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2012年11月12日 (月)

雪の結晶番外編/江戸時代の顕微鏡シリーズ(18)No.58『群虫真景』の詳細です

江戸時代の顕微鏡シリーズ(15)の(58)『群虫真景』徳川慶勝(よしかつ)の詳細です。
徳川慶勝といえば、幕末から明治を生きたお殿様、徳川御三家の筆頭尾張藩14代藩主というお方です。

徳川美術館のこちら(ttp://www.tokugawa-art-museum.jp/planning/h22/04/obj09.html)で紹介されている熊蟻のスケッチが素晴らしく、『群虫真景』を所蔵されている徳川林政史研究所に見せていただきにうかがいました。

現物はとても凝った作りのものらしく、実際に虫の標本が貼り付けられているページもあるようです。そのため、見せていただけたのは、現物の複写版でした。それでも、この作品の素晴らしさは十二分に感じることができました。
--------------
現物(複写ですが)を見させていただくと、虫のスケッチは2つのタッチがありました。
「熊蟻」のように迫力のあるアングルで精緻で達者な絵(画帖の前半)と少し線が硬い、虫も固まったようなこじんまりした絵(後半)と。この前半の絵には脇に筆で虫の名前が記されています。この毛筆の書体は明らかに慶勝の文字。ですので、前半は慶勝によるスケッチ、後半が別の人のものをまとめたと推測できます。
『写真家大名・徳川慶勝の幕末維新』NHKプラネット中部編(NHK出版) 』にも絵には巧拙があり、慶勝の墨書が添えられた前半のみが慶勝自筆と見られる(p81より)と書かれています。

---------------『群虫真景』の構成は-----------------

◆ページを開くと「以見微鏡模写図」と慶勝の自筆で書かれています。「顕微鏡」ではなく「見微鏡」と記しています。
◆つづいて、慶勝自身による虫のスケッチ。
慶勝自身が、名前を添えて描いた虫は草虫、蚊、熊蟻、蜻蜒、十衣蜘蛛、バッタ、テントームシ、米ツキ虫、蜻蛉、蝿、赤蟻など。
画像をご紹介できないのが残念ですが、カラフルな色合い、脚の毛、羽の透通るような質感、躍動感あふれるスケッチが素晴らしいです!!!
どの絵も細部にわたってこまやかに描かれているのですが、いわゆる顕微鏡だからこそ覗いて描いてほしい、小さな虫(ノミ、シラミなど)が描かれていないんですよね。尾張藩の藩主である慶勝の身の回りにはノミ、シラミはいなかったのでしょうか??
◆その後、タッチが違う虫の絵が並びます。少し線が硬い、たどたどしい印象。虫の名は書かれていません。
◆そして、慶勝による虫の標本。標本のまわりのマーブル模様のような枠も美しく、とてもモダンであることに驚かされます。

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群虫真景を
ネットで閲覧/全貌をみられるところは未発見。
◆熊蟻の図→【徳川美術館】のHP
直接のURLはttp://www.tokugawa-art-museum.jp/planning/h22/04/obj09.html

本で閲覧/『写真家大名・徳川慶勝の幕末維新』NHKプラネット中部編(NHK出版)

写真家大名・徳川慶勝の幕末維新―尾張藩主の知られざる決断

 

 

 

この本の中で『群虫真景』を紹介しているのはp80~84。
「慶勝のフィールドノート、昆虫標本、押し花 殿様は愛すべきナチュラリスト」(徳川美術館 吉川美穂氏)というコラムです。
羽アリと思われる「名不知 燈下来」のスケッチ、画帖後半の慶勝による虫の標本が掲載されています。

『群虫真景』に関してはこんな風に記されています。抜粋で。
昆虫の写生図と昆虫の標本を硫酸紙のような透明紙で挟み貼りこんだ画帖。(略)
昆虫図は顕微鏡を覗いて観察・写生した図というのである。
(略)
いずれも小さな虫たちが画面いっぱいに拡大されて描かれており、見えなかった世界がレンズを通して目に飛び込んできたときの慶勝の新鮮な驚きがそのまま伝わってくる。また昆虫標本は、大名の残した現存唯一の昆虫標本としても貴重である。

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さて、 徳川林史政研究所では慶勝による『諸品見出帳』も見させていただきました。こちらは慶勝自身が自分の持ち物を箇条書きで書き記したもの。その十五番に 見微鏡 とありました研究所の方にうかがうと、その見微鏡は現存していないようです。
ただ、自分の持ち物リストに「見微鏡」と記している文字をみて、慶勝が持っていた顕微鏡をリアリティ持って感じることができました。
=====NHK「幕末 知られざる決断 尾張藩主 徳川慶勝」=================
さて、書籍『写真家大名・徳川慶勝の幕末維新』はNHKの番組「幕末 知られざる決断 尾張藩主 徳川慶勝」(2009年8月23日放送)に関連して出版されたようです。
「この番組の中でも群虫真景は紹介されているのかも」と思い、NHKオンデマンドでこの番組を購入閲覧しました。
残念ながら群虫真景は出てきませんでしたが、慶勝の人となりがよくわかりました。とても感銘を受けました。
一言で言うなら慶勝は「先見の明」の人。

○幕末、弟の会津藩主松平容保と敵味方の立場になってしまった慶勝。攻撃された会津城の姿を自ら写真に撮っていたのが、没後わかったのだとか。その写真はp27に。
慶勝が弟を思う気持ちを感じました。
○慶勝は尾張城を明け放す時も自らその城の姿を写真撮影、それは日本初めてのパノラマ写真といわれているのだとか。その写真はp90~91。
入りきらない被写体を、分割して撮影してパノラマ写真化するという発想を思いついたのもすごいと思います。
○時代が明治となり、身分が「殿さま」から「一般人」へとなった慶勝は東京、隅田川そばに移り住み、市井の人々の生活にレンズを向けています。その興味深い写真も掲載されています。p118~121。
○明治になって士族の特権が失われた尾張藩士たちの行く末を気にかけ、北海道の開拓を後押し。民となって八雲に暮らす元藩士たちに資金援助をして支えていたのだとか。 p55~56。

『群虫真景』が作成されたのは、弾圧を受け謹慎を受けた頃のようです。慶勝は1858年(安政5年)に隠居謹慎を命じられ、1862年(文久2年)に幽閉を解かれ藩政に復帰しています。
窮地の環境でも、好奇心は衰えなかったのですね。写真撮影を始めたのもこの頃のようです。

慶勝が自身や弟を撮った写真

高須四兄弟。
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左上から
徳川慶勝(1861年撮影)
尾張藩14代藩主。

徳川茂徳(もちなが)(1863年撮影)
7歳年下の弟。
尾張藩15代藩主。

松平容保(かたもり)
(1862年撮影)
11歳年下の弟
会津藩主。

徳川定敬(さだあき)
(1862年撮影)
22歳年下の弟
桑名藩主。

↓明治時代になって四兄弟が再会。東京下町の写真館で撮影された写真。
058microscope_tokugawa4brothers_187
左から定敬、容保、茂徳、慶勝

激動の幕末。敵味方となってしまったこともある兄弟4人が明治時代になっても健在で再会。よくぞご無事で。

上の写真と下の写真を見比べると、四兄弟のドラマティックな人生を想いめぐらすことができます。

(写真はいずれも徳川林史政研究所所蔵)


徳川慶勝。「先見の明」と「トップとしての責任感」と「品位」。今、これだけの質を備えた人が政治に現れてくれていたらと思います。

【江戸時代の顕微鏡シリーズ】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら

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コメント

今の時代なんでも当り前に存在して、当たり前に見ているものが明治時代に考え、実用化していた人がいることに感動しています。

坂本龍馬も写真を見ましたが、この時代にパノラマを考えていたなどとは凄い人だったのですね。

顕微鏡ではなく見微鏡なんですね。
昆虫図見てみたいです。

ジジさん。ごらんくださりありがとうございます。
ほんとですね。今当たり前に誰もが持っているものも、江戸や明治ではセレブだけが持てるものだったり、「魔法のようなもの」だったのですよね。
徳川慶勝さんの昆虫の絵、本当に素晴らしいです。徳川美術館のHPでみられる蟻も、よくあのアングルで描こうと思ったものだと、卓越した美的センスを感じます。
徳川林史政研究所さんは、簡単に入館はできませんが、事前に申請して認められればうかがって資料を見せていただくことができます。ただ、当日や翌日に拝見したいというのはだめで、3週間以上先の期日のものを申請する形となりますが。ぜひ「群虫真景」ご覧いただきたいです。

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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