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2013年6月 6日 (木)

星のささやき---その21.TBSドキュメンタリー番組『シベリア大紀行』と関連本

シベリアの氷点下40度を下回るような極寒の中で聞こえるという「星のささやき」。
私が初めて知ったのは、『地球の歩き方99~00 ロシア編』。

シベリアを題材にして印象的だった番組がかつてありました。
TBSの『シベリア大紀行 ―おろしや国酔夢譚の世界を行く―』
1985年12月2日(前編) 3日(後編) 放映。

200年前シベリア横断を果した日本人船頭・大黒屋光太夫の足跡を探るドキュメント。
冬の極寒のシベリアなど壮大なロケが敢行されました。
開局30周年にふさわしい渾身の取材、貴重なロケもさることならが、この取材に行った方々
(レポーターの椎名誠、通訳の米原万里など)が書いている本(下記参照)がとても興味深いのです。

まだソビエト連邦の時代。少しずつ規制がゆるくなってきていたのかもしれませんが、
アメリカのジャーナリストのシベリア紀行の本などを読むと、立ち入れない制限が多くあるようです。

椎名誠も自著『シベリア追跡』で
ソ連の西側取材陣に対するもろもろのガードは想像以上にものすごかった。(p142 )
夏、冬三カ月以上にわたる長期取材であり
これまで西側のカメラが一度も入ったことのないシベリアの奥地まで突入
(p60)
二人のロシア人は我々の仕事をサポートするための現地側代表であり、同時に必死の総合監視人(p60)
と書いています。

このような番組の取材ができたのも、日本と隣国ロシアの古くからの結びつき、大黒屋光太夫の果した役割、
シベリア地方の人々の顔立ちが日本人とよく似ている親近感、もあるのかしらと思うと同時に、
番組に関わった方々の意思のすさまじさを思い知らされます。

さて、録画をみなおして、「星のささやき」が出てくるかチェックしてみますと。

前編の番組開始から40分すぎぐらいに出てきました!!
雪に覆われたシベリアの白い大河を俯瞰する映像でこのようなナレーションが流れました!!

 

一面の大河 シベリアの大樹林 
ヤクート語でいう極寒 
星のささやき が凍りついて河となる

 

おそらく何百万人が視ている番組でしょう。
私自身は当時、この番組を視ていながらこの場面の記憶がなかったのですが、
「星のささやき」という言葉が日本でメジャーデビューした瞬間かもしれません。

で・す・が、このナレーションですと
極寒をヤクート語で「星のささやき」と」呼ぶように受け止めてしまいそうです。
「星のささやき」が
氷点下40度を下回った時、吐く息が空気中で氷結して奏でる音ということが明確には説明されていません。

また、このドキュメンタリー番組 『シベリア大紀行』のヤクーツクの町の場面では
氷点下40度を下回ると発生する居住霧について取り上げられていますが、
ここでも、「星のささやき」現象までは言及されていません。

同行したロシア語通訳者の米原万里さんはロシアに造詣が深い方です。
「星のささやき」を紹介していないということはご存知なかったのでしょうか。

続いて、ドキュメンタリー番組『シベリア大紀行』に関する出版物をみてみましょう。
「星のささやき」という言葉が出てくるものは○。
「星のささやき」という言葉が出てこなくても「星のささやき」現象が説明されていれば△。
出てこなければ☓。

①1986年
× 『マイナス50℃の世界-寒極の生活』米原万里著(現代書館 )

私メモ/翌年出版されたこの本は、『シベリア大紀行』ロケに同行し、
マイナス50度を体験した時の様子についても書かれているのですが、
この本でも「星のささやき」という言葉に関しても、星のささやき現象に関しても記述はありません。
p23に
はく息の水分が、またたくまに凍っていくのです。
と書かれています。この時、凍った息の音を聴かなかったのでしょうか。

②1987年
× 『シベリア大紀行』TBS特別取材班 [著](河出書房新社)

私メモ/『シベリア大紀行』取材班によるドキュメンタリー番組『シベリア大紀行』の紙上再録。
息が凍ることは書いているものの星のささやき現象についての記載はなし。

③1987年
☓ 『シベリア追跡』椎名誠著(小学館)

私メモ/『シベリア大紀行』でレポーターを勤めた椎名誠が自身の言葉でその体験を語っています。

惜しい箇所は2つあります。
咳きこみながら鼻毛が鼻の奥の方に向かってチリチリと音をたてて凍っていくのがわかった。
音は体内音というのだろうか、かなり鮮明に聞こえた。
 (p66~67)
居住霧について、零下三十六度以下になると人間や動物の吐く息、家庭や店で煮炊きする時に出る湯気、
自動車の排気ガスといったものが空中に出たとたんたちまち凍ってしまい、
それが冬中晴れることのない濃霧となってヤクーツクの市街地を一面に覆ってしまうのだ。
 (p67)

④1988年
△ 『シベリア夢幻―零下59度のツンドラを行く』椎名誠著(情報センター出版局)

私メモ/③と同様、椎名誠が自身の言葉でその体験を語っています。
やっとこの本で、息が凍って音がする、ということが記述されますが、
それでも「星のささやき」と呼ぶ、とは書かれていないですね。

氷の国の静かな人々 息を吐くとすぐ凍って地面に落ちる音が聞こえるんだ― とシベリアの少年は言った。 (p37)
マローズがやってきた夜、戸外に出て何かうたうと、
うたが瞬間的に凍って地面に落ちていく音がきこえる―と、この国にきてから誰かに聞いた。
 ( p39 )

          
というわけで。
TBSドキュメンタリー番組『シベリア大紀行』の録画と、この番組に携わった方の関連本を調べてみたわけですが、
●番組では「星のささやき」という言葉が出てくるけれども、具体的な内容が明かされず、詩的な雰囲気で使われる。
●関連本では「星のささやき」という言葉が一切なく、かろうじて④の資料に内容が出てくるのみ

というわけで、米原万里さんが現地に同行し、
スタッフが氷点下40度以下を何日も経験したうえでのことを考えると、
「星のささやき」現象は当時あまり知られていなかったのかもしれません。

この番組『シベリア大紀行』は今視ても興味深い、貴重な映像がいっぱい。
取材班の一人、星見利夫プロデューサーが番組放送後1ケ月あまりで急逝されたことも
当時、報道で知り、衝撃を受けたものです。
ぜひ再放送してほしいです。
椎名誠の文体の軽妙さは過酷な環境の描写の中でも活きています。
『シベリア追跡』では氷点下50度の中のインスタントラーメンや立ちションの様子も。

※『シベリア大紀行』は横浜にある放送ライブラリー(ttp://www.bpcj.or.jp/)で視聴できるようです。
番組名「シベリア大紀行」ですぐにヒットします。
現在のところ番組IDは前篇が002799、後編が002800です。

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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