雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(15) 〔53〕~〔58〕
ダイジェスト年表で挙げた〔53〕~〔58〕の詳細です。
ネットで原文を読めるところも挙げています。
<本で閲覧できる資料>はみつけにくいものを中心に挙げました。〔挙げていない=本の形態では出版されていない〕ではありません。
青文字=原文。
オレンジ=顕微鏡画像や顕微鏡で観察したスケッチ画がみられるURL。
ただし書きはこちらをご覧ください。
今回の特におすすめ
〔55〕『顕微鏡虫之図』
〔58〕『群虫真景』の蟻の絵。かっこいい、クール!
いずれもこのブログには画像がなくご覧になれるところの紹介のみですが、見事な絵です。
虫が好きではない私が見入ってしまうので、虫好きの方はもっとわくわくすると思います。
子供がお絵かきしたのではなく、江戸時代の大人(おそらく)が科学の目で描いたと思うと彼らが顕微鏡を覗いた時の興奮が伝わってくるようです。
追記/
〔53〕-2飯室昌栩の『虫譜図説』に関して、国立国会図書館から画像掲載許可をいただきましたのでご紹介します。
〔57〕金武良哲の顕微鏡について、佐賀県立博物館から画像掲載許可をいただきましたのでご紹介します。
画像の転載、二次利用はご遠慮ください。
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〔53〕1850年(嘉永3年)
※国立科学博物館HPによると嘉永3年となっていますが、
銅版画内の識語(解説)には嘉永元年の文字が。
銅板画「微虫図」土田英章(通称/乙三郎)画
顕微鏡で畜水(貯水)・灰汁・酒・醤油・酢の中の微生物を観察、増える経過をも観察したスケッチ。
記述は顕微鏡。
銅版画内から引用。
夫 人ノ世ニアル飲食ヲ以テ生ヲ養フ、水ノ物タル一日モ缺(欠の旧字体)ベカラズ、然レドモ夏月ノ頃貯蓄ノ水、腐敗ノ酒、ソノ内必ズ蟲ヲ生ズ、酢醤油ノ類モ亦然リ、譬炎熱ノ堪ガタキノ日トイヘドモ畜水ハ冷飲スベカラズ、酸敗ノ物ハ用フベカラズ、生ヲ願ヒ身ヲ慎ムノ人深ク戒慎ムベキトコロナリ、予暇日顕微鏡ニ照シテ模写スルトコロ如此、広ク世人ニ示シテ養生ノ一助トナサシメント云爾
銅版画の右上から左下へ7円のスケッチを辿ると
畜水 その1 井戸から汲み上げたもの
畜水 その2 一日一夜置いたもの
畜水 その3 二三日置いたもの
灰水の中の虫
酒の中の虫
醤油の中の虫
酢の中の虫
銅版画「微虫図」をネットで閲覧/
【国立科学博物館】(ttp://www.kahaku.go.jp/)→展示→常設展→日本館1F南翼→展示内容を見る→極微の世界への挑戦→〔10〕
直接のURLはttp://www.kahaku.go.jp/m/recommend/archive.php?cid=327&_f_=70&_s_=7025&_c_=702510
本で閲覧/末中哲夫氏、北村二朗氏、遠藤正治氏3氏による論文「『微虫図』と土田英章」。収録は『実学史研究 Ⅲ』実学資料研究会(思文閣出版)p195~208
「微虫図」に関しては情報が少ないので、この論文はありがたいです!おすすめです!
以下この論文を読んで、私が把握したことを要約します。
○畜水は三日間の経過とともに、その様子が克明に記述されている。
○嘉永元年六月に開催された読書室物産会に土田乙三郎が畜水一夜所生小虫附顕微鏡一具を提供したとのこと。
私メモ---
当時は今のように衛生的な飲料を飲めることはなかったでしょうし、水の中にどんなものがいるのか、顕微鏡を手に入れたら覗きたいと思うのが人間の性なのでしょう。
愛知県西尾市の岩瀬文庫にも所蔵があるようです。
「微虫図」という名前ではヒットしませんでしたが、2点資料がみつかりました。
書名/商標・銅版画帖
内容 /「蓄水中所生之虫其一/同上其二/同上其三/灰汁中之虫/酒中之虫/醤油中之虫/酢中之虫以下私による略。
※顕微鏡図。解説文末に「嘉永元年戊申夏六月/皇都 華峯土田英章識」
書名/忘箄竊記(ボウヘイセツキ)
編著者/山本亡羊述・山本錫夫録
内容/ 水中微生物の顕微鏡拡大図7図を収めた銅版一枚刷(嘉永元年6月、皇都土田英章識。平安亡羊山本先生閲(私による略)
(2015.3.8追記)
国立科学博物館の常設展で「微虫図」を拝見しました。また、撮らせていただきました。
このように~のスケッチ画が残されています。
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〔53〕-2。年代不明。※序文は1856年(安政3年)
『虫譜図説(ちゅうふずせつ)』飯室昌栩(まさのぶ)
この虫類の大図鑑の中で顕微鏡で虫を観察したスケッチあり。記述は顕微鏡。
以下、「顕微鏡」と明記されているいくつかのスケッチから3つ挙げます。
ネットで閲覧/いずれも国立国会図書館デジタル化資料より。
○人虱 4巻 No.25/72
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2553452/25
○象鼻蟬 4巻 No.48/72
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2553452/48
「蟬」となっていますが、象鼻「虫」なのかしらと。
絵に添えられた文章を読むと、実際に飯室自身が観察して顕微鏡でスケッチしたものか疑問です。
この絵にそっくりの虫をみつけました。
「テングビワハゴロモ(pyrops candelaria)」です。
↑Pyrops candelariaのウィキペディアより
Copyright(c)2007 Richard Ling
よく似ていますよね。
緑の体で上半分はピンク色で、象の鼻のようなものが伸びている。
うるっとした目とわしゃわしゃした脚も一緒。
江戸時代にいた虫が今も存在するというのは当たり前のことかもしれませんが、
昔の人と海外の現在の人が同じ虫をわくわくして観察したということに感動です。
○金亀虫 5巻 No.24/68
直接のURLはttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2553453/24
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〔54〕 明確な年代わからないのですが「江戸後期の顕微鏡」としてここに入れてみました。微塵鏡
ミヒェル・ヴォルフガング氏の論文「江戸・明治期の信州における医療器械について」に「微塵鏡」の名前で画像掲載あり。
『信州モノづくり博覧会--モノづくりの東西交流』図録(長野市立博物館 2006年1月)より
ネットで閲覧/直接のURLはttp://wolfgangmichel.web.fc2.com/publ/aufs/77/077.htm
本で閲覧/上記の図録p55〜63
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〔55〕1860年(万延元年)『顕微鏡虫之図』
顕微鏡でノミ、虱、蚊、やぶ蚊、ぼうふらなどを観察。スケッチあり。
東北大学附属図書館所蔵。狩野文庫。
請求記号8.21646.1「顯徴鏡蟲之圖寫本」
色つきの絵で虫の細部が描かれています。ノミ、すごく愛嬌があります。私自身、猫を飼っていたため、ノミに悩まされてきたのですが、このノミの姿を見ると許せてしまえる存在に思えます。
〔30〕『千蟲譜』に描かれたノミ(国立国会図書館デジタルアーカイブでttp://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1287371/18 )と細部の描き具合がほぼ同じです。
つくづくノミって不思議な構造。当時の人たちもさぞびっくりしたことでしょう。
本で閲覧/『動物奇想天外 江戸の動物百態』内山淳一著に画像掲載あり。p104~105
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〔56〕1860年(万延元年)頃。国産のべっこう製の顕微鏡
ミヒェル・ヴォルフガング氏の論文「江戸・明治期の信州における医療器械について」に画像掲載あり。
『信州モノづくり博覧会--モノづくりの東西交流』図録(長野市立博物館 2006年1月)より
ネットで閲覧/直接のURLはttp://wolfgangmichel.web.fc2.com/publ/aufs/77/077.htm
本で閲覧/上記の図録p55〜63
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〔57〕1868年(明治元年)金武良哲の自作顕微鏡
カルペパー型のようですが、筒はろくろを回してくびれをつけた焼き物のようなころんとした形をしています。
小城市立歴史博物館の企画展に画像あり。
直接のURLはttp://www.city.ogi.lg.jp/site_files/file/bb%20kyouikusoumu/koramu%20jyosodensin/tokubetuten-tirasi.pdf
佐賀新聞2011年11月11日の記事にも画像がでてきます。佐賀新聞での紹介文。
佐賀藩の蘭方医・金武良哲(1811-84年)が自作した約40倍の顕微鏡。明治初年。
ネットで閲覧/ttp://www.saga-s.co.jp/news/machi-wadai.0.2081917.article.html
↑金武良哲の自作顕微鏡
個人蔵(佐賀県立博物館寄託)
私メモ/佐賀県立美術館が金武の手製顕微鏡を所蔵し、佐賀城本丸歴史館のテーマ展に貸出されたことが佐賀県立博物館・美術館の平成の年報40号(ttps://www.pref.saga.lg.jp/web/var/rev0/0088/9908/20111228144513.pdf)の24/39に記されています。
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〔58〕年代不明。隠匿謹慎中の1860年(万延元年)前後か。
画帖『群虫真景(ぐんちゅうしんけい)』徳川慶勝(よしかつ)
慶勝は徳川御三家の筆頭、尾張徳川家14代藩主。
『群虫真景』は尾張徳川家14代藩主の慶勝がさまざまな昆虫のスケッチをまとめ、また昆虫の標本を貼りこんだ画帖。
「以見微鏡模写図」として慶勝による虫のスケッチが収められてます。記述は見微鏡。後半のスケッチは別人によるものか。
徳川美術館のHPから引用します。
さまざまな昆虫の姿を写した図を貼り込んだ画帖です。尾張徳川家14代慶勝(1824~83)が作成しました。帖の内題に「以見微鏡模寫図」とあることから、「見微鏡(顕微鏡)」を用いて描かれたとみられます。(略)江戸時代 19世紀 徳川林政史研究所蔵)
慶勝による熊蟻の絵は下記の徳川美術館のサイトで閲覧できます。
ネットで閲覧/【徳川美術館】(ttp://www.tokugawa-art-museum.jp/)→企画展案内→平成22年→企画展示 殿様、ECOを考える-自然へのまなざし-→群虫真景』
直接のURLはttp://www.tokugawa-art-museum.jp/planning/h22/04/obj09.html
なにがかっこいいって、アングルです。蟻を横からスケッチするのではなくて、正面から。少し首を曲げた蟻がSFに出てくる挑戦的なエイリアンのよう
追記 徳川慶勝『群虫真景』詳細は2012年11月12日に。
【江戸時代の顕微鏡シリーズ】INDEXはこちら
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