『雪だるまの雪子ちゃん』、素敵な絵本です
山本容子さんの絵が好きで、雪の結晶が好きなら、この本を手にとられずにいられましょうか。
というわけで、昨年、棚の雪の結晶コーナーに加わったのが
『雪だるまの雪子ちゃん』江國香織著 銅板画山本容子 雪だるまの雪子ちゃん
絵本ではなく長編童話。233ページのボリュームがあります。
感激したのがまず表紙。雪の結晶がたくさん描かれています。土井利位の描いた雪華に似たものもあります。
土井利位の雪華は江戸時代後半にブームになって広まり、以降、一般的な「雪華文様」となりました。
山本容子さんが一般的な雪華紋としてモチーフにされたのか、それとも土井利位の『雪華図説』をご存知で
そこからモチーフにされたのか、はたまた、まったく関係なく雪の結晶の写真などをモチーフにされたのか
知りたいところです。
土井利位はあくまでも「観察スケッチ」としてシンメトリーな雪華を描いていますが、
山本容子さんの雪の結晶はゆらぎのあるフォルムで味があります。
古河歴史博物館の図録『雪の華』内の一覧表にある雪華に似たものを
『雪だるまの雪子ちゃん』の表紙カバーにみつけました。
そして、たくさんの雪の結晶の中に赤い長靴をはいた雪子ちゃんの姿も見え隠れ。
『雪だるまの雪子ちゃん』の表紙絵は部屋の壁紙にしたい!と思うほど素敵です。
そして、表紙カバーをめくると。
なんということでしょう(ビフォーアフターの調子で)。
そこには一転、春や夏を思わせる色とりどりの花々が咲き乱れているではありませんか。
↑雪の下に次の季節が隠されているのですね。ニクイです。
(右側が雪の結晶がある本のカバー。左側の花々が本体です)
さて、お話の方は・・・。
野生の雪だるまの雪子ちゃんがまわりの人たちと交流するお話です。
劇的なことはとくになく、
冬景色の丁寧な描写の中でほのぼのした交流がおこなわれていて、
心がほっこりするお話です。
江國香織さんの文章は五感に働きかけますね。
冬の凛とした空気、針葉樹のスーとする匂い、
雪の上を歩く感触や、雪原が太陽にキラキラするまぶしさ、
寒い中でなめるバターのおいしさetc.
いろんな楽しさが伝わってきます。
この雪子ちゃん。
野生の雪だるまで、今は子だぬきほどの大きさです。
好物はバターと生ざかな。
手足があってまつげもあって、
もちろん動物だから寝ているとおなかがへこんだりふくらんだりして、
寒い中で吐く息もちゃんと白くて・・・。
ある日、雪子ちゃんはお散歩して、学校に辿りつきます。
校庭を歩いてブランコのところにやってきた雪子ちゃん。
ブランコに座ってじっとしています。
それをみた子供たちが、「こぎ方がわからないんだわ!」
と雪子ちゃんに身振り手振りで漕ぎ方を教えるシーンがあります。
長靴をはいた雪だるまがブランコにちょこんと座っている場面を想像して、
かわいい!と思いました。
校庭にいる雪子ちゃんに気づいた子供たちが、
教室からたくさん顔を出した時、雪子ちゃんは驚きます。
でも、お父さんの「こわいことがあっても凍りつくんじゃない」という教えを思い出して、
深呼吸して「わたしは雪だるまの雪子よ。だまってお庭に入りこんでごめんなさい」と毅然とこたえます。
たき火をながめるのが好きな雪子ちゃん。
もちろん危険と知っているから遠くから眺めます。
空へ立ち昇る火の粉をみて、私たちは空から降りてくるのに、火の子たちは逆。
陽気にはねて地上から空へと昇っていくんだわと考えます。
こわがりだけど、好奇心旺盛で利発な雪子ちゃん。
山本容子さんの絵も、少しブサカワできかんき顔に雪子ちゃんが描かれています。
ラブリーじゃないところが逆に可愛らしさを感じさせます。
野生の雪だるまという設定もいいです。
ファンタジックでありながら、リアリティもあったり。
雪子ちゃんが遊びに行った小学校のエミラ先生はこんな風に語っています。
「野生の雪だるまがでたなんて話、このへんじゃもう、ずっと聞いたこともないわ。
雪だるまっていえば、子どもたちが雪でつくる物だと思ってる人も多いくらいよ」 p70
また、エミラ先生の学校の図書室にある野生の雪だるまに関する資料によると、
主食が生のさかな。
生態はまだあまりあきらかになっていないが、群れはつくらず、単独で行動する、
雪のなかに独自の巣をつくってかくれ住んでいて、人を見ると逃げてしまう p73
のだそうです。
<冬の描写>
まっ白な羽根蒲団を十枚もかさねたみたいに、
たっぷりつもった雪が月に照らされて、
砂糖をまいたみたいに光っている風景 p51や
空気には、水をふくんだ雪のにおいと、
森のエゾマツやアカマツの、すがすがしいにおいがまざっています。 p119
<春や夏へのあこがれが増す描写>
黄色いタンポポ、まっ白なナナカマド、むらさき色のリンドウ、クリーム色のイワウメ p166
ユキノシタ。あんずやいちごの実、ブルーベリー、ハスカップ p167~168
などなど。
冬がいとおしくなったり、春や夏の季節が待ち遠しくなったりする素敵な作品です。
◆山本容子美術館 Yo's room第10回
(ttp://www.lucasmuseum.net/information/index.php?itemid=364)
に『雪だるまの雪子ちゃん』のいくつかの挿絵が紹介されています。
◆絵本ナビでも挿絵と数ページが公開されています。
絵本ナビ(ttp://www.ehonnavi.net/)→「雪だるまの雪子ちゃん」で検索。
◆江戸時代の雪だるま↓ 本当に置物の達磨の形をしています。
「風流雪の遊」菊山英山/江戸時代
↑2枚の浮世絵、本当はつながっています。真中に雪だるま。
画像提供:東京国立博物館(ttp://www.tnm.jp/)
◆家の近所でみつけた雪だるま
小さい女の子が作りました。
右目の葉っぱが下に落ちちゃいましたが(画像中央手前)、
ゆるきゃらのかわいい雪だるまでした。
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