雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(8) (26)~(30)
ダイジェスト年表で挙げた(26)~(30)の詳細です。
ネットで原文を読めるところも挙げています。
<本で閲覧できる資料>はみつけにくいものを中心に挙げました。〔挙げていない=本の形態では出版されていない〕ではありません。
青文字=原文。
オレンジ=顕微鏡画像や顕微鏡で観察したスケッチ画がみられるURL。
ただし書きはこちらをご覧ください。
今回の特におすすめ
(27)『虫鑑』
顕微鏡で寄生虫も観察。えぐいですが回虫のスケッチもこまやかで見応えあり。
観察に用いた顕微鏡の絵や構造の説明も興味深いです。
(30)『千蟲譜』
顕微鏡で観察した虫の絵が圧巻!
とくに迫力持って描かれたノミは必見!
顕微鏡でノミを見て、「こんな体つきをしている!」と驚愕、感嘆すらして描きとったんだろうなって観察した時の興奮すら伝わってきそうです。
追記/国立国会図書館から画像掲載許可をいただけましたものをアップしました。このブログ内に画像載せられるのはうれしいことです。転載、二次使用はご遠慮ください。
追記/(30)-2 を追加しました。ノミのスケッチも必見。
-------------------------------------------------
(26)1804年~1817年(文化元年~文化17年)頃。
「阿蘭陀画鏡(おらんだえかがみ) 江戸八景」北斎
私メモ/八景としてではなく、この作品を納めた袋に顕微鏡が描かれています。
作品の所蔵/アメリカ・ボストン美術館。「Oranda gakyô, Edo hakkei」のタイトルで所蔵。
ネットで閲覧/「Museum of Fine Arts Boston 」(ttp://www.mfa.org/)→「COLLECTIONS」→「Search Collections」の窓で「Wrapper for the series The Dutch Picture Lens」で検索。
直接のURLは
ttp://www.mfa.org/collections/object/wrapper-for-the-series-the-dutch-picture-lens-eight-views-of-edo-oranda-gaky-edo-hakkei-462484
(2012.8.4現在)
本で閲覧/『北斎展(東京国立博物館2005年10/25~12/4)』展覧会カタログ。
このカタログのp313に
総州屋から出版されたこの揃物の袋には、「阿蘭陀画鏡 江戸八景」の文字が見え、異国趣味を打ち出して顕微鏡が描かれている。
と書かれています。
----------------------------------------------
(27)1809年 (文化6年/序は文化4年) 『虫鑑(ムシカガミ)』高玄竜著。 鴻伯解編
顕微鏡で寄生虫、しらみなどを観察。顕微鏡本体の図、スケッチ、解説あり。記述は顕微鏡。
ネットで閲覧/【国立国会図書館デジタルアーカイブ】
顕微鏡に関するところを以下、いくつか抜粋して紹介。
○蚘虫(ゆうちゅう)の項。私メモ/お腹にいる回虫の1種。
顕微鏡図と解説あり。『虫鑑』2巻9/46
私による書き下し文。
顕微鏡を用いて之を熟視す。頭次第に細し。
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536175/9
○シラミ。 『虫鑑』2巻36/46
髪シラミも的確に描かれています。
↑国立国会図書館デジタルアーカイブより
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536175/36
○診虫法。 『虫鑑』2巻37/46。(以下私による書き下し文。少し自信ないです)
顕微鏡を用いて病人の痰唾、瘡膿、鼻濁及び大便小便を診るを持って診法す。
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536175/37
○筒用顕微鏡。 『虫鑑』2巻38/46
顕微鏡の絵とともに構造が解説されています。
厳密ではなくざっくり訳してみると
筒容顕微鏡は病人の痰唾や瘡の膿に虫がいるかどうかを点検する鏡である。
筒の長さは五寸ほどで上部の穴に鏡があり、また底の穴にも鏡がある。
蟲の形を照らし、鏡に映したものをもう一つの鏡で受ける原理となっている。
↑国立国会図書館デジタルアーカイブより
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536175/38
○縮伸顕微鏡。 『虫鑑』2巻39/46
顕微鏡の絵とともに構造が解説されています。
3つの架を持つ縮伸顕微鏡はカルペパー型顕微鏡でしょうか。
厳密ではなくざっくり訳してみると
縮伸顕微鏡、は3つの柱が3つの円形の棚を支えている。
上部が小さく下に行くにつれ次第に大きくなっている。
上の棚(上架)の中央には伸縮する管がある。
管の内側には鏡がありこれで虫を照らす。
2番目の棚(中架)はガラスでできていここに虫を置く。
3番目の棚(下架)には丸い鏡が斜めに設置されており、
この鏡からの明るい光で虫の形をはっきりと映しだす。
左の図の用なものである。 まず、筒容鏡で病人の濁物を調べる。
虫をみつけたら、さらにこの顕微鏡を使ってその虫を熟視する。
↑国立国会図書館デジタルアーカイブより
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536175/39
○桶容顕微鏡。 『虫鑑』2巻39/46 40/46
顕微鏡の絵とともに構造が解説されています。
厳密ではなくざっくり訳してみると
桶容顕微鏡は顕微鏡の一種。二つの筒を合わせて桶状にしたもので、上部には穴が開けられ鏡が設置されている。その底はガラス製で虫を置くようになっている。上の筒と下の筒を合わせて、虫の形を見る。
直接のURLは
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536175/39 と
ttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2536175/40
----------------------------------------------
(28)1809年(文化6年)
合巻『松梅竹取談(まつとうめたけとりものがたり)』山東京伝(さんとう・きょうでん)著。歌川国貞画
ノミ、シラミ、蚊の形をした妖怪があらわれ人を襲う場面がある物語。
『紅毛雑話』の中の顕微鏡で観察したノミ、シラミ、蚊などが巨大な姿で描かれていて、
とてもアバンギャルドでパンク!な作品。
その登場シーンを『山東京伝全集』第七巻 合巻2(ぺりかん社)p362~より引用。
「呪文を唱へつゝ経文を翻せば、たちまち一道の妖気湧起こり、
その中より、蚤・虱・蚊の形したる妖怪現れ、
判官の病床へ飛行きて身内を咬みける(以下私による略)」
※私メモ/巨大昆虫化物の説明(以下)も『紅毛雑話』での顕微鏡による観察文が引用されています。
非常に生々しいですが、よく観察して表現されていますね。
○蚤は足六本あり。二本は鼻の先にあり。全体、海老に似たり。
○虱は、全体、烏賊(いか)に似たり。足は蟹の爪の如く先鋭にして鋏(はさみ)あり。腹の黒きは臓腑の透通りて見ゆるなり。
○赤孑孑(あかぼうふり)は口はなはだ大きなり。尻に枝あり。
○蚊は眼真黒にして、魚子を打ちたる如し。口は管なり。中より針を出して人を刺す。
顕微鏡で虫を観察した詳細を、江戸の町民たちが気軽に読む物語の中で知ることができたというのがすごいなと思います。
ネットで閲覧/図書館などの公共機関で公開しているものは未発見。
本で閲覧/『山東京伝全集』第七巻 合巻2(ぺりかん社)
----------------------------------------------
(29)1810年(文化7年)推定。『独笑妄言(どくしょうぼうげん』司馬江漢著
顕微鏡で蟻を観察。スケッチあり。記述は微鏡、顕微鏡。
○文化庚午秋八月(文化7年)に書かれた独笑妄言序に顕微鏡が出てきます。
以下私による書き下し文。
西人、遠鏡を照して以て日・月星・辰を測り、微鏡を製て以て及べからざるを視る。
(『司馬江漢全集 二』p3)
○顕微鏡で観察した蟻の絵があります。ぜひ本を手にとってご覧ください。
題は顕微鏡(ムシメガネ)を以蟻を観る如図。
添えられた文章は全身皆毛を生ず、白き小虫の二ツ三ツ付てあるを見る、
其小虫全躰白毛を生す、尻に凸の所二所あり、是は蟻より生る虫か、
又外より付たる虫か、其故を不知
(『司馬江漢全集 二』p13)
ネットで閲覧/未発見
本で閲覧/『司馬江漢全集 二』(八坂書房)
----------------------------------------------
(30)1811年(文化8年)完成。『千蟲譜』栗本丹州(たんしゅう)著
(通称/栗本瑞見ずいけん。本名/昌臧まさよし)
18年かけて昆虫図譜を完成。顕微鏡で虫を観察したスケッチあり。記述は顕微鏡。
私メモ/どんな顕微鏡を使ってどんな方法で観察したかの記述は
探せていないのですが、とにかく図鑑としてのクオリティが高いです。
虫の詳細なスケッチ多数。顕微鏡で観察したことが明記さてていないものでも
顕微鏡で観察したであろうことは明らか。
虫好きは必見!虫嫌い(私)もついつい気持ち悪いのに見入ってしまう絵です。
ネットで閲覧/【国立国会図書館デジタルアーカイブ】
顕微鏡で観察したことが明記されている虫を中心に以下抜粋で紹介。
いずれの画像も【国立国会図書館デジタルアーカイブ】のものです。
○子負虫(コオイムシ) 「栗氏千虫譜」第2冊34/36。
カヘリタテノ子ヲ顕微鏡ニテ見ルニ下図ノ如シと、孵化したての子負虫のスケッチあり。
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287368/34
○ツノムシ 「栗氏千虫譜」第3冊3/34。
以顕微鏡可見大如比の記述あり。
○ワラジムシ 「栗氏千虫譜」第3冊3/34。
顕微鏡ヲ以テ写モノナリの記述あり。
いずれも直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287369/3
○枸杞の葉につく虫 「栗氏千虫譜」第4冊16/24。
顕微鏡ヲ以テ写スとして、黒い棘のある小豆版粒ぐらいの大きさの虫が描かれています。
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287370/16
○オコゼ、横笛と呼ばれる虫の類「栗氏千虫譜」第5冊16/34。
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287371/16
「17/34」では文中にシーボルトの名も記されています。
○ダニ「栗氏千虫譜」第5冊17/34。
顕微鏡で観察と明記はされていないのですが顕微鏡観察は明白。
ダニの体が詳細に描かれていて見事!!
同僚桂甫賢の記述もあり。
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287371/17
○蚤(ノミ) 「栗氏千虫譜」第5冊18/34。
顕微鏡ヲ以テ写の記述あり。
見開き一面にオレンジ色のノミが描かれています。
口元にあるチューブ状のもの。長い脚。今にも跳びたちそうな姿です!
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287371/18
↑こちらはロバート・フックが顕微鏡観察をして描いたノミ。
栗本丹州はここまで精緻に描いてませんが、
古今東西、ノミが同じ姿(あたりまえかもしれませんが)をしていることになんだか感動。
○虱(シラミ) 「栗氏千虫譜」第5冊19/34。
見開き一面にシラミが描かれています。
毛ガニのような足。その先端に爪がある様子など的確に描写されています。
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287371/19
↑こちらはロバート・フックが顕微鏡観察をして描いたシラミ。
栗本丹州はここまで精緻に描いていませんが、共通点をいくつもみつけられます。
----------------------------------------------
(30)-2 1807年~1827年(文化4年~文政4年)頃。
『本草図説(ほんぞうずせつ)』岩崎灌園(かんえん)著。
顕微鏡でノミ、シラミ、ブヨを観察。スケッチあり。記述は顕微鏡。
顕微鏡ニテ見ルとして、ノミ、シラミ、ブヨのスケッチあり。
ノミは(30)のノミとそっくり。脚にはえた毛の様子が、顕微鏡で細部まで観察していることを感じさせます
※『本草図説』は岩崎灌園が大植物図鑑『本草図譜』に先行して著したもの。
東京国立博物館の「博物図譜データベース」で本草図説をみることができます。
↑ 画像提供:東京国立博物館(ttp://www.tnm.jp/)
『本草図説 蟲魚類 五十六』岩崎灌園
ネットで閲覧/
【東京国立博物館所蔵 博物図譜WEBデータベース】→
検索キーワードに「本草図説 のみ ぶよ」で検索。
本草図説 No.4011/4786
【江戸時代の顕微鏡シリーズ】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら
« 「甲子園」「制覇」をめざし打ち込んできた球児たち | トップページ | 雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(9) (31)~(35) »
「 雪の結晶」カテゴリの記事
- 雪の次の日。生まれて初めて見た光景。降り注ぐ雪しぶき。(2022.01.15)
- こたべのパッケージに雪の結晶発見!(2020.01.26)
- 2020年1月18日の雪で結晶は撮れるか(2020.01.23)
- 榛原(はいばら)の御朱印帳を手に入れました。土井利位侯の雪華がいっぱい(2020.01.12)
- 雪輪はもっとも好きな雪の文様の図案のひとつ(2019.12.29)
« 「甲子園」「制覇」をめざし打ち込んできた球児たち | トップページ | 雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(9) (31)~(35) »
コメント