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2014年8月15日 (金)

加賀前田侯の氷献上他、雪で涼をとることもあった江戸時代の江戸の町の人たち

連日暑い日が続いていますね。

でも、現代の私たちは、クーラーのあるところに逃げ込めます。
冷蔵庫を開ければ冷たい飲み物が、冷凍庫を開ければ、アイスクリームや氷があってかき氷も楽しめます。
涼をとる方法がいっぱいあります。

ですが江戸時代の人たち(もちろん江戸時代以外も)は大変でしたよね。
エアコンも冷蔵庫もない。

でも江戸時代の江戸の町の人たちも夏に「氷」や「雪」で涼を取ることもあったのです。
ごく一部の人、また庶民にとってはごくまれな時に限られるかもしれませんが。
加賀の前田候は旧暦の6月1日に将軍家に氷の献上をおこなっていたようです。

このことは、
江戸の正月から12月までの歳事記を綴った『東都歳事記』斉藤月岑(げっしん)著の6月の項に書かれています。
※以下、引用部分は青文字。

 

ネットで閲覧/早稲田古典籍総合データベース
(ttp://www.wul.waseda.ac.jp/kotenseki/)で閲覧可能。
トップページ→東都歳事記で検索
→請求記号:ヲ06_03375のNo.3のHTML →No.14


リンク切れになるかもしれませんが直接のURLはttp://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/wo06/wo06_03375/wo06_03375_0003/wo06_03375_0003.html
のNo.14

本で閲覧/『東都歳時記 2』斉藤月岑著 朝倉治彦校注(平凡社 東洋文庫 1971)

東都歳事記 (2) (東洋文庫 (177))

六月の朔日(ついたち)の項にこう記されています。

氷室御祝儀(賜氷の節) 
加州侯御藩邸に氷室ありて今日氷献上あり。
町屋にても、旧年寒水を以て製したる餅を食して、これに比らふ。
 

 

冷凍庫がない江戸時代でも、加賀からはるばる江戸へ雪を運んだり、氷室をつくって保存することが可能だったのですね。

氷献上(氷といっても雪ですが)について詳しいのは下記の2つです。

 


中島満氏による「お氷さまと富士参り」
(ttp://www.manabook.jp/nhk-koorinohanasi.html)

竹井巌氏による論文『金沢「氷室」考』
ネットで閲覧/金沢「氷室」考で検索
本で閲覧/北陸大学紀要 2010年 第34号

両資料ともとても興味深く、
この氷の献上について触れている文献を紹介されていますが、
氷献上についての文献が少ないことを語っていらっしゃいます。


ところで、旧暦の6月1日といえば今年2014年の暦だと6月27日にあたります。
それなのに、なぜ私が今日この記事をアップしたのか。

それは、江戸のことを書いている本をなにげなく手に取ったところ、
氷献上の様子がわかるあらたな資料をみつけたからです。

 

『江戸東京実見画録』長谷川渓石画(岩波書店 2014)

江戸東京実見画録 (岩波文庫)

江戸時代に生まれ、歌川国芳の弟子でもあった渓石が
幕末~明治に体験したあれこれを
絵と文で記した本です。
進士 慶幹氏、花咲 一男氏による
翻刻と解説があるのでわかりやすいです。

20140815yukikubari
p126~に「暑中の雪くばり」なるものが出てきます。


暑中の雪くばりは、売物に非ずして、松平加賀守より献上、
其他に出せしものの分配を受けるものなれば、
夫(それ)からそれへの分配にて、
是を持歩く者は、雪を抱て汗をかく始末なり。
此雪は前田侯の下屋敷にて、毎年かこい置といふ。


以下解説

本郷の赤門で有名な加賀前田侯から、
六月一日(陰暦)に将軍家に氷献上が行われる。
封地の金沢からとりよせた雪を、
本郷の氷室(板橋の下屋敷とも云う)に貯蔵していたもので、
将軍、幕閣の要人には大きな塊が行きわたるが、
中以下の人々には、ほんのおしるし程度のものしか行き渡らないが、
暑気払いのおまじないとして貴重品扱いにされたと云う。
「唐人の肝をば夏の雪でけし」と云う句があるから、
石町の外人宿、長崎屋の紅毛人にも贈ったものらしい。

前田家以外、駿河の富士山の氷も献上された。
「富士さんをぶつかいて来る御献上」とか、
「まてしばし無いは駿河の御献上」などと詠まれている。
オガ屑や藁で熱気を防いで運ぶが、
暑い最中だから「氷室荷解けば半分は水」「
御献上来る内三分の一になり」であるわけである。
この富士山の氷は、八丁堀の同心衆にまで行きわたったと云う。


どんどん解けてしまうにしても
冬にしかみられない白い雪のかたまりを夏に見ることができる。
貴重品でおまじない扱いされたというのもわかりますね。

画像は『江戸東京実見画録』(岩波文庫)より
「暑中の雪くばり」


雪が盛られている様子が描かれていますね。溶けないように走っているのでしょう。

 

さて、もう一つ、興味深い浮世絵を発見しました。

歌川国芳の「逢身八懐 湯しま暮雪」(個人蔵)です。

 

女性が桃がいっぱい盛った器を手にしているのですが、
その桃の上に白くうずたかく雪が積もっているのです。
背景には赤門でおなじみの前田侯の屋敷らしきものも描かれています。
女性の着物の柄は朝顔。
また手にした器の柄もブルーウイロー系の山水画で
「涼」が伝わってくる魅力的な絵です。

本で閲覧/
『浮世絵で見る江戸の食卓』林綾野著(美術出版社 2014)
浮世絵に見る 江戸の食卓


ネットで閲覧/主なところを2つご紹介
●長崎歴文化博物館での「歌川国芳展」のプレスリリースttp://www.nmhc.jp/pressrelease/pdf/2013/0627no17.pdf
●ARTS FIELD TOKYO(ttp://artsfield.jp/)
→講師リスト→林綾野
直接のURLはttp://artsfield.jp/professor/000209.html

「逢身八懐 湯しま暮雪」は
ダイナミックに盛られた雪に思わずゴクリとなる、
本当に魅力的な絵なのでぜひご覧になってみてくださいね。

 

江戸の庶民たちには簡単に雪も氷もまわらなかったのでしょう。
ですが、上記の『東都歳事記』に
旧年寒水を以て製したる餅を食し」とあるように食で楽しむ工夫がありました。

また、日本人ならではの感覚だと思うのですが、
土井利位が『雪華図説』を天保時代に発表してからは、雪の結晶柄の浴衣も流行りました。

というわけで、

「雪」や「氷」を触れる。食べる。着る。で江戸の人たちは涼をとっていたのです。

海外で雪の結晶といえばクリスマス時期のオーナメントやセーターの柄に使うなど、「冬」に使うのが当たり前。
<涼のために雪の結晶を夏に使う>。
当時の人たちのこの発想は現代の私たちよりぶっ飛んでいますね。

【雪の結晶の文化】INDEXはこちら
雪の結晶INDEX(全般)はこちら

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emi

  • プラネタリウムでのヒーリング番組制作に携わった後、現在は 土井利位侯の「雪華図説」をライフワークとして調べ中の図書館LOVER。月に魅せられ、毎日、月撮り。月の満ち欠けカレンダー(グリーティングライフ社)のコラムも担当。              興味対象:江戸時代の雪月花、ガガーリン他。最近は、鳥にも興味を持ち始め、「花鳥風月」もテリトリーとなっています。   コンタクト:各記事のコメント欄をご利用くださいませ。コメントは私の承認後、ブログ内に反映される仕様にしています。公表を希望されない方はその旨をコメント内に明記くださいますようお願いいたします。
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