浅田真央、スケートアメリカ、見事な優勝。フリーはあと一匙なにかが。
浅田真央。ショート、フリー、EX。どれも素晴らしかったです。
女子シングルスケーター(シニア)が与えられる時間はショート2分50秒、
フリー4分、EXおよそ3~4分とすると、
その選手の勝負所をアピールする時間は限られます。
浅田真央はショートとフリーとEXをすべてがらりと変えて、
トータルで、技術力、表現力、持ち味のすべてを生かしたプログラムを考えられていますね。
ショート「ノクターン」はこの世から少し上空を漂う風や光のよう。
おごそかで優雅で上質の光沢のある絹のヴェールをまとった妖精か天女のよう。
EX「スマイル」は等身大の日常。コスチュームも競技会用というより、パーティーに出られそうなスタイル。
何かを演じるというのではなく、23歳のおしゃれな女の子が日常で音楽を楽しみながら踊っている1シーン、
みたいな感じが素敵です。
軽いアレンジの曲調の音やリズム一つ一つに合わせて多彩な振付で踊る、ディテールが凝ったプログラムが小粋。
かがんで片足を前に伸ばすところ他、新鮮な動きもあって魅力的です。
そしてフリー「ピアノ協奏曲第二番ハ短調」は。
アスリート浅田真央のスケートへのストイックで熱い想いと
技術力(トリプルアクセルはもちろんのこと、他のすべてのジャンプも確実性、質の高さで最高レベル)
表現力(ビールマンスピンなどを含め、体の柔軟性があるからこそ生み出せる美しいポジション、
腕の動き他、つなぎのところでもみせる美しさ)
スタミナ(後半の激しいステップを足をもたつかせることなくこなせる驚異的なスタミナ。
すらりとした体つきとインタビューの時の少しほわんとした声質からは想像できない)
を十分にアピールできる素晴らしいプログラムですね。
重厚さ、情念などを感じさせる作品。
ショートが少し上空なら、フリーは地面の下に熱くうごめくマグマか、
ほとばしるいろいろなものを溶かし込み荒々しく流れる鉛色の河のよう。
3Aの転倒があっても優勝はあたりまえの素晴らしさでした。
初戦でこれだけの仕上がりというのもすごいですし、金メダルをとれるプログラムでしょう。
でも、少し物足りなさが・・・。
他の女子スケーターができないことをこなせる選手だからこそ、
幾人ものスケーターが使用したこの曲で浅田真央しかできないことをもっともっとみせてほしいと期待してしまうのです。
それは、浅田真ではなくて、この曲のアレンジと振付の問題。
この曲の大事なエッセンスを生かしきれていないと思うのです。
【ピアノ協奏曲第二番ハ短調の魅力】
多くの方がご存知のように、この曲はセルゲイ・ラフマニノフが「交響曲第1番」の不評から
精神のバランスをくずした後、創作意欲を取り戻して書きあげて復活した曲といわれています。
冒頭な重厚の鐘の和音からはじまるこの曲に私はロシア魂を感じます。
泥くさくもがく、合理性を超えた圧倒的なエネルギー。
最大の魅力は相反する二つの要素を合せ持つ、ふところの深さでしょうか。
象徴的なのは冒頭の鐘の音。両手指9本で一度にピアノのキーを叩く音は濁り、
<陰鬱で重厚で複雑で混沌>。決して明瞭な軽い和音ではありません。
だけど、続いてピアノが激しくうごめく中で、その河に浮かぶように、
管楽器が覚えやすい主題を奏でて流れます。
混沌とした濁流にたゆとう<甘美でメロディアス>な旋律。
混沌←→わかりやすいメロディー。
陰鬱←→甘美
重厚←→右手のピアノが一音一音奏でる高音のつらなりの軽やかさ(下記の楽譜の部分)
*ロシアの寒さを通り越して「痛さ」を感じるマイナス20度の冬。どんよりとした曇り空の隙間から
わずかに覗く陽の弱い光のあたたかさ。
*暗闇の中で灯す小さな一本の蝋燭の明るさ。
*絶望の中の救い。
を感じます。
この曲を色彩でたとえたら
こんなかんじ↓。
ダークな色調の中にスィートな色がちらちらっと。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
【あと一匙欲しいものは】
さて、浅田真央のフリープログラム。
<混沌、激しいエネルギー>は見事に体現されていると思います。
冒頭の手の動きや首ゆらゆらなどにこの曲の怒りや苦悩が見える気がします。
両腕を<>のように挙げて廻るところは、阿修羅のよう。
片足挙げてのツイズルほか、迫力のある凄まじいステップでこの曲の激しさやもがきが伝わります。
なにより、スピンの始まりは、音楽の盛り上がりとどんぴしゃり。
曲がどんどん高まっていくとともに、「来るぞ来るぞ、来た~」というカタルシスを感じます。
でも、この曲の持つもう一つの面、<甘美でメロディアス>という要素があまり生かされていない気がするのです。
後半ダブルアクセルからのコンビジャンプのところの次に、この楽譜部分↓が来ると期待しました。
第一楽章の真髄の一つと私が思う箇所。
右手のピアノ高音がタラララララを繰り返しながら昇っていき降りてくる、
うっとりするくらい美しいメロディーなんです。
でも、カットされ、別のメロディーとなりトリプルサルコウにつながりました。非常に残念です。
制作者の意図は推測できます。
この部分を用いてその曲調を生かすとしたら、風になびく優美なスパイラルなどがぴったり。
となると、「ノクターン」とかぶってしまうでしょう。
ショートとフリーあわせてわずか6分50秒の持ち時間の中で、
浅田真央の魅力を最大限引き出すために、ショートで披露したものは封印することにしたのかしらと。
このくだりをカットするならば、せめてダブルアクセルからのコンビ前後の、
ややゆったりやわらかなメロディーを生かしたら。
欲しい一匙。
それは、甘美さがあり、覚えやすくて真似したくなる振付です。
甘い場面があればこそ、他の重厚さも引き立つと思うのです。
荒川静香のイナ・バウアーに相当するようなものが見たいです。
荒川静香は難度を稼げなくても、どうしても入れたくてイナ・バウアーをおこなったと聞きます。
あのイナ・バウアーはとても神々しくて、この場面はこれじゃなきゃだめなの、と心の底から高らかに
滑っていることが表情からも伝わり、そして誰もが真似したくなる魅力がありました。
同じように浅田真央の代名詞になるようなものが見たいのです。
ジャンルは違いますが、AKBの「恋するフォーチュンクッキー」。
見ていると、同じように手を動かしてしまいます。
ダンスの原点に、<同じ動きをしてみたくなる>というのがあると思うのです。
音楽とぴったりとあっていて、必然を感じさせる動き。
難度は高くなくてもいいから、本人が心の底からそうしたい動き。
誰もがその振付を真似したくなるようなものがあと一匙加わったら。
混沌の中にメロディアスな甘美なものが見え隠れするピアノ協奏曲第二番だからこそ、
どこかに、極めてわかりやすい振付が加わることがふさわしいと思うのです。
前半部分も何か意表を突く、はっとする場面があと1つ加わったらとも思います。
スピンでもっと独創的なポジションとか、過去見られた片足でずっと滑り続けた振付とか。
結構ツボだったの冒頭。首をゆらゆらっとさせるところです。
難度とは関係なくても、曲調に合っているせいか、妙にツボです。
こんなツボがあとも少しあれば・・・。
順調に日々を積み、五輪の金メダルを手にしてほしい。
なおかつ、伝説に残るピアノ協奏曲に触れてみたいです。
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