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2014年1月11日 (土)

雪輪の魅力について(その2)雪輪があしらわれた装束(着物)

雪輪は室町時代ごろからみられる文様です。
枝や葉に積もった雪やぼたん雪などの雪片がモチーフと言われています。
『雪華図説新考』小林禎作著(築地書館1982)にも
桃山期の狂言衣裳に描かれた竹に積もった雪の文様が、
時代を下がって江戸後期に、”雪持ち笹”を経てしだいに”ゆきわ”へと紋章カされていた跡がよくわかる。
室町から桃山時代にかけての小袖、素襖、胴服、能や狂言衣装などに雪文様が多く見られるようになる。
そして“ゆきわ”紋の起源もこのころにあると思われる
(p53~54)
と書かれています。
枝や葉に積もった雪を描いたデザインは、今でも「雪持柳」、
「雪持笹」などの名前で知られていますし、家紋でもおなじみですね。

ところで、当時の装束などを見ると、雪輪は3つに分けられます。(あくまで私が分けてみました)
[1]雪輪(いわゆる今私たちが雪輪紋と呼んでいる、6弁の花びら状の切り込みが入ったもの)。
[2]雪輪の変形。5弁、8弁などのもの。
[3]いわゆる「雪持ち」と呼ばれるもの。葉にかぶさった雪(円形ではなくて弧の形)を描いたもの。
  その輪郭は雪輪の輪郭に似ています。

美術評論家の伊藤俊治氏は
雪はもともと豊年の兆しとして尊ばれてきました。
文様化されるのは室町時代、初めは草木に降り積もる雪持文様として能装束に使われ、
元禄時代には円形の雪輪が、清々しい印象を与える文様として夏の衣裳に染められ人気を博します。

  (歌舞伎公式総合サイト「歌舞伎美人」装い‐桜文様 より引用)
と語っています。
「歌舞伎美人」には雪持ち の紹介ページもあります。

さて、江戸時代に古河藩の殿様、土井利位は顕微鏡で雪の結晶を観察、
そのいくつものスケッチを『雪華図説』(天保3年/1832年)として出版しました。
天保6年ごろには、土井利位の描いた雪華はブームとなり、
着物の柄や菓子などにも用いられるようになりました。

土井利位が描いた雪華の中には雪輪にそっくりなものもあったため(cf.雪輪その1)、
雪華ブーム以降の人たちは、雪輪=雪の結晶と思って親しんだのかなあと思います
(あくまで私の推測です)。

というわけで、この雪輪(その2)では雪輪があしわられた着物を、
土井利位の『雪華図説』以前、具体的には室町、桃山時代から江戸中期までにしぼって
10点ご紹介します。雪輪の原形かと思える雪持ちもあわせてご紹介します。
「桃山 16世紀」など時代表記はそれぞれの所蔵館やサイトの表記に準じています。
青字はそれぞれのHPからの引用文。通し番号は私が便宜的につけたものです。

段替雪輪松花綱文様小袖
室町時代
京都染色文化協会所蔵
閲覧できるサイト
京都染織文化協会(ttp://www.fashion-kyoto.or.jp/orikyo/)→染織祭衣裳→室町時代
直接のURLはttp://www.fashion-kyoto.or.jp/orikyo/maturi/subwin/muro05.html

私メモ/雪輪の中に松文様が描かれています。

白地雪持柳扇面肩裾模様縫箔
しろじゆきもちやなぎせんめんかたすそもようぬいはく
桃山時代 16世紀
東京国立博物館所蔵

画像提供:東京国立博物館(ttp://www.tnm.jp/)
20140111yukimochiyanagi2
閲覧できるサイト
東京国立博物館内の直接のURLは
ttp://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0019045
文化遺産オンラインのサイトではttp://bunka.nii.ac.jp/SearchDetail.do?heritageId=195586#
e国宝(ttp://www.emuseum.jp/)→白地雪持柳扇面肩裾模様縫箔で検索。

白練緯(ねりぬき)地に刺繍を用いて雪持柳と扇の地紙をおおらかに表わし、間地に金摺箔を施す。

私メモ/シックな色合いの中で、葉の緑と雪の白がリズミカルに調和しています。

紅地雪持柳桐文平絹胴服
(べにじゆきもちやなぎとうもんへいけんどうふく)
桃山時代
上杉神社所蔵
閲覧できるサイト
山形の宝ナビ(ttp://www.pref.yamagata.jp/cgi-bin/yamagata-takara/)
→紅地雪持柳桐文平絹胴服で検索
直接のURLはttp://www.pref.yamagata.jp/cgi-bin/yamagata-takara/?m=detail&id=1073

上杉謙信・景勝二代が着用したと伝えられている。

私メモ/描かれているのは柳に雪がかぶさっている「雪持柳」なので円形ではなく
完全な雪輪とは言えませんが、 雪輪の曲線を感じさせます。
紅色の着物がとても華やか。男性がこんな色を身につけたなんて!と驚かされます。

紅地雪持ち橘文様唐織小袖
16世紀
京都国立博物館所蔵
閲覧できるサイト
e国宝(ttp://www.emuseum.jp/)→紅地雪持ち橘文様唐織小袖で検索。

私メモ/雪持ちの橘と菱形の花を組み合わせた文様の組み合わせ。
華やかな紅の地に雪の白がまぶしいです。すごく美しいです!!!
注目したいのは、橘の葉に積もった雪とは別に八弁の白いものが描かれていること。
花なのか、雪を表したものなのか知りたいところです。

斜縞銀杏葉雪輪散らし模様胴服
桃山時代
東京国立博物館所蔵

画像提供:東京国立博物館(ttp://www.tnm.jp/)
20140111yukiwa_ichobayukiwachirashi

閲覧できるサイト
東京国立博物館内の直接のURLはttp://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0016879
文化遺産オンラインのサイトではttp://bunka.nii.ac.jp/SearchDetail.do?heritageId=156651

白水浅葱、紫の斜縞地に銀杏葉と雪輪文を絞り散らす。

私メモ/吉岡隼人が徳川家康より拝領したものとのこと。
家紋には銀杏紋がありますが、銀杏紋の縁、つまり銀杏の葉の輪郭と雪輪の輪郭は
とてもよく似ているんです。
この銀杏葉雪輪散らしの胴服の柄を考えた人もそれをわかっていたのかしらと。
白い雪輪をまるで銀杏の影のように重ねています。
紫地のところでは白い雪輪の輪郭が鮮やかで美しいですし、
まわりの白い丸もまるで降る雪のような動きが感じられます。
紫、浅黄色の組み合わせもモダン。とてもクール!で卓越したセンスを感じます。

根芹に雪輪小紋袷
ねぜりにゆきのわこもんあわせ
桃山~江戸時代 16~17世紀
徳川美術館所蔵(おそらく)
閲覧できるサイト
徳川美術館(ttp://www.tokugawa-art-museum.jp/)→企画展案内→過去の企画展→平成19年度→”水”七変化
直接のURLはttp://www.tokugawa-art-museum.jp/planning/h19/02/index.html
円に切り込みを入れた形は「雪輪」と呼ばれ、しばしば植物と組み合わされて、
家紋や工芸品の文様として用いられてきた。
新春の雪を豊年の吉兆として神前に供える雪祭りもあり、
雪は豊穣への願いが込められたモチーフであったと考えられる。
本作品は徳川家康着用の衣服で、雪輪とたくましさを感じさせる根つきの芹の文様は、
あたかも自然の生命力を身にまとうかのようなデザインである。


私メモ/なんと、徳川家康公着用のものです!雪輪のギザギザの切れ込みが美しいです。

緑地雪持柳桐菊藤梅片身替模様
桃山時代 17世紀
東京国立博物館所蔵

画像提供:東京国立博物館(ttp://www.tnm.jp/)
20140111yukimochiyanagikirifuji
閲覧できるサイト
東京国立博物館内の直接のURLは
ttp://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0071754

雪持ちのカーブが雪輪を思わせます。
注目したいのは8弁の白いもの。花ではなくて雪を描いたものだとしたら、
ぼたん雪を表したのか、それとも肉眼で見た雪の結晶のスケッチだったのか知りたいところです。

紅・白段雪輪に蒲公英文縫箔
べに・しろだんゆきわにたんぽぽもんぬいはく
(※下記URLでは摺箔と表示されていますが、複数の年度のところで縫箔となっているので縫箔としました)
江戸時代17世紀
徳川黎明会所蔵
閲覧できるサイト
徳川美術館(ttp://www.tokugawa-art-museum.jp/)→企画展案内→過去の企画展→平成23年度→尾張徳川家の能
直接のURLは(ttp://www.tokugawa-art-museum.jp/planning/h23/01/obj05.html)

白繻子地を白と紅の段に絞り分けて染め、その上に雷文と亀甲文を摺箔し、
蒲公英と雪輪が繍い出されている。
蒲公英は、春の七草の一つで、早春の寒さを表すため、しばしば雪輪と対にして用いられる。
雪の結晶を意匠化した雪輪文の中には、桜・松に藤・竜胆・萩などの四季の花が配され、
その一年の豊かさを予祝するかのような意匠となっている。


私メモ/蒲公英はたんぽぽのこと。雪輪の中に細やかに花々が描かれていて美しいです。
地は赤と白の市松模様調なのですが、とても凝っています。
赤地に描かれた雪輪の輪郭は白。白地に描かれた雪輪の輪郭は赤となっています。

黒茶麻地扇面雪輪手筥秋草模様染・繍帷子
江戸時代 17世紀
東京国立博物館所蔵

画像提供:東京国立博物館(ttp://www.tnm.jp/)
20140111yukiwaakikusa
閲覧できるサイト
東京国立博物館内の直接のURLはttp://webarchives.tnm.jp/imgsearch/show/C0006217


私メモ/などでは明らかに雪という具象を描いていますが、この着物では雪輪を白く描いているわけではなく、
雪景色をイメージさせることはまったく狙っていないのが感じられます。
「雪輪」というフォルムが自然の風景を表現することから「デザイン」として機能していることがうかがえます。

(2014.2.2追記。この雪輪の内側は匹田鹿の子(ひったかのこ)という文様になっていますが、
この柄は当時、大変贅沢な柄だったようです。
参考文献。『寛文期を中心とした遊女の服飾--「色道大鏡」の世界--』
切畑健氏。
切畑氏はの柄についてこのように書いています。
「匹田鹿子は型を用いたようによくそろって、しかも大粒で新様を表すようである」。
収録文献『近世風俗図譜 7 遊女』小学館/1984。
※『色道大鏡』は江戸時代初期に出された遊女にまつわるさまざまなことをまとめた遊里文化の辞典ともいえる本です)

縫箔 白地雪輪に草花麻葉文様
江戸時代 18世紀
京都国立博物館所蔵

閲覧できるサイト
京都国立博物館所蔵品データベース(ttp://www.kyohaku.go.jp/jp/syuzou/)
→縫箔 白地雪輪に草花麻葉文様で検索

私メモ/雪輪は6弁ではなくて12の不規則な切れ込みになっています。
-----------------------
以上、10点ご紹介しました。ぜひ日本がはぐくんだ、雪モチーフの美しい「意匠」をご覧ください。

(2014.8.13追記)
国立歴史民俗博物館所蔵の美しい「雪持蘭模様小袖」についてはこちらに。


【雪の結晶とアート】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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