雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(19)まとめ・顕微鏡の果たした役割
江戸時代の顕微鏡についてのまとめです。
ただし書きでも触れましたが、雪の結晶に魅せられたことをきっかけに江戸時代の顕微鏡に興味を持ってしまったわけで。光学分野の専門家でもなんでもない文系人間による私見です。
【顕微鏡の入手】
最初はオランダから輸入されたものが使われたが、1780年代から日本の職人によって国産品も生まれるようになった(cf. ⑪)。
【顕微鏡の形状】
主流はカルペパー型。そのほかカフ型、筒型などもあり。
【顕微鏡を手にした人々】
大名、裕福な商人、学者(動植物・医学の研究者、蘭学者)、通詞(通訳)など。
文明の最先端である光学機器のため、政財界と文化人…今でいえばセレブの人々が所有し、また観察した。
ただし、顕微鏡は見世物に使われたので、一般人もその際に顕微鏡を体験している(cf.(34))。
【観察の対象】
虫(顕微鏡と書いてムシメガネと読ませる文献が多いように圧倒的に虫が多い)。
植物。
少ないのは人体(皮膚、髪、血管他)、雪の結晶。
雪の結晶を江戸時代に観察したのは、小野蘭山(そのスケッチは現存せず cf.⑥)、司馬江漢(cf.⑱)、土井利位(cf.(48) (51))、高木春山(cf.(52))。
土井利位が雪の結晶を観察してスケッチを残したことが珍しいことであることがわかる。
【江戸時代の顕微鏡が果たした役割】科学・医学の発展。自然の中にある様々な物(昆虫、植物他)の精確な仕組みを捉えることで科学や医学の知識を深めた。
アート性。土井利位がスケッチした雪の結晶は着物の柄他、「デザイン」として江戸時代に流行。
哲学的な視野を広げた。
------------このについて------------
顕微鏡と望遠鏡。二つとも江戸時代に大名などのセレブが所有し、国産のもの生産されるようになった科学機器です。
小さくて見えなかったものを視る、遠くて見えなかったものを視る魔法の装置。
それは、科学という現実面だけではなく、江戸時代の人々の内面に大きな変化をもたらしたのではないでしょうか。
鎖国を続ける島国に生きる人々に、海外の文明がいかに日本よりも発展しているかを知らしめました。
また、「今まで自分が肉眼で見ていたものがすべてではない。自分の眼には見えない世界がある」といういうことを 知らしめました。
顕微鏡を覗いて哲学的なことを感じ取った1人が橘南谿です(cf.(17) (40))。
一滴の水の中にいろんな形のものがうごめいているように、この丸い地球にもいろんな生物がうごめいている、天地間にも日や月、星などさまざまなものが存在すると思いを巡らしています。「自分vs微生物」を「もっと大きな存在vs自分」と「視る」立場を逆転させて感じとったようです。
こんな風に「視野」を広げさせたこと。それが顕微鏡(&望遠鏡)の江戸時代における重要な役割なのではないでしょうか。この広い視野が幕末、明治へ続く「近代化」の流れを後押ししたのではないでしょうか。
江戸時代の顕微鏡シリーズは、ご紹介した資料の詳細補足など、まだこれからも続く予定です。
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