江戸時代の屏風に描かれた雪輪
浮世絵に描かれた雪輪シリーズ。今回は浮世絵ではなく、江戸時代初期に描かれた屏風をご紹介します。
(所蔵館のリンクが切れましたら、各所蔵館トップページからお訪ねください)
画像はすべて『近世風俗図譜 第7巻 遊女』(小学館 1984)からの転載です。
取り上げたいところだけトリミングしてアップしています。
紙本金地著色風俗図 通称「彦根屏風」
江戸時代 初期寛永期(1624~1644年)
彦根城博物館所蔵
閲覧できるサイト
彦根城博物館
私メモ/国宝。彦根藩井伊家に伝わったことから「彦根屏風」と呼ばれています。
六曲一隻の第2扇(右から2番目の面)の犬を連れた女性の着物が雪輪に鹿子模様となっています。
見返り美人並みに、女性のポーズ(動き)が優美にみえます。
そして、この絵で驚くのは描かれている男性(画像右)。
刀にもたれるといういかにもかっこつけたポーズ、ポニーテールのように束ねた髪、着物の重ね着具合がトッポくて今っぽいです。
渋谷あたりにこんな男性がいそうと思いませんか。
『近世風俗図譜 第7巻 遊女』のp19では
この男性は下記のように解説されています。
「面白の恋のざれ言」-江戸時代初期の画中にのみ見られる、黒の袖無し。
伊達な若衆の洒落着か、歌舞伎舞台を抜け出たような。
雪輪の着物の女性に関しては
大雪輪は匹田鹿子で霞小紋の摺箔重ね。
雪輪はいかにも寛永のころの形式
と記されています。
『日本ビジュアル生活史 江戸のきものと衣生活』丸山伸彦著(小学館 2007)
は興味深いです。p10では彦根屏風のこの二人が掲載され、
江戸時代のファッションの流行の担い手は、遊女とかぶき者、そして歌舞伎役者。
当初、彼らの尋常ならざる装いを白眼視していた常識的人々も、徐々に彼らの異装を取り込み、流行を形づくっていった。
と書かれています。また、
この遊女の着物に関しては鹿子絞りの大柄の雪輪を散らした小袖を着ている。
(この2人の衣裳は)ともに当時の異装に属する装い
とも書かれています。
日本ビジュアル生活史 江戸のきものと衣生活
婦女遊楽図屏風 通称「松浦屏風」
江戸時代 寛永期ごろ ※慶長期説あり
大和文華館所蔵
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私メモ/国宝。九州の平戸藩松浦家に伝えられていたことから松浦屏風といわれています。
2か所に雪輪が描かれています。
①六曲一双の左隻第1、2扇の女性の打掛に雪輪が。
『近世風俗図譜 第7巻 遊女』(小学館 1984)p37には鹿子の重ね雪輪の伊達紋と書かれています。
②左隻第3、4扇では文使いの暗い生地の着物に黒の雪輪が。
暗色☓暗色がcool !!
『近世風俗図譜 第7巻 遊女』p38には暗色の雪輪文様が古式に表されている、と書かれています。
美術評論家であり、この屏風絵を所蔵する大和文華館初代館長の矢代幸雄氏は
『松浦屏風』矢代幸雄 山口蓬春(美術出版社 1959)の中で
松浦屏風の制作年代を寛永より早い江戸時代初期の慶長(1596年~1615年)と指摘しています。
画中18人の衣装の時代考証によるものです。
桜狩遊楽図
江戸時代 寛永期(1624~1644年)
ブルックリン美術館所蔵
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作品タイトルは「Cherry Blossom Viewing Picnic」
私メモ/四曲1双の右隻第3扇で女性の薄い水色の着物に雪輪が。
緑色の鹿子だけではなく白ベタの雪輪も描かれています。
『近世風俗図譜 第7巻 遊女』p87に
萌葱鹿子の雪輪文様は、ほぼ等間隔に角の出た形式で、この時期の特色がうかがえる
と書かれています。
男女遊楽図屏風
江戸時代初期か
細見美術館所蔵
閲覧できるサイト
細見美術館の2008年特別展「京と江戸 名所遊楽の世界」リリース
(ttp://www.emuseum.or.jp/press/img/miyako_edo.pdf)
私メモ/第2扇の文を持つ遊女の着物が匹田鹿子の雪輪柄になっています。
配色が非常に粋です。
の彦根屏風の女性の着物ととてもよく似ていますね。
この着物が今もあったら、着てみたいです。
中に見えるのは半襟でしょうか。雪輪模様に使われている赤を持ってきているところもおしゃれ。
------匹田鹿子について------
匹田鹿子の雪輪柄は今回ご紹介した屏風絵だけではなく、江戸時代の浮世絵にもよく見られます。
匹田鹿子は江戸初期、とても贅沢だったようです。
『近世風俗図譜 第7巻 遊女』掲載の「寛文期を中心とした遊女の服飾-『色道大鏡』の世界」切畑健が興味深いです。
『色道大鏡』(畠山箕山著)に記載されている江戸時代初期の遊女たちの衣装の記述を例にしながら、
「当時は紋染めと刺繍が全盛期であったが、むしろ匹田鹿子が贅の限りと考えられていた」
と当時、匹田鹿子が尊重されていたことを指摘されています。
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