雪の結晶番外編/滝沢路の日記シリーズ(その11)路を題材にした作品
江戸時代の市井の女性ではあるけれど、口述筆記などで晩年の馬琴を助け、
不朽の名作「南総里見八犬伝」が未完とならずに世に出るサポートをした滝沢路(みち)。
馬琴のあとを継いで書き続けた日記で私を魅了した路。
ではありますが、世間的にはほとんど知られていません。
でも、路を題材にした本もあります。
3 冊ご紹介します。
(1)『江戸の明け暮れ』森田誠吾著(新潮社 1992)
江戸の明け暮れ
ブックデータベースより。
眼疾を負いながらも、名作『南総里見八犬伝』を著した曲亭馬琴。
その完成のかげに、眼となり、手となって、支えた息子の嫁・路女がいた。
馬琴の家を通して描く江戸の暮らし、江戸事情。
森田氏が路に興味を持ったきっかけは、馬琴の日記の記述のようです。
文政11年11月6日に嫁いできて日の浅い路が
金二分を夫に用立ててもらいながらその使い道を明かさなかったことが記載されています。
お路のこと 金子入用のむね 宗伯へ申すにつき 同人より金二分 これを遣わす
右につき 予 子細 相糺(ただ)し候えども 分明ならず
この度の義は格別 以来 右ようの事これあり候わば
紀国橋 里へかけ合いに及ぶべきむね きびしくいましめおく
森田氏はこの二分の使い道が明かされていないかと馬琴や路の日記を探ります。
その過程で、馬琴家族のさまざまなことを読み解いています。
(宗伯と路の夫婦のぎくしゃく。下女の入れ替わりの激しさから、路が背負う家事の負担、
「嫁」である路が家庭内で信頼を得ていく様子、娘さちの最初の夫にまつわる気苦労など)
猫の仁助も登場します。
日記のちょっとした記述から彼らの生活をあぶりだす様子がとても興味深いです。
また、路の人情の篤さ、それでも裏切られてしまう悔しさ、
それでもまた尽くす女性であったことを明らかにしています。
森田氏は、路が二分をもらった6日前に、
尽くしてくれた下女の「かね」の子が亡くなっていたことから
このかねのために用立てたのではないか、と推測しています。
残念なのは、この本が執筆されたのが、路女日記の下巻の出版前だったこと。
下巻の発行前に亡くなられているのですが、
もし下巻をご覧になれていたら路の人物像をさらに描きだしてくれたのにと思います。
路に関する項の最後を、森田氏はこうしめくくっています。
百四十年の昔、江戸の下町に生い育ちながら、やがて一代の作者・曲亭馬琴を扶けるまでに成熟し、
その遺志に従って家を守った健気な一人の女人、
法名・操誉 順節 路霜大姉の墓は、小石川台地と小日向台地を分ける茗荷谷の深光寺に在る。 (p171)
(2) 『馬琴の嫁』 群ようこ著(講談社 2009)
馬琴の嫁 (講談社文庫)
ブックデータベースより。
人気戯作者、瀧澤馬琴の一人息子に嫁入りしたてつ。
結婚早々みちの改名させられ、病弱な夫と癇性持ちの姑、
そして何事にも厳格な舅に苦労させられながらも、
持ち前の明るさと芯の強さで、次第に瀧澤家になくてはならない存在になっていく。
のちに「八犬伝」の代筆を務めるまでになる、馬琴の嫁の奮闘記。
路に関する資料は馬琴や路の日記ぐらいで少ないのですが、
こんな会話をしてこんなことを想っていたはず、
というのを森田氏と同じように遺された資料から読み解き、描かれた作品です。
真偽はおいといて、路の日記を先に読んでおくと、
このくだりを活かして群さんが想像をふくらませたんだということがわかって面白いです。
ひとつだけ違うのではと思ったのは猫の仁助が路の最期を看取るシーン。
私自身が日記を追ったところによると、
仁助は路が亡くなる随分前に姿を消してその後登場しないので、
路よりも先に死んでいるのかなと思うからです。
路の晩年~最期の様子がわかる『瀧澤路女日記』下巻が出版物として世に出されたのは2013年。
ですので、群さんは嘉永6年までの日記(2001年に刊行)を読んで、
それ以降の晩年は想像を膨らませて執筆されたのかしらと思いました。
(3)『ゆすらうめ 江戸恋愛慕情』梓澤要著(光文社 2009)
ゆすらうめ―江戸恋愛慕情 (光文社時代小説文庫)
ブックデータベースより。
路は夫に先立たれ、二人の子供と舅である滝沢馬琴と暮らしている。
目の見えない馬琴は『南総里見八犬伝』の口述筆記を路にさせていた。
ある日馬琴の古くからの知人、幸右衛門が訪ねて来た。
庭で熟していたゆすらうめの実を供すると、
幸右衛門は本所にあった小料理屋での出来事を語り出すのだった(「ゆすらうめの家」)。
江戸に生きる女たちの恋愛を描いた連作短編集。
この作品は口述筆記で馬琴を助ける路の設定を使いながら、
そのあとはスピンオフのような作品。
路のまわりの架空の江戸の人物が次々登場するオムニバス作品です。
江戸の町で暮らす人々の日常を描いた時代小説といえるでしょう。
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路の日記がすべて刊行されたのが2013年。
それ以降に出された作品はまだありません。
路の日記上下巻を受けて、あらためて、路の生きざまが作品化されたらいいな~と思います。
映像にするとしたら、イメージは檀れいでしょうか。
(その10)にもあるように、路は色白、小柄、美人。踊りが得意な女性だったようです。
そして馬琴を助けながら、ぐんぐん筆力をあげた聡明さ、家族を支える芯の強さを持った女性。
檀れいがぴったりかな~と思います。
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