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2012年12月 6日 (木)

土井利位の環境(その1)江戸時代の博物大名たち。とりわけ堀田正敦

土井利位は藩主でありながら、
雪の結晶を顕微鏡で観察してスケッチを描き、
雪の効能などを記した文章とともに『雪華図説』『続雪華図説』を著す
という非常に科学的な功績を残しました。

江戸時代、科学的な功績を残した大名は少なくありません。
舶来の科学本を入手できる、最先端の文明の利器(望遠鏡、顕微鏡、銃etc.)を手にすることができたのも
一般人とは違う権力者という立場こそでしょう。
また、江戸時代は比較的平和で国内で大きな戦乱がなく、
殿様たちが研究などに打ち込める環境もあったからなのでしょう。

自然学・博物学を愛好し自ら図譜を作った博物大名の代表的な方を挙げます。

◆黒田斉清(なりきよ)/筑前福岡藩第10代藩主。
   『鷲経』他鳥類などに関するの著作あり。
◆佐竹曙山(しょざん)/出羽久保田藩(秋田藩)第8代藩主。
   『写生帖』。虫類などに関する著作あり。
◆細川重賢 (しげかた) /肥後熊本藩第6代藩主。
   『毛介綺煥』『昆虫胥化図』編纂。

◆堀田正敦(ほったまさあつ)/下野佐野藩主。
   『観文禽譜』『観文獣譜』『堀田禽譜』編纂。
Doi_hottakinpu_shimafukurou
『堀田禽譜』よりシマフクロウ。画像提供:東京国立博物館。画像番号C0073420

↓『堀田禽譜』よりピングイン。(私メモ/ペンギンのこと)
  画像提供:東京国立博物館。画像番号C0023302

Doi_hottakinpu_penguin

◆堀田正衡(ほったまさひら)/下野佐野藩第二代藩主。
  堀田正敦の子。
   『観文介譜』。貝に造詣が深い。

◆前田利保(としやす)/越中富山藩第10第藩主。
  『本草通串』『本草徴解』他薬草に関する著作あり。

◆松平頼恭 (よりたか) /讃岐高松藩第5第藩主。
     『衆鱗図』『衆禽画譜』『写生画帖』他編纂。

◆増山雪斎 (せっさい)/勢長島藩第5代藩主。
   『虫豸帖(ちゅうちじょう)』
Doi_chuchijou_masuyamasessai
↑『虫豸帖』より。画像提供:東京国立博物館。画像番号C0021060

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

上記に挙げた博物大名の一人、堀田正敦。
彼の禽譜は江戸時代最高最大の鳥類図鑑と称されています。
そしてこの堀田正敦は実は土井利位(どいとしつら)の伯父なんです!!
土井利位から見ると、実父である土井利徳(どいとしなり/三河刈谷藩藩主)の弟が堀田正敦という関係。
Doi_hottakinpu_medaichidori
↑堀田正敦の禽譜の水禽より。めだいちどり。
  画像提供:東京国立博物館。画像番号H0018487


このめだいちどりは、土井利位の実父土井利徳が描いたものです。
「コノ図ハ山城守利徳朝臣ノ自ラ
写サル所ナリ」
と絵の上部に記されています。

弟(正敦)や息子(利位)ほどの博物趣味はなかったかもしれませんが、
利徳の動物スケッチがあり、それが禽譜に収録されているのは興味深いことです。

(それから、正敦が伯父になるということは、
貝を研究し『観文介譜』を著した堀田正衡は土井利位のいとこになるのですね。)

堀田正敦の功績と土井利位への影響力については
鈴木道男氏の論文【『雪華図説』再考】(東北大学大学院 国際文化研究科論集 第五号)が詳しいです。

ネットでの閲覧はこちら
ttp://ir.library.tohoku.ac.jp/re/bitstream/10097/34453/1/KJ00004370355.pdf

鈴木氏は堀田正敦に関して
化政期(私メモ/文化文政時代)の諸学の大庇護者というべき堀田正敦は、
学者支配の若年寄の特権を十分に活用し、
本草学者、蘭学者、またこれらの学問に造詣の深い諸大名らをはじめ、
広く市井の鳥学愛好グループからも諸説を徴して『観文禽譜』を完成させた。
と書いています。

また、土井利位への影響としては
広く海外や市井からも情報を徴する正敦の学問の方法は、父利徳を通じて利位に伝えられたであろう。
と記し、雪華図説に跋(私メモ/あとがきのこと)をよせた桂川甫賢が、
堀田正敦の『観文禽譜』の増補改訂にブレーンとして関わっていたことも述べています。

土井利位が堀田正敦(伯父)や同世代の堀田正衡(いとこ)とどのくらい交流があったのかはわかりませんが、
博物をコツコツと研究し、海外の知識や学者の見識を取り入れるという堀田正敦のスタイルやネットワーク。
土井利位は影響や励みを受けたのではないでしょうか。

(2013.8.29追記)
堀田正敦と土井利位まわりの家系図をつくってみました。
こちらです。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
博物大名に関するサイト

◆九州国立博物館(連載 九州蘭学紀行~西洋にあこがれた大名たち~第二回 井上 淳)
直接のURLはttp://www.kyuhaku.jp/roji/roji_in-02.html

◆国立国会図書館(電子展示会「描かれた動物・植物」第一章 江戸博物誌の歩み Ⅱ自然へのあついまなざし-18世紀)
直接のURLはttp://www.ndl.go.jp/nature/cha1/index2.html

================================================
博物大名に関してはこちらの記事や本が面白いです。

『殿様生物学の系譜』科学朝日編。
小西正泰氏はこの中で
「博物大名一家にとっては、本来は強制された義務である参勤交代の長旅も、
実際には心おどる動植物採集旅行にほかならなかったようである」
と書いています。
上記に挙げた博物大名のスケッチ画像を全員はご紹介できませんでしたが、
どうぞご自身でご覧になってみてください。
好奇心あふれ、観察した様子が伝わってくるような躍動感みなぎる絵に出会えることでしょう。

江戸時代の博物図譜では
『博物画譜 佐竹曙山・増山雪斎』(駸々堂出版)や

↓こちらも興味深いです。


江戸鳥類大図鑑 THE BIRDS AND BIRDLORE OF TOKUGAWA JAPAN


江戸時代に描かれた鳥たち 輸入された鳥、身近な鳥


【雪の結晶と土井利位】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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