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2013年9月14日 (土)

鷹見泉石日記シリーズ(その4)カステラが何度も登場

『鷹見泉石日記』古河歴史博物館編 全八巻(吉川弘文館)を読んでいるとカステラが食べたくなります。

それは、贈答品でカステラが何度も出てくるから。

Takami_senseki_by_watanabe_kazan
↑鷹見泉石像(国宝) 渡辺崋山筆

西洋文化を感じさせる南蛮伝来のカステラは、
大名などの贈答にふさわしいセレブの食べ物だったのでしょう。

『鷹見泉石日記』。
泉石13歳(1797年/寛政9年)から73歳(1857年/安政4年)73才までの日記です。
途中欠けている年代もありますが、その全8巻の中でカステラが登場するのは
60回以上に及びます。
引用部分は青文字でご紹介します。
※原文で助詞の「に」がカタカナの二になっているのを私がひらがなに直しています。

◆表記の仕方は。
「カステラ」「かすてら」が一番多いです。
その他の表現としては
「カステイラ」「かすていら」「嘉寿天伊羅」「加寿天羅」「糟泥卵」「鶏蛋糕」「粕泥卵」「粕泥羅」
この中では「嘉寿天伊羅」「加寿天羅」の当て字が縁起よさそうで、贈答にもぴったりですね。

◆製造者情報が記されているカステラも。
「橘屋播磨之かすてら饅頭」「虎屋かすてら」「栃木製鶏蛋糕饅頭」「淡海堂カステラ」 。
カステラと明記されていませんが、「風月堂二箱」という記述もあります。
推測ですがこれもカステラかも。
風月堂(正しくは几に虫ではなくて百)が江戸時代の銅釜六面焼きでカステラを作っていたからです。
風月堂さんの流れを汲む上野風月堂さんは当時とほぼ同じ製法で「東京カステラ」を今も販売されています。

◆菓子商で買うだけではなく自分のところで作ることもあったようです。
文政5年8月23日 カステラ壱釜箱入にいたし、御手製之趣にて持参候処、厚御礼有之、申上候。
(1巻p205)
文政5年12月12日 雉子橋へ、かすてら一箱百疋分、御台所にて為調、自分寒中見廻持参。 (1巻p213)

◆カステラの数え方は。
『鷹見泉石日記』では、カステラを一折と書いている場合もあれば、一箱、一釜と記している場合もあります。
カステラの出来上がりがそれぞれ違う形状だったのかもしれません。

◆鷹見泉石日記でカステラが最初に登場するのは。
文政5年6月28日 雉子様へ罷出、自分暑中御見廻、御菓子一折持参候処、客来候様子に付申置候。
一分弐朱位之品也。かすてらまんじう也。
 (1巻p202~203)です。

◆カステラはセレブな食べ物?
「南総里見八犬伝」でおなじみの曲亭馬琴も文政7年から嘉永2年まで詳細な日記を残しています
(部分的に家族による代筆あり)。
泉石と同時代に同じ江戸の町で生きた馬琴。
文筆業だけで生計を立てることができた先駆者、名声を築いた馬琴ですが彼の日記内でカステラが
登場するのは4回ほど(私調べで見落としがあったらすみません)。
やはり高嶺の食べ物だったのではと推測できます。

◆カステラの金額はどのくらい?
上記文政5年のかすてらまんじうは一分弐朱位と書かれています。
1分2朱。どのくらいの金額なのでしょうか。

1両が何文か。変動相場で江戸時代でも時期によって違いますが、
暫定的に〔1両=4分=16朱=6000文〕として計算してみると、
かすてらまんじう は1分2朱=2250文となります。

当時、他のものはどのくらいの値段だったのでしょう。
日本銀行金融研究所 貨幣博物館のHP(ttp://www.imes.boj.or.jp/cm/)→調査研究資料→
企画展展示図録→「おかね道中記 旅で使う貨幣」が参考になります。
pdfファイルの12/32に天保元年の旅におけるさまざまなものの値段が記されています。

まんじゅう 8文 あべ川もち25文 わらび餅32文 大井川渡し 320文 熱田神宮賽銭 5文

1分2朱のかすてらまんじうが高価なものであることがわかります。

また、幕末の安政3年、古河で隠居生活を送る鷹見泉石は孫の久太郎を連れて江戸に出かけました。
その際に手土産にしたカステラの値段をこの旅行の出納帳(8巻p354~360)から
見てみますと・・・。

淡海堂カステラ三釜 三百文
1釜100文となると、あまり高くないですね。1釜の量が少ないのでしょうか。
鶏蛋糕(私メモ/この当て字もカステラ) 金二分百文
→金2分=3000文なので金二分百文は3100文になりますね。高額です。

この出納帳では
棹饅頭 1箱364文
埼玉県杉戸の旅籠屋 釘屋嘉右衛門の宿泊費は一人 272文

絵本3冊 150文
水天宮札 10枚 124文
弁当 二人分で100文
いんげん 32文 
きうり 24文
と出てきます。物価の参考になりますね。

◆カステラだけではなく卵も立派な手土産。
鷹見泉石日記を読むと大名関係、通訳などの蘭学ネットワーク関係への手土産で卵そのものが頻繁に登場します。
今では友人同士のご挨拶でも卵を手土産にするなんてありえないですよね。
特に文政7年閏8月の日記は圧巻!!
鶏卵3500個を23日古河出発、24日江戸着で手配し、卵1箱100個単位でさまざまな人に贈答している記録が書かれています。
(1巻p255~259)

幕末の安政の頃になっても相変わらず、鶏卵は手土産に使われています。
前述の江戸旅行(with孫の久太郎)では鶏卵を25個ずつ知人に贈答したことが書かれています。
ただ、運搬は大変だったようですね。
鶏卵四十五土産、道中にて荷落、鶏卵損、数少断。 (8巻p339)
鶏卵廿(私メモ/廿は20のこと)、荷落損、減少。  (8巻p339)
などの記述があります。

今みたいに卵のケースがあるわけではない江戸時代。生卵をどんな風に運搬していたのでしょう。
幕末の元治元年(1864年)に出された『商売往来絵字引弐編』に興味深い絵が掲載されています。
「鶏卵」の項で、卵が藁にくるまれている絵があります。藁をクッションとして活用していたのでしょう。
早稲田古典籍総合データベースでこの絵を見ることができます。
左頁には糟天羅、いわゆるカステラの絵も。
ぜひごらんください。
早稲田古典籍総合データベース→商売往来絵字引弐編→no.15
直接のURLはttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko30/bunko30_g0131/bunko30_g0131_p0015.jpg

さて、この時の出納帳には鶏卵400個=3956文とも記されています。
卵1個は10文弱。高嶺の花という値段ではありませんが、そばが16文~20文ぐらいの時代と考えると安くはないのかもしれませんね。
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淡海堂、とらや、橘屋播磨のカステラのことが知りたくてカステラに関する文献にいろいろ目を通しました。
この3店舗のことはわからなかったのですがカステラについていろんなことを知ることができました。

【カステラが出てくる江戸時代の料理本など】
『和漢三才図会』『長崎夜話草』『古今名物御前菓子秘伝抄』『古今名物御前菓子図式』
『御菓子即席手製集』『菓子話船橋』『南蛮料理書』『鼎左秘録』『銘菓秘録』
『長崎名勝図絵』 グーグルブックスで閲覧可。
p581 オランダ正月(クリスマス)のメニューの中にカステイラあり。
【カステラ参考文献】
『カステラの道』出井弘一著(学芸書林1987)『砂糖の通った道』八百啓介(弦書房2011)
『西洋菓子彷徨始末』吉田菊次郎(朝文社2006)『カステラ文化誌全書』粟津則雄ほか著(平凡社1995)

【鷹見泉石日記シリーズ】INDEXはこちら
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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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