星のささやき---その17.星のささやきに関するロシア語文献一覧
「星のささやき」はロシア語で「шепот звезд(ショーパト・ズビョースト)」。
「星のささやき」現象について書かれたロシア語文献を時系列でまとめてみました。
注)本のタイトルはロシア語です。添えた日本語タイトルは私によるものです。
注)あくまでも私が把握できた本だけを取り上げています。今後加筆修正もあります。
注)「шепот звезд」と明記されている本は○。
шепот звездという単語は明記されていないけれども、
星のささやき現象について書かれている文献は△印をつけました。
注)訳は明記がない限り私の訳です。
(2016.2.18追記)
年代順に記していましたが、①以前の資料がみつかりましたので、便宜上、赤文字で番号を振りました。
①1822年
論文「Путешествие Геденштрома по Ледовитому морю и островам оного, лежащим от устья Лены к востоку
(私メモ/ゲデンシュトロムによるウスチ・レナの東方にある北氷洋と島々の旅行記の意味)」マトヴェイ・ゲデンシュトロム著。
△寒さはとくにきびしく、口からはき出される息は氷の塵のようになり、
それが互いに触れ合うと、干し草を動かす時のような音をたてた。
詳細は その23を。
①1875年
小説『На краю света(世界の果てで)』ニコライ・レスコフ著。
△あまりに森閑とした静けさなので、私自身の脈や息の音が聞こえた。
呼吸は干し草のようにざわざわ音がした。
激しく呼吸をすれば、堪えがたい厳寒の空気の中で息は電気のスパークのようにパチパチと音を立てる。
詳細は その1、その12を。
②1892年頃(没年より推定)。
チェルスキーの論文か日記。原文未見。
△or○
注)チェルスキーが「星のささやき」について言及していることをセルゲイ・オブルチェフが下記の資料⑤で述べています。
その箇所は
チェルスキーはすでにこの特異なざわめきについて、これは氷点下50度のマロースの時に起きることを述べている。
ヤクートの人たちはこれを「星のささやき」と呼んでいる。
詳細は その3、その14を。
③1928年
論文「Верхоянск или Оймякон (ベルホヤンスクあるいはオイミヤコン?)」セルゲイ・オブルチェフ著。
ロシアの気象雑誌『メテオロロギーチェスキー・ヴィエスニク』1928年10月号掲載。現物未見。
注)ニーナ・ステパノーヴァが英語の論文「ON THE LOWEST TEMPERATURES ON EARTH」 『マンスリー・ウエザー・レビュー』1958年1月号』掲載に引用しています。
その英語論文から該当箇所を拙訳。
○摂氏マイナス39.4度以下をどのように知るかというくだりで
「私たちは客観的な目安になるものを活用しなければなりませんでした。
すなわち、凍った息よって生じるさらさらカサカサいう音です。
それは穀物を注ぐ音にとてもよく似ています。
この現象は、ヤクートの人々によって「星のささやき」と呼ばれています。
詳細は その2を。
④1933年
『Колымская землица. Два года скитаний. Экспедиция 1929-1930 гг.
(コルィマ(コリマ)の地 2年間の放浪1929-1930年の遠征)』
セルゲイ・オブルチェフ著。
○厳しいマロースの時、ここでは息が凍る音を聴くことができる。
(私による略)
ヤクートの人たちはこのざわめきを「星のささやき」と呼んでいる。
詳細は その13を。
⑤1954年
『В неизведанные края: путешествия на Север 1917-1930 гг.(未踏査の地方:北方の旅 1917-1930年)』
セルゲイ・オブルチェフ著。
○耳当てから耳を出すと、奇妙なざわめきが聞える。
それはまるで穀粒をばらまくような音、あるいは風が木々から乾いた雪を払い落とすような音だ。
(私による略)
チェルスキーはすでにこの特異なざわめきについて、
これは氷点下50度のマロースの時に起きることを述べている。
ヤクートの人たちはこれを「星のささやき」と呼んでいる。
詳細は その14を。
⑥1956年
『Путь на Грумант(プーチ・ナ・グルマント)』コンスタンチン・バディギン著。
○ 厳しいマロースの夜、オーロラを見 た時に、カチカチと鉄砲を鳴らすような音がした。
(私による略)
ヤクートの人たちは昔から晴れたマロースの夜に聞こえるこれらのざわめきに気づき、「星のささやき」と呼んでいた。
ざわめきは厳しいマロースの時に起こり、オーロラや星によって生じる音とみなされていた。
まもなく、すべては人間自身の息によって生じるものであることがわかった。
吐く息の中の蒸気が凍る時、静けさの中では時々はっきりと、さらさら、カサカサ、ぱちぱちと弾ける音が聞こえるのだ。
詳細は その1を。
⑦1957年
詩集『Колымские тетради(コルィマ・ノートブック)』ヴァルラーム・シャラーモフ著。
△深い夜の星のささやき
マロースの中での大気のざわめき
非常に露骨に
私を涙にむかわせる
詳細は その11を。
⑧1972年
『ПОЛЮС ХОЛОДА(寒極)』ニコライ・フィリポビッチ著
2か所あり。『寒極シベリア』岡田安彦著(世紀社出版 1975)から岡田安彦氏の訳で。
△寒極オイミャコンの歴史について、
ヤクートの詩人であるS・ダニロフの詩<オイミャコン>によって知ることは興味のないことではなかろう。
ここでは太陽が冷却してしまう。
涙も一瞬のうちに砕片のようになってしまう。
呼吸もサラサラと音をたてている。
○11月10日、温度計の水銀は凍った。
(気温は氷点下39.4度以下となったのである)
そして夕方には”凍った呼吸”またはヤクート人たちが”星のささやき”と呼んでいるサラサラというかすかな音が聞こえた。
これに基づいて、気温は氷点下50度以下との結論が出されたのである。
詳細は その9、その15を。
⑨1973年
『Загадки простой воды(単純な水のなぞ)』フセボロド・アラバジ著
○寒い地方、特にヤクートで気温が摂氏マイナス49度を下回る静かなマロースの時は、
観測者はまれにさらさらカサカサいう音に気づく。
その音は、穀物を注ぐ(ばらまく)のを連想させるような音だ。
はじめのうちは、この音はこの現象が現れる際にしばしば観察できる北極光(オーロラ)のせいだと思われていた。
しかし、のちになって、氷点下のマロースの空気中に人間が息を吐くときに大量に形成される氷の結晶の衝突によることが明らかになった。
ヤクートでは「星のささやき」として知られている。
ニコライ・レスコフは小説『ナ・クラユー・スヴィエタ』で鮮やかにこの現象を描写している。
詳細は その3を。
⑩1974年
『К неведомым горам : путешествия С. В. Обручева(見知らぬ山々:セルゲイ・オブルチェフの旅)』
リディヤ・グリシナ著。上記の⑤(オブルチェフ著)を参考にしていると思われます。
○このルートからの帰還する時、オブルチェフは、絶えず彼の道中に随行する不可解なざわめきに気を留めた。
<まるで、穀物の粒を注ぐ(ばらまく)か、風が木の枝から乾いた雪を払い落とすような音だ。
どこをふりかえってもいたるところでこの音がする。
けれど風はなく、枝はかすかにも揺れていない>と後に彼は書いている。
とうとう探検家は気づいた。これは自分の凍った息の音だと。
チェルスキーは<この独特なざわめきはマイナス50度を下回るマロースの時に現れる。
ヤクートの人たちはこのざわめきを「星のささやき」と呼んでいる>と書いている。
詳細は その3を。
⑪1976年
『Воспоминания и необыкновенные путешествия Захара Загадкина
(ザハール・ザガトキンの回想記と不思議な旅行記)』
ミハイル・イリーン著。
○僕は若い地理学者に出会った。
彼は「そうだよ。私は星のささやきを聞いたよ! 興味深い自然現象だ」と語った
(私による略)
地理学者は僕に教えてくれた。
数年前、彼の探検隊が遠いヤクート共和国の北方の上流で調査していた時のことを。(私による略)
「そうだよ。まさに私はそこで星のささやきを聞いたんだよ」(私による略)
「星のささやき」は北東シベリヤやヤクート共和国での音響的な現象に名付けられたものだ。
晴れたマロース(氷点下の厳しい寒さ)の夜、気温がマイナス40度~50度に下がる時、
人の呼気による蒸気は凍り、ごくこまかな氷晶となる。
氷晶が霜となって下降する時、互いに触れ合って砕けて、かすかにたえまなく、さらさらという音を立てる。
人間がかすかに聞けるほどのさらさらカサカサという音だ。
ザハールが会った地質学者は北半球の寒極であるオイミャコンで「星のささやき」を聞いた。
詳細は その4を。
⑫2007年
シャラーモフ(上記⑦)のインタビュー記事。雑誌『Совершенно секретно(極秘)』2007年6月号掲載。
○摂氏マイナス56度という温度は、
地上に落ちるまでに氷結する唾や痰によって、マロースのざわめきによって把握することができた。
なぜなら、マロースは言葉を持っているのである。
それはヤクート語で「星のささやき」と呼ばれている。
この星のささやきを私たちは非常に早く覚えた。
詳細は その11を。
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