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2014年1月10日 (金)

雪輪の魅力について(その1)何を図案化したのか

雪輪(ユキワ)ってご存知ですか。

雪の結晶好きの私にとって、雪輪はたまらない文様の一つです。

こちらが「雪輪」です。
輪郭だけで描いたものを雪輪、
中を白くベタで塗りつぶしたものを「雪」と呼び分けることもあるようです。
20140110yuki

何を現わしているのでしょうか。3つの説があります。
①雪の結晶
②枝や葉に積もった雪(冠雪/かんせつ)
③ぼたん雪など降る雪の雪片

詳しく見ていきましょう。青字は文献からの引用部分です。

辞書類はおおむね①の雪の結晶説ですね。
広辞苑(第六版)【雪輪】 紋章の外郭の輪の一種。雪片の六角形を円くかたどったもの。
大辞泉【雪輪】文様・紋所の名。六角形の雪の結晶を円形に表したもの。

①ではなく、②③をおっしゃっているのは雪の結晶研究の第一人者である高橋喜平氏、小林禎作氏です。

「ゆきわ」は雪の結晶そのものではなく、雪片の降下か、積雪の景観からデザインされたものと推定していた。 
(『雪の文様』高橋喜平・高橋雪人著/北海道大学図書刊行会1989より)
木の枝などに積もった雪の姿と、ぼたん雪の丸い形とのふたつにみなもとを発しながら、
いつか混然として多様な雪輪文様に変わって行った
 
(『雪華図説新考』小林禎作著/築地書館1982より)

高橋・小林氏の根拠の一つは、雪輪の柄が室町・桃山時代に見られる(cf.雪輪その2)からです。

顕微鏡が日本にもたらされ、雪の結晶の姿を細かに見ることができるようになったのが江戸時代になってから。
(cf.江戸時代の顕微鏡シリーズ
ですので、顕微鏡のない室町・桃山時代に雪の結晶を観察して図案化したとは確かに考えづらいですね。

さて、中国で、雪が六出(六弁の花のような形)であると最初に述べた文献は紀元前の『韓詩外伝』と言われています。
(cf.韓嬰
この文献が日本に紹介されるのは平安時代。
ですので、一部の知識人層だけかもしれませんが、
平安時代から[雪=六花の形]ということは知られてはじめていたのです。

また、万葉集の頃から、雪を花に見立て、花を雪に見立てる和歌が詠まれてきました。

つまり、私は
雪を花に見立てる感性を持った日本人が、中国からの<雪=六花>の知識も得て、
ぼたん雪や枝葉に積もった雪を六片の花ように感じて描き、雪輪文様ができあがった。

と思うのです。

ですが、これはあくまで江戸時代の天保までの話です。
というのは、天保3年(1832年)に土井利位が顕微鏡で観察した雪の結晶スケッチ集『雪華図説』を発表したからです。
そこには「雪輪」とまったく同じフォルムのスケッチ図がありました。

↑こちらが土井利位雪華表(土井利位の描いた雪華を便宜的に通し番号を付けた表)のE2。
古河歴史博物館発行の図録『雪の華』p6~7より)
E2は雪輪にそっくりですね。

Sdoi_e2n
土井利位の描いた雪華のいくつかは、天保8年(1837年)に出版され、当時ベストセラーになった『北越雪譜』鈴木牧之著に、
験微鏡(むしめがね)を以て雪状を審(つまびらか)に視たる図
として紹介されました。
その中にはE2もありました。

20140110hokuetsuseppu_yukiwa

↑「世に雪輪といふハ是なり(世間で雪輪と言っているのはこれである)のキャプションつきです。

この頃から、雪輪=顕微鏡で見た雪の結晶の形の一種 と認識されていったのかもしれません。

となると、

雪輪は何を図案化したのか。①②③どれも正解。
①雪の結晶を図案化したもの←『雪華図説』出版後
②枝や葉に積もった雪(冠雪/かんせつ)←『雪華図説』出版以前
③降る雪、ぼたん雪を図案化したもの)←『雪華図説』出版以前

と言えるかもしれません。
******************************
が、ここでもう一度①を考えたいと思います。
『雪華図説』出版以前の人々は雪の結晶の形を知らなかったのでしょうか。
[雪は六花]と聞いたとき、小さな雪の結晶のことではなくて雪片(ぼたん雪のようなかたまり)が六花と思ったのでしょうか。

私は昔、雪の結晶は雪国の寒いところでなければ見えない、
顕微鏡で覗かなければ見えないと思っていました。
でも、ロシアに行った時、赤い手袋に落ちた六弁の花を見て、
雪の結晶が肉眼でも見えることを知りました。
そして、2011年に横浜のような温暖なところでさえ、
雪の結晶が肉眼で見えることを知りました。

ですので、『雪華図説』出版以前の顕微鏡を持たない人たち、
雪国ではない江戸や京都の人でも、雪の結晶を肉眼で見てそのフォルムに気づいた人がいたと思うのです。

これは私が横浜で撮った雪の結晶です。
輪郭のギザギザっぷりが雪輪そっくりだと思いませんか。
Snowflake1102111525
おそらく、もっと精巧なフォルムの雪の結晶がとけかけて
このような輪郭を残すのみになったのでしょう。

↓この画像から毛糸の一鎖の幅が約2ミリであることがわかります。
となるとこの雪輪の形の結晶は直径2ミリ強。
20140110snowflake110211monosashi

桃山時代の人も肉眼で十分フォルムを知覚できる大きさでしょう。

・顕微鏡がなくても、肉眼で見ることができる。
・雪国ではくても雪の結晶は見える。
・そして雪の結晶の中にはこんな風に雪輪のような形を残すものもある。

だからこそ、室町、桃山時代にこの柄を使用した人の中には「雪の結晶の図案化」のつもりだった人もいると思うのです。

つまり、雪輪は何を図案化したのか。①②③どれも正解。
①雪の結晶を図案化したもの←『雪華図説』出版後。ただし出版以前もありえる。

と言えるかもしれません。

ともあれ、雪輪はシンプルですが、優美。完成されたデザインだと思います。

雪輪(その2)では、雪輪があしらわれた着物、工芸品などのご紹介を。

【雪の結晶とアート】INDEXはこちら
雪の結晶全般はこちら

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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