浮世絵の中の雪華シリーズ(その1)国芳の猫の着物がしびれます
11月2日にもご紹介しましたが、
浮世絵師、歌川国芳(うたがわくによし)の描く猫、大好きです。
けっして、ゆるきゃらのようなラブリーさはなく、
むしろリアルで不細工だったり化け猫チックだったりするのですが、
猫のいろんなしぐさを躍動感を持って描いているところに、真の<猫好き>を感じます。
国芳の2つの魅力「猫への愛情」と「現代人にも通じるナンセンス」さを
併せ持つしびれる作品といえば、まず挙げたいのが「猫のけいこ」天保12年(1841年)頃。
こちらの絵です。
猫が着物を着て浄瑠璃の稽古をしているのですが、右側(師匠)の猫の着物の柄に注目!!!
なんと猫の足跡が模様になっているではありませんか!
2013年11月2日にご紹介した
『ねこと国芳』金子信久著(パイインターナショナル 2012)にも掲載されていますが、
『江戸猫 浮世絵 猫づくし』稲垣進一、悳俊彦著(東京書籍 2010)ではこんな解説が。
イキな師匠に浄瑠璃を習っている男猫たち。
二人の着物の藍色が朱色に映えて美しい。
けいこの二人とそれを見つめるちょっと年配の男猫。
三人の熱中ぶりがなんとも微笑ましいではありませんか。、この絵でも着物の柄が面白い。
師匠は鈴、小判、猫の足跡。弟子の浴衣の柄はフカのヒレ。
うしろの男の着物の柄は蛸の脚と猫の好物で見繕っています。
その柄をアップでご覧いただきましょう。私が便宜的に丸数字を振りました。①鈴(当時、ちりめんなどの赤い布に鈴を通したものを
猫の首に巻くのが流行っていたようです。(猫の首輪に関しては11月14日にも)
その赤い布にたくさんの鈴をつけたのがこの柄ですね。
参考 「鼠よけの猫」(国芳)②小判。もちろん「猫に小判」の諺からですね。
小判柄の着物を着ている猫は国芳のほかの作品にも登場します。③猫の足跡。かわいすぎます!!
④子安貝(私の推測)。
国芳の「猫のすゞみ」で子安貝の柄の着物を着た猫が描かれているので。
でも、なぜ猫に子安貝なのでしょう。⑤魚の骨(私の推測)。魚の骨を3つ並べたものかと。
⑥めざし(私の推測)めざしを6つ放射状に並べたのかなと。
⑦不明。
⑧不明。
しびれませんか~。この発想。
そして、私がさらにしびれるのは、
これらの模様が土井利位(どいとしつら)が描いた雪華(顕微鏡で観察してスケッチした雪の結晶)を
モチーフにしているのではと思うからです。
「え~。六弁だからといって雪の結晶ではなくて、花の咲いた様子をアレンジしたんじゃないの」
「家紋をモチーフにしたのでは」とおっしゃる方もいるかもしれません。
そのことを指摘した研究者や文献を見たことがないので、あくまでも私の推測ですが、根拠は3つ。
【1】この絵の発表年とされる天保12年(1841年)は土井利位の『雪華図説』『続雪華図説』刊行後。 【2】フォルムが土井利位の雪華に酷似している。 【3】国芳が土井利位の雪華を知っていて、実際に浮世絵に描いたことがある。 |
【1】土井利位の『雪華図説』は天保3年(1832年)、『続雪華図説』は天保11年(1840年)刊行です。
【2】古河歴史博物館の図録『雪の華』の雪華表と照らし合わせてみると。
※番号はこの図録での通し番号です。
②の小判や④の子安貝に似ているのが『続雪華図説』のR4
③の猫の足跡に似ているのが『続雪華図説』のO8
⑤の魚の骨にそっくりなのが『雪華図説』のB3
⑥のめざしは『雪華図説』のC1や『続雪華図説』のK4
⑧は柄の全貌が見えませんが、特徴は放射状に延びる6本の中心が丸になっていること。
『雪華図説』のD5に同じ特徴があります。
また、国芳はこのD5を自分の作品『清月の月』や『蚕家織子之図』で描いています
【3】国芳が土井利位の雪華を用いた作品を挙げます。
(※発表年は掲載されている本やKuniyoshi projectを参考にしました)
◆『美人子ども十二ケ月シリーズ 清月の月』天保6年(1835年)
ネットで閲覧/kuniyoshi project (ttp://www.kuniyoshiproject.com/)→
Untitled series of women in the twelve months→Clear Moon in August
本で閲覧/『国芳』鈴木重三編著(平凡社 1992)
◆『本朝水滸伝剛勇八百人一個 犬山道節忠與
(ほんちょうすいこでんごうゆうはっぴゃくにんのひとり いぬやまどうせつただとも)』
天保7年(1836年)頃。
ネットで閲覧/公的なものは未発見
本で閲覧/『八犬伝の世界』(監修服部仁/千葉市美術館、愛媛県美術館 2008)
◆『子供遊八行の内 礼(こどもあそびはっこうのうち れい)』天保11年(1840年)
ネットで閲覧/kuniyoshi project (ttp://www.kuniyoshiproject.com/)→
Miscellaneous Prints of Children Part I
→Children’s Games for the Eight Dispositions
Rei
本で閲覧/『ねこと国芳』金子信久著(パイインターナショナル 2012)
◆『雅遊五節句之内 弥生(おさなあそび ごせっくのうち やよい) 』天保11年(1840年)
ネットで閲覧/
くもん子ども浮世絵ミュージアムttp://www.kumon-ukiyoe.jp/→雅遊五節句之内 弥生
kuniyoshi project (ttp://www.kuniyoshiproject.com/)→
Children’s Games for the Five Festivals
→Yayoi
◆『蚕家織子之図(さんかしょくのず) 第九』天保11年(1840年)
ネットで閲覧/
くもん子ども浮世絵ミュージアム(ttp://www.kumon-ukiyoe.jp/)蚕家織子之図 第九〈選別調整〉
東京農工大学付属繊維博物館新版VR浮世絵展示室
(ttp://www.biblio.tuat.ac.jp/vr-museum/ukiyoe.htm)
→浮世絵リストNo.6→蚕家織子之図第九
kuniyoshi project(ttp://www.kuniyoshiproject.com/)→Weavers’ Children in the SilkwormHouse
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上記の作品をご覧いただくと、国芳が土井利位の雪華を知っていて自身の作品でモチーフに使ったことが
おわかりいただけるでしょう。
『猫のけいこ』の柄が土井利位の雪華がモチーフになっているというのは
あくまでも私の推測でしかありませんが、
国芳の発想の天衣無縫さが楽しいです。
こちらは2013.2.7のディズニーのダッフィーが着ている
洋服の柄です。雪の結晶がミッキーの形になっています。
『猫のけいこ』の猫の足跡(肉球)柄。
国芳はディズニーのような遊び心を江戸時代に発揮していたのですね。おそるべし!!
「猫のけいこ」が掲載されている『江戸猫 浮世絵 猫づくし』は、
国芳を中心に国貞の作品なども紹介されています。
『ねこと国芳』と並んで猫好きにおすすめしたい一冊です。江戸猫 浮世絵 猫づくし
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