、顕微鏡で見れば蕈の林のようであり、非常に短時間で、それらは花を開いたり実を結ぶ。茂ったり枯れたりする仕組みは、地上にある草や木と同じであるといわれる。また、橙橘〔ミカン〕の類の葉なども、肉眼ではただ細かい点があるように見えるだけであるが、この顕微鏡で見れば、その細かい点がどれも小さい袋であって、中に津液が入っており、二元の体で腺といわれているもののように見える。その他、この顕微鏡の使い道はたいへん広く、すべてをいちいち挙げることは不可能である。まったく、植学家〔植物学者〕の大きな宝といわねばならない。
ネットで閲覧/【国立国会図書館デジタル化資料】 →植学独語→No.20/30 ~No.22/30
直接のURLは
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536475/20
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536475/21
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536475/22
本で閲覧/ 『復刻と訳注 植学啓原』p168~169

(47)-(2)1833年(天保4年)
『甲子夜話(かっしやわ)』松浦静山著
顕微鏡で観察したものを壁に投影したことが書かれています。
ノミ、水の中の微生物を観察。記述は顕微鏡(ムシメガネ)


顕微鏡(ムシメガネ)にも種々有りと聞こへて、先年長崎の人、当地に来りゐしが話せしを、

予が左右の伝へ云には、通詞吉雄が所蔵の微鏡(メガネ)とて、次第は、是を置く所を闇黒に閉して、

鏡の向に燈を置、其光を鏡に受くれば、鏡内に納るゝ所の細蟲の類、かの火光に映じて壁に移るに、

影甚巨大を成して、人目の識及ばざるもの、皆明らかに視ゆ。

其とき蚤を鏡中に置たるを窺しに、壁影馬二疋を合せたる如く巨大をなし、蚤の毛髪、腹皮の息動、

悉く知らざるなし。

又水を一滴いれて窺ひしに、僅に一滴の水中、虫多きこと無数。各五六寸にして遊泳す。

其鮮微の明かなる、大率斬如しと。蛮人の巧思なること無益に似たれども、人の知らざるを知ること、

殆ど迦尊の天眼の比と云べし。
 
(『甲子夜話 続篇8巻』松浦静山著。平凡社東洋文庫1981 p221より)

詳細は2013.9.15の追記を。

【江戸時代の顕微鏡シリーズ】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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