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2012年10月18日 (木)

雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(17)『松梅竹取談』の補足です

江戸時代の顕微鏡シリーズ(8)の(28)で取り上げた『松梅竹取談(まつとうめたけとりものがたり)』山東京伝(さんとう・きょうでん)著、歌川国貞画をあらためてご紹介します。

この長編作品。虫の妖怪が登場します。いずれも『紅毛雑話』内の顕微鏡で観察した虫のスケッチ(江戸時代の顕微鏡シリーズ(5)の⑭を使用したものなんです。
ノミやしらみなどを妖怪に仕立てる!wobbly
科学だったものを「アート」にする歌川国貞の絵心が最高です。アートといってもかなりパンク感満載!

虫の妖怪が出てくる場面をご紹介しましょう。青文字は『山東京傳全集』第七巻からの引用です。

吉野の天狗堂の修験者「怪玄」が妖術で、佐々木判官を苦しめる場面です。その妖術というのが、呪文を唱えるとノミ、シラミ、蚊の形の妖怪が現れ、その妖怪が佐々木判官の病床へ飛んでいき、刺す、嚙むなどをして苦しめるというもの。


怪玄、口に呪文を唱えつゝ経文を翻せば、たちまち一道の妖気湧起こり、その中より、蚤(のみ)・虱(しらみ)・蚊の形したる妖怪現れ、判官の病床へ飛行きて身内を咬みけるにぞ、判官は数多の蚤・虱に咬まるゝ如く、多くの蚊に刺さるゝ思ひにて痒さ痛さに堪難く、食われたる跡 悪瘡となつて腫上がりぬ。
                                    
↓怪玄
028matsutoumetaketori1left 028matsutoumetaketori1right

















↑怪玄が化けたぼうふり   ↑妖術で跳びたつ蚤や蚊の形をした虫たち


怪玄はその丈五尺ばかりなるぼうふり虫の形に化して、判官の館の奥庭の池の中に隠居て、深夜に至つて現れ出で判官の寝間の天井に上り、尻より水を吐出す。

左側の龍みたいな不気味な化け物がが孑孑(ぼうふり)です。空想で描かれたものではくて、これぞ『紅毛雑話』で司馬江漢筆で描かれた顕微鏡で見たぼうふりの姿です。
014microscope_komozatsuwa05boufurio

←『紅毛雑話』森島中良。

(国立国会図書館デジタル化資料より)
そっくりですね。









↓こちらの絵は床に伏している佐々木判官を虫の妖怪がとりまいている場面です。
028matsutoumetaketori2_2left_6 028matsutoumetaketori2_2right_2 右上からノミの化け物、シラミの化け物。
左上から蚊の化け物、あかぼうふりの化け物。
いずれも『紅毛雑話』の中のスケッチです。

『紅毛雑話』のスケッチを忠実に模写する(※1、2)だけではなく、それぞれの虫の注釈も『紅毛雑話』の文面通りです。


○蚤は足六本あり。二本は鼻の先にあり。全体、海老に似たり。
○虱は、全体、烏賊(いか)に似たり。足は蟹の爪の如く先鋭にして鋏(はさみ)あり。腹の黒きは臓腑の透通りて見ゆるなり。
○赤孑孑(あかぼうふり)は口はなはだ大きなり。尻に枝あり。
○蚊は眼真黒にして、魚子を打ちたる如し。口は管なり。中より針を出して人を刺す。


それぞれの虫の図をご覧いただきながら、この注釈を読んでいただくと虫の観察の特徴が適切に描写されているのがわかりますね。

紅毛雑話の各絵と比較してみましょう。

014microscope_komozatsuwa04kaonly 014microscope_komozatsuwa02leftnomi









014microscope_komozatsuwa06akaboufu 014microscope_komozatsuwa03leftshir







(上記4点 国立国会図書館デジタル化資料より。蚊と虱は『松梅竹取談』に合わせ、絵の角度だけ変えました。)

歌川国貞が、『紅毛雑話』の虫のスケッチを修正加工せず、そのままうまく活用しているのがわかりますね。ただ一つ加えたとすれば「眼」
鈴木重三氏も指摘していますが(※2)上記の画像に「ぎょろ眼」をつけくわえるだけで妖怪になっていますね。顕微鏡でなければ姿がよくわからないようなノミやシラミが巨大な化物になって襲う発想はSF的ですね。

江戸時代の人たちは『松梅竹取談』を娯楽として読みながら、当時の最先端の科学知識に触れることになっていたのですねhappy01

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※1/
森島中良の『紅毛雑話』(天明七年)中にこの図と同じ図を発見した。しかも注釈の文章まで同じであり、虫の各々の大きさが合巻のものとピッタリ一致する点、まさしくしき写した形跡まで感知した、京伝のはめ込み方の巧さには苦笑させられた(『絵本と浮世絵』鈴木重三/美術出版社 p49より)
※2/
『紅毛雑話』巻之三の「顕微鏡」の章で「司馬江漢ミコラスコービュンにて身たるところのものを尽く画て(私による略)原寸通りに模出し、眼玉の部分だけ妖怪めかして大きく描き直しただけのものであった。しかも説明文までもそっくり借用している。(同書 p117より)

『松梅竹取談』全文は『山東京傳全集』第七巻(ぺりかん社)で読むことができます。
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当時最先端の科学であった「顕微鏡」をうまく娯楽作品に生かした山東京伝と歌川国貞ですが、土井利位の『雪華図説』とも無縁ではないのです。

Ukiyoe_seibonomiyuki 歌川国貞は「歳暮の深雪」などの浮世絵で着物の柄に土井利位の雪華文様をあしらっています。
山東京伝は直接の関係はありませんが、弟の京山が鈴木牧之と『北越雪譜』(土井利位の雪華図説から雪華を転載している)を出版しています。京伝自身も鈴木牧之の『北越雪譜』のプロデュースを図っていた時期があります。

→「歳暮の深雪」
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画像に関して/
ぺりかん社の了承を得て、この本から絵を転載しました。
国立国会図書館の画像掲載許可をいただき掲載ました。

【江戸時代の顕微鏡シリーズ】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら

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emi (秋田恵美)

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。
    コンタクト: メールアドレスはhoshibiyorihappy*yahoo.co.jp このyahooの前の*を@に変えてご連絡下さいませ
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