雪の結晶番外編 「医は仁術」を観に行きました
国立科学博物館(上野)で開催中の特別展「医は仁術」に行ってきました!
ずっと気になっていたのです。
江戸時代の古河藩の殿様、土井利位(どいとしつら)は顕微鏡で雪の結晶を観察し、
スケッチ集とも言える『雪華図説(せっかずせつ)』『続雪華図説』を著しました。
その雪華図説に魅せられ、土井利位のことを調べているのですが、
「彼はどんな顕微鏡で観察したんだろう」と思ったところから、
江戸時代の顕微鏡について調べたのが一昨年のことでした。
(よろしかったら、江戸時代の顕微鏡シリーズをご覧ください)
いろんな資料に行きあたるにつれ、江戸時代の科学力、当時の人の志の高さに感服してきました。
ですので、江戸の医から未来を眺める展覧会「医は仁術」に興味があったのです。
面白かったです~。
(以下、場内はフラッシュを使用しなければ撮影OK。
個人ブログに掲載OKということでしたので、撮った画像も貼らせていただきます)
人間の知恵は凄い!
西洋の医学に触れ、それを貪欲に吸収する向学心、頭が下がります。
また、知識をアレンジする能力は素晴らしいですね。
たとえば、お産に関するコーナーでは、ルーブ状のものがついた器具が展示されていました。
逆子の胎児を取り上げる時に具合がいいそうで、当時の日本人が思いついて作ったものです。
シーボルトもそのアイデアを称賛したのだとか。
展示で特に印象的だったのは人体の解剖図です。何点も展示されていました。
圧巻です。
当時の犯罪者などを解剖(当時の言葉では腑分け)し、器官、筋肉などを克明に絵巻物に遺しているのです。
たとえば、最初、切断された首があり、その脇に解剖の検体となった罪人の名前が記されているものもあります。
絵巻物の右から左へ、解剖の様子の進行とともにと描かれています。筋肉、内臓の様子などが克明に写生されています。
当時、解剖に携わった人がどんな風におこなっているのかを示した絵もあります。
皮を剥ぎ、臓器等が剥き出しになった人体を吊るしたのでしょう。
その前面側からと背面側からを描いた絵もありました。
こんな風に文字で書くと、グロテスク、猟奇的と思われるかもしれません。
でも、絵を見ていると
当時の人の真摯な思いがひしひしと伝わってくるのです。
「人体の仕組みを知りたい」という純粋な情熱、
そして、仕組みを知ることで医術を発達させたい、人を救いたいという真摯な想いが。
眼球、舌etc. を単体で描いたスケッチにも、一つ一つを粗末にせずきちんと描き残そうと
「解剖させていただいた」人体への尊敬の念を感じました。
解剖術もどんどん進化。
肺に空気を送ったり、腎臓に墨を流して、血液と尿に分かれる様子を観察などしたそうで、
その様子を描写した絵もありました。
解剖術の進化具合にも、当時の人の意識の高さがみてとれます。
彼らを動かす根幹はやはり「仁」の気持ちなのでしょう。
その思いがなくて、人の生死にかかわり、死者の体にメスを入れるのはとても不遜なこと。
医者だけではなく、支えるまわりの人も「仁」を感じます。
たとえば、華岡青洲の妻。夫による麻酔薬の実験台になり、副作用で失明しながらもその研究に貢献しました。
江戸時代の彼らの「仁」は、「まわりの人を救いたい」ということだけではなく、
未来の人たちにも役立ちたいという思いもあったのでしょう。
「自分たちが礎となって、医学を一歩進めれば、それが次の世代に役に立つ。
子供のまたその子供の・・・」。
彼らは「仁」のまなざしは、子供の子供の子供の子供の子供ぐらいである現代の私たちにまで向けられていたのだと感じました。
さて、この特別展に行ったのは、江戸時代の顕微鏡について調べたことがきっかけと書きましたが、
江戸時代の顕微鏡シリーズで、名前を挙げた顕微鏡保有者、観察者がたくさん、展示に登場しました。
それだけ、顕微鏡は医学、科学の重要なアイテムなのでしょう。
だからこそ、医者でも科学者でもなく殿様、土井利位侯が顕微鏡を愛用した。
しかも観察対象は雪の結晶、というのが稀有な位置づけであることをあらためて感じました。
この特別展では個人蔵の顕微鏡が展示されていました。
木箱とともに。
風格がありました。フォルムが美しいです。
↑木箱には「西洋顕微鏡(微は旧字)」と書かれています。
人形人参。
この人の形、結構、私のツボです。
本草学、経絡などに関する展示もあり。
日本は中国伝来の東洋医学と西洋医学の優れたところを取り入れることができた恵まれた国なのですね。
原羊遊斎作の薬箱もありました。
工芸品のような美しさ!
原羊遊斎といえば、土井利位の雪華をあしらった美しい蒔絵印籠も手がけています。
古河歴史博物館のHPの
http://culture.city.ibaraki-koga.lg.jp/rekihaku/sekka2009/4-2.htmで
その画像をご覧いただけます。
「医と仁術展」では、鉄拳による8分のパラパラ映像作品もよかったです。
ネタバレになるのでこまかなことは割愛しますが、 本棚が映る場面にも注目。
医学書の中に「こんな○○は××だ」というタイトルがまぎれているのです。
これから行かれる方はぜひチェックしてみてくださいね。
国立科学博物館の日本館の顕微鏡展示に関してはこちらに。
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