朧月猫の草子、面白いです
国芳の猫を11月7日にご紹介しましたが、
江戸時代の浮世絵師、国芳の作品を追っているのは、
土井利位の描いた雪華を国芳がモチーフで使っているからなのですが、
またまた面白い本をみつけました。
『朧月猫の草子(おぼろづきねこのそうし)』
天保13年頃に出された本です。
私は曲亭馬琴、歌川国芳、鈴木牧之、山東京山は、
「土井利位の雪華普及委員会」のメンバーだったのではと思っています。
もちろんこんな委員会は江戸時代にないし、
彼らも別に普及させようと思ったわけではないと思うのですが、
雪華を町民にまで広めてブームを起こすキーマンになっていると思うのです。
曲亭馬琴---土井利位の『雪華図説』の写しを借りて自らも雪花図を模写する。
歌川国芳---浮世絵に雪華をモチーフとして使う
鈴木牧之---自著『北越雪譜』で土井利位の雪華を紹介。この本はベストセラーとなる。
山東京山---『北越雪譜』の柵定(加筆修正、ディレクションのようなこと)を行う。
さて、話はもとに戻して、
この『朧月猫の草子』は上にあげた国芳(画)と山東京山(作)が組んだ作品です。
この作品には土井利位の雪華は出てきませんでしたが、猫の愛くるしさが愉しめる作品でした。
11月7日のブログで、江戸時代(天保のころ)、
猫の首に、鈴をつけた赤いちりめんなどの布を巻くのが流行ったことを書きましたが、
『朧月猫の草紙』の中にこんな記述がありました。
黒より黒き毛に、雪より白い斑猫(ぶちねこ)、燃えたつ緋縮緬(ひちりめん)の首玉かけしを
美しき娘の抱きたるは、牡丹に蝶のとまりたるがごとし。
p9(初編上巻)
※首玉=首輪
拙訳で。
黒々とした毛と雪より白い毛のぶち模様の身体に
燃えるような赤い縮緬の首輪をつけた猫を
美しい娘が抱いた様子は、牡丹に蝶がとまっているようだ。
江戸時代の浮世絵で猫を抱く美人画はいくつもみかけます。
浮世絵師にとって<美人&赤い首輪の猫>は格好の題材だったのでしょう。
さてこの『朧月猫の草紙』、浮世絵とは違い線画で描かれた猫が秀逸。
線画だからこそ、現代にも通じる漫画や軽いイラスト風。
こんな仕草あるある、と猫好きがうなる仕草の描写が上手いですし、ラブリーな絵もあります。
また、山東京山の文章にも驚かされます。
こんな単語を江戸時代に使っていたの?と驚く単語が出てくるのです。
1)うんこ
2)びちびち
3)にゃんにゃん
4)ごろにゃん
ここのうちのどれでしょう。
答えは全部。
1)百姓与茂作が話に、肥(こやし)のうんこは芝居、又は、色町のうんこがよく肥にきくなり。
故に値段も高し。これは美味きもの沢山ゆゑなり。p64(二編上巻)
拙訳で。
百姓の与茂作の話では、こやしのうんこは芝居関係、色町のうんこがいいこやしとなる。
そのために値段も高い。これは彼らがおいしいものをたくさん食べているからである。
2)下痢のことをびちびちというのは火垂るの墓の節子の「びちびちやねん」で知りましたが、
江戸時代にすでに使われていたのですね
美味しきもの沢山食べたる故、びちびちの臭ひ、常にまさりたり p64(二編上巻)
たびたびのびちびちに、「これは腹を損ねたるならん」 p64(二編上巻)
3)「にやんにやん」と鳴く。 p74(二編下巻)
4)大猫が、メス猫のこまになびく様子を、
美しきこまを見て、「ごろにやん」と鳴く声に と書かれています。p81(二編下巻)
この他にもしびれる場面がいっぱい。
p57(二編上巻)では こまという猫が喜ぶ様子を、
こまが顎を掻くに鈴のからからと鳴る音も、金なればすぐれたる響きなり p57 と描写しています。
p89(二編下巻)には子猫のふくがトイレをした後、砂をかける絵が描かれています。
添えられた文章は「おやおや、ご覧じまし。小さくても足で砂をかけます」。
当たり前といえば当たり前ですが、
150年前も猫は砂にうんちやおしっこをする習性だったというのが面白いなあと思います。
いつの時代でも猫は同じような仕草をするし、
いつの時代であっても人間は猫の一瞬一瞬に同じように愛くるしさを感じてしまう。
そんなことが『朧月猫の草紙』から感じ取れます。
引用(青文字)はすべて
『朧月猫の草紙 初・二編』山東京山(さんとうきょうざん)作 歌川国芳画 林美一校訂
(河出書房新社 1985)からです。
さて、この本、図書館で借りて読んだのですが、アマゾンで売ってるかな~と調べていたらなんと
現代語訳つきで新たに発刊されることがわかりました。
しかも初編から7編まで全部網羅。しかも今月の18日に発売。
楽しみです。
おこまの大冒険〜朧月猫の草紙〜
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